【第2章】宇宙艦隊オッパリオン058話「Zリーヌンスと母乳力の使い方(前編)」
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宇宙艦隊オッパリオン本日も出航です!!
宇宙艦隊オッパリオン第58話前編の更新になりました。
フレイアと共に、謎の機械生命体の導きにより枯れた森を進む翔平。
その先には果たして何が待ち受けているのか!?
謎の深まる惑星ベールヌでの冒険は進む!!
【〇五八 Zリーヌンスと母乳力の使い方(前編)】
先を行くロボットに続いて枯れ木の森を進むことしばらく――少し先を行くフレイアは無言で周囲を警戒しているように見えた。
時折吹いていく風はひどく乾いていて、土の臭いを載せている。
ロボットは母乳力との融合と言っていたが、具体的にどんなことをするのだろうか、翔平には見当もつかなかった。
「ついたみたい」
先を行っていたロボットが止まったのを見て、フレイアが言った。
「見て」
「え?」
フレイアは少し盛り上がった土の上に乗り、視線の先を指さした。
翔平が目を向けたその先には――。
「これって……」
そこにあったのはクレーターのように抉れた地面だった。
規模はかなり大きく、向こうの端は見えない。抉れた地面は灰色に乾いた土でひび割れている。
「クレーター?」
「そう……かな? でもちょっと違うような」
フレイアはクレーターのような場所を見つめながら、なにかしらの違和感を覚えているようだった。
「ここは数百年前、湖があった場所です。マーラ族が移住の際に水資源をすべて持って行ったので干上がりました」
「湖だったのか……。しかし水を全部持ってくなんてすごいことするな……」
「星間移動をするのに資源を大量に持って行ったのね。今と違って循環技術なんかも発展してなかった時代だろうから」
風が吹き、そう言ったフレイアの髪を流した。フレイアは髪を押さえる。
「それで、ここに連れてきたってことはここになにかあるってことなんでしょう?」
「はい。おふたりにはここでZリーヌンスと母乳力の使い方を会得してもらいます。おふたりの力でここの湖を復元してみてください」
ロボットは翔平たちを正面に捉え、無機質な顔のままそんなことを言った。
その言葉を受け、フレイアは目を丸くした。
「湖の復元? ちょっと、あたしたちは工事業者じゃないって。なにか勘違いしてるんじゃない?」
「いいえ。Zリーヌンスと母乳力を使い、水を生み出してもらいます。Zリーヌンスは創造の力――星を救うその力を持ってすれば可能なことです」
「本気……?」
フレイアは呆れたように息をつく。そしてどうするのかと問うように翔平に顔を向けた。
「ここは……やってみるしかないんじゃないか?」
「やっぱそうなるか」
答えはわかっていた、とでも言うようにフレイアは苦笑を浮かべた。。
翔平も釣られて微笑んだ。
「では、やり方を教えます。――Zリーヌンスは精神的なエネルギーなのであなたは冷静でなければなりません。願うこと、想像することは大事ですが、強い執着を持てばZリーヌンスはその効果を発揮しにくくなる特性があります。ただ純粋に願うのです」
ロボットは淡々とそう説明した。
「純粋に願う……。案外難しいな」
「Zリーヌンスを持つ者は母乳力を感じて受け入れ、母乳力を持つ者はZリーヌンスを感じてそれを受け入れる――そして両者の中でふたつを融合させ、願いを重ねる――そうすることであらゆることが可能となります」
ロボットは胸の前で祈るように手を組んで見せた。
「感じる……か。あたしは母乳力もZリーヌンスも感じられるけど、ショウヘイはどう?」
「うーん……母乳力をはっきりと感じたことはないかな」
「搾乳した時も感じなかった?」
「それは――」
思わずフレイアの胸に目が行ってしまった。
