女装男子はわからせたい
「ほんっとに男って生き物は……自分の加害性を知ろうともしないどころか、それを利用することが当たり前みたいに……」
吐き出すことを始めてしまえば、内から溢れ出した感情は頭を通さずに次々と口をついて出てきた。
五年間もの間ため込み、飲み込み続けてきたものが、何物をも飲み込まんとする激流となる。
「加害性って……俺はそんなつもりじゃ──」
「そういう無自覚なところが嫌いだって言ってるんだよ! どうしてわからないのかな? 自分がどれだけの人間を傷つけてきたか、意識していないからそんなことが言えるんだろうね。そういうところも無理すぎ。生理的に受け付けない」
「……」
「大体、どうしてこの流れで告白してくることになるのかな? ボクの気持ちなんて一切考えてない、ただ自分の行いにつじつまを合わせるためだけにそうしたんだよね。口だけの謝罪をして自己満足に浸って、相手に与えてしまった傷には興味もない。それと何が違うのかな」
「違う、俺は本気で……」
「本気だったら普通、自分のことを嫌いだって言ってる人に告白なんかしないと思うけど? ああ、いつも告白される側だから知らなかったのかな。それなら好きでもない相手に告白されたときの気持ちくらい、想像が付きそうなものだけど……だったら今教えてあげる。告白っていうのは、関係を築き上げた相手との、最後の気持ちの確認行為だよ。嫌われている相手の気持ちを一気に裏返しにしてしまえるような、一発逆転の手段じゃない。こんなの、自分の身分をわきまえた陰キャの間じゃ常識だよ」
索理の剣幕に、奏士は口を半開きにした中途半端な顔のまま、ぴくりとも動くことができていない。
「ボクに興味があるようなことを言っておいて、本当はボクの気持ちなんかどうでもよかったんだよね? だからこんなことができるんだよね? ボクの何が好きだったのか知らないけど、さっきの言い草だと顔かな? 女装してる男なんて大方、可愛い格好して男の気を引こうしてるんだろう、って解釈しちゃったんだよね? それでボクの恋愛対象が男だって勘違いしちゃった? ……最悪」
自分以外の誰にも向けたことのないような軽蔑の視線で、奏士を鋭く射貫く。彼は目を見開きながらも、目を逸らそうとはしない。
「女装している人間の中には、確かにそういう人もいるよ。でもボクがそうだとは限らないよね。一度も、少しの確認すらしてくれようとせずにキスしようとしたよね。横野くんが、坂本くんや西岡くんにいきなりキスされたら、気持ち悪い以前に頭がおかしいとは思わない? こんな見た目だけど、ボクにとっては同じことだよ。相手がどういう気持ちだろうと関係ない」
「……その通りだ」
「こんなこと、少し考えたら分かると思うけどね。それにさっき、自分の気持ちもよく分からないって言った? それなのに告白したのって、ボクを傷つけたことに対する贖罪的な意味で、自分も振られて傷つくことで勝手に両成敗だと思おうとしてない? ボクを使って自分を納得させようとしてない? そういう予防線の上で、どういう結果になっても自分の心を守るために、横野くんはボクに告白した。ボクにはそういう風にしか見えないな」
「……」
いよいよ黙りこくってしまう奏士に、索理はなおも畳みかける。
「それとも、ボクが男だってことがよく理解できてないのかな。黒河さんにも言われたんだよ。たまに女の子にしか思えないときがあって、距離感を見誤っちゃうときがあるって。──だったらはっきり教えてあげる」
索理は自分の頭に手をやった。劇のためにセットされた毛束の奥を探り、ウィッグと地毛を抑え込むネットの間に指を滑り込ませ──勢いのままに、偽物の髪を取り去る。
「っ」
「どうかな、これでもまだキスしたいって思う?」
黒髪の下、ヘアネットすらもなくなったそこに、奏士の目が釘付けになる。彼の目には今、スポーツ刈りよりもさらに一回り短い、夕焼け色の髪が映っているはずだ。
白雪姫のメイクはそのままだが、だからこその強烈な違和感が彼の中に生まれているはずだった。長い髪には骨格を隠すという意味も含まれている。ただ単に女子がばっさりと髪を切ってきたのとは話が全く違う。今まで隠されていた頬骨の突っ張りや頭自体のサイズ感が浮き彫りになっている。
奏士の言葉を信じるのなら、彼は根っからの同性愛者というわけではないはずだった。索理という人間の現実をありありと見せつければ、素直に引き下がってもらえると思っていた。
「いや……」
それでも、奏士は強情だった。真正面から索理の変化を受け止め、その上で踏みとどまっている。
「それでも、俺は夕木くんが好きだ」
「うるさいッ!」
好きだ。意志を曲げずにそう言い続けることだけが誠意だと思っているのなら、彼は未だに大きな勘違いをしている。
顔で足りないならば肩幅だ。真っ平らな胸でもいい。窮屈な白雪姫のドレスを思い切り引っ張る。巡理が急ピッチで縫いなおした箇所がブチブチと音を立てはじめる。怒りに任せて引き裂くと、くっきりと浮き出た鎖骨が露わになる。中に着ていた薄手のキャミソールを脱ぎ捨てると、奏士がハッとして、索理の暴挙を止めようと手を伸ばしてくるのが見えた。
その手が肌に触れた瞬間、ステージでそうしたよりもさらに強く、衝動に任せて彼の肩を突き飛ばした。やはり彼は仰向けに転がる。倒れ込んだ胸の上で馬乗りになり、索理はなおも自分の纏う服に手をかけた。
「夕木くん、ダメだ、それ以上は──」
「こうしないとッ! わかんないんでしょッ!」
スカートを大きくめくり上げて裏返し、コルセットに挟み込んで固定する。見られることを前提とした、フリルつきの真っ白なドロワーズ。ゆるいゴムで留まっているだけのそれを、思い切り引き伸ばして下に降ろす。
薄暗い闇の向こう、奏士が必死に訴えてくるのが聞こえる。彼が纏う甘い香りが、奏士との距離が限りなく縮まっていることを知らせてくる。頭の中ではけたたましい警鐘が鳴り続けている。
その全てを振り切って、奏士の眼球と、男女の違いを決定的なものとしているその部分とを隔てる最後の一枚に手をかけた。
「本当にダメだ! 俺は君のこんなところが見たいわけじゃない!」
見たいわけでないのならなおさら好都合だ。そりゃあ見たくないだろう。彼の中で出来上がっていた夢を粉々に砕くためにやっているのだから。
あと一枚だ。あと一枚。それで、この男が抱いてしまった幻想を葬り去ることができる──
──ぱしゃり。
「……え?」
フラッシュと共に、乾いたシャッター音が聞こえた。
音の方を振り返る。奏士がやってきたきり、開けっ放しになっていた空き教室の扉。その向こうからは、廊下を全速力で駆けていく靴音だけが聞こえていた。
学園祭編はここまでです。読了いただいた方、ありがとうございます。
かなり人を選ぶ内容になってしまったかもしれませんが、この作品の核心に少しずつ近づいています。
このような強い引きの中で申し訳ないのですが、事情により以降の更新頻度が一時的に大きく落ちます。詳しくは活動報告にまとめましたので、ご覧いただき、ご理解いただけるとありがたいです。
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繰り返しになりますが、続けて読んでいただいている方々、本当にありがとうございます。自分の作品の中では圧倒的なpv数、評価を叩き出しており、感無量です。
作品自体に飽きたということは一切ありません。気長にお待ちいただける方は、ブクマ、評価などでモチベをぶち上げてくれるとうれしいです。




