決戦、カラオケボックス⑤
下に履けるものを買ってきてくれ、とのことだったので、索理は一度カラオケを脱出し、手近な店を物色しながら時間をつぶしていた。
待ち合わせ場所での未有の服装を思い出した。ゴスロリチックな服を探すには専門店的なところを探さなくてはならないのだろうが、見当たる範囲にはありそうもない。せめて色を合わせれば違和感はないだろう、と考えていたのだが、店にあったのは厚手の生地を使ったスカートばかりだった。
無難にデニム系も探してみたのだが、考えてみれば、未有がパンツスタイルでいるところを見たことがない。未有が上に着ているゴスロリっぽいシースルーに合わせるにはやや相性が悪そうだ。
結局、抜群に相性のよさそうなものは見つけられず、索理は急にセンスを問われることになった。女装歴の全てを引っ張り出して出した結論は、原色に近い赤色の上から黒と白の線でチェックが描かれたミニスカートだった。平成アイドルみたいっていわれたらどうしよう。
不安になりながらカラオケに持って帰れば、未有は部屋のドアを僅かに開け、文句も言わずにそれを受け取ってくれた。
「着替え終わったぞー」
「う、うん」
そんな声と共に再度ドアが開き、索理はようやくカラオケルームに戻ることを許された。
索理が調達してきたスカートは、思いのほか未有にマッチしていた。少なくともぱっと見で違和感を拾えるレベルではない。ロックスターのような、それでいてパンキッシュなアイドルのような、ちぐはぐさを綺麗にまとめ上げた印象だ。
そんな未有はというと、新しいスカートには特に感想もなく、当たり前みたいな顔をしてソファの背もたれに後頭部を預けてだらしなく座っている。元々履いていたスカートは、索理が服を入れて持ってきた紙袋に移したようだった。
「あれ、黒河さんだけ?」
「あの二人なら先に帰ったぞ。夕木がいないうちにいろいろ喋って、なんか知らんが納得したらしい」
「あんなに怒ってたのに!? ボクのいない場で一体何があったし」
「あんなに怒らせたのはお前だろ……なんであたしがお前らの仲取り持たなきゃなんねーんだ」
じっとりと半眼で索理を捉える未有。
「あいつらは元から、お前の地雷メイクに文句があったわけじゃねーからな。あたしがお前のこと好きなわけじゃねーって話をしたら、あたしの家以外って条件付きでメイク講座の許可が下りた」
「黒河さんの家以外って、じゃあどこでやれってのさ」
「お前の家とかでいいんじゃね? 大抵お前の姉貴がいるから安心できる、とかなんとか言ってやがったぞ。要はあたしとお前が二人きりになるのが気に食わないんだろ」
「どうして?」
「わからん。全然理解できん。まったく想像もつかねーな」
索理の疑問に、未有は興味もなさそうにスマホをスクロールしながら答える。
「ま、もう怒ってる風じゃなかったのは確かだ。ただ、日を改めたそうなことは言ってたか。コーヒーぶちまけて頭が冷えたんだろ。あとでちゃんと仲直りしといてやれよ」
「地雷メイクを認めてくれる、って言うんだったら、仲直りしてもいいけどね」
「お前ってマジであの二人に興味ねーのな。友達なんじゃねーのかよ」
「友達かぁ」
索理は壁際に埋め込まれた間接照明の光を目で追いながら、自嘲的な笑みを浮かべる。
「友達ね、うん。友達の定義は広いもんね。仲間っていうほど一枚岩じゃないし、知り合いっていうほど淡白でもないし、まあ、友達かな?」
「消去法で友達の枠に当てはめる奴がいるかよ」
「えー、友達って一番無難な枠というか、とりあえずそこに入れとけ、って感じがする言葉じゃない? お弁当には当たり前に卵焼きが入ってるみたいにさ。相手に嫌われてない限りは、友達って言われて嫌な気がする人はいないだろうし」
「嫌ってるやつだけとは限らねーだろ。友達以上の関係になりたいやつからしたら、そこに放り込まれるのは納得できないんじゃねーの?」
「えー?」
何故だかこそばゆくなって、索理は苦笑いを浮かべながら、こめかみのあたりを爪でカリカリと引っ掻いた。
「そうだなぁ、うーん……ほんとにあの二人と何話してたのさ」
「知りたいならあいつらに直接聞きな」
「ちぇー」
索理は未有の対面にあるソファに腰を下ろし、足を投げ出した。苦笑いの口元はそのままに、目元から感情が消える。
「別に、さ」
少しだけ、ほんの少しだけ、索理の声には寂しさが乗っていた。
「あの二人は、ボクのことが好きなわけじゃないよ」
「……はっ」
未有が驚きとも嘲笑ともとれない息を漏らす。
二人の視線が、床に落ちたままになっていたコーヒーカップで交わる。
「……なんだ、それ」
それ以上、未有は索理に何かを訊いてくることはなかった。
しばらくの沈黙ののち、索理がぽつりと言った。
「結局、全然歌わないで過ごしちゃったけど、フリータイムの制限時間まであと少しあるよね。せっかく来たのに歌わないで帰るのはもったいないなぁ……黒河さん、歌う?」
「いいよ。このテンションで歌う気になんかなれるか。パフェ食って満足したし、歌いたいなら夕木が歌え」
「わかった。じゃあせっかくだし、新しく覚えた曲入れちゃうね」
索理が自分のスマホを操作するかのような手つきでタブレットを操作すると、デモ映像ばかりを流していたモニターに曲名が表示される。
すぅ、と肺に空気を取り込み、軽く握ったマイクに唇を寄せて、そっと声を乗せた。