この眼前にある胸に触れ、揉んで母乳を搾ったことを思い出すと気恥ずかしさが込み上げてきてしまう。
「どうなの?」
「なにかを感じたような……気はする」
「なら大丈夫じゃない。案外簡単かも。やってみましょ」
「そ、そうだな」
「挑戦してみてください」
ロボットにも促されるように、翔平とフレイアは湖だった跡地の縁に立った。
「――とは言え、母乳力を出すなんてどうやるんだろう? 機動兵器に乗ってる時は搾乳されるから出てるってわかるんだけど、そうじゃない時は母乳力なんて自然に出てるものだからね」
「自然に出てるなら俺がそれを感じればいいんじゃないか? やってみよう」
「お願い。あたしもZリーヌンスを感じてみる」
「よし――」
翔平とフレイアはどちらからともなく目を閉じた。視界を封じ、力を感じるべく神経を研ぎ澄ませる。
翔平はゼータリオンに乗っている時のように、Zリーヌンスを解き放つイメージをした。同時に周囲の空気の中から母乳力を感じ取ろうとする。
「…………」
一メートルと離れていない位置にフレイアがいるので、母乳力は確実に存在するはずという考えがあった。だがどうすればそれを感じ取れるのかがわからず、翔平はとりあえず五感を研ぎ澄ませる。そばにいるフレイアを感じようとするとフレイアの香りのようなものが感じられる。
戦闘をする人間とは思えない、かすかに甘く柔らかな香りは確実にフレイアを感じさせた。だがそれは母乳力ではなかった。
「感じる……」
思わずそんな言葉が口からこぼれ出た。
空気の中になにかがあるのはわかる――それをどう掴むのかがわからない。
そんな時、ロボットが言う。
「母乳力を感じたら、Zリーヌンスを感じたら引き込むのです。自身の中に引き込み合い、力で繋がり合うのです。それこそが力の融合――」
「繋がる……」
フレイアがそうつぶやいた。
フレイアはZリーヌンスを感じられているのだろうかという思いが頭をよぎる。そもそも、自分はZリーヌンスを発現できているのだろうか。
ゼータリオンに乗っている時のような、胸の奥の熱は感じられない。むしろ普段より落ち着いてしまっているようにさえ思える。
「ショウヘイ、どう? 感じれてる?」
声をかけてきたフレイアの方を見ると、フレイアは片目を開けてこちらを見ていた。
「いや……正直よくわからない……。フレイアの方はどうだ?」
「うーん、ぼんやりとは感じるかな。もっとぶわーっと出してくれていいよ」
「そう言われてもな……」
クァードにいる時やゼータリオンに乗っている時と違い、今は力のイメージがしづらいという感覚があった。過去の経験上、迫る危険をなんとかしようという意識からZリーヌンスへ働きかけのようなものができたが、今はどうもうまくイメージができなかった。
「母乳力もしっかり感じてよ。ほら」
と、フレイアは不意に翔平の両手を取った。
突然の接触に翔平は思わずどきりとしてしまった。
「フレイア――」
「繋がってた方がいいんじゃない?」
そう言ってロボットの方を見るフレイアだったが、ロボットは首を振って見せた。
「いえ、物理的な接触は関係ありません。過去のZリーヌンス発現者は母乳力と物理的な接触をすることなく力を発現させていました」
「だってさ。残念?」
フレイアは楽しそうに微笑み、翔平に片目を閉じて見せる。
「残念ではないけどさ」
しかし手は離さないままだ。
「もう一回。せめて母乳力は感じてよ」
「わ、わかった」
フレイアに掴まれた手から、グローブ越しでもフレイアの体温と柔らかさが伝わってくる。だがこれは母乳力とは違う。
――母乳力とはオッパリオン人から出ている生体エネルギーのようなものと、ミィアルーンから聞いたことがあった。そうなのだとしたらフレイアの体からもそれは発せられているはずに違いはない。
周囲の空気になにかを探すように神経を巡らせると、その空気の中にふわりとした弾力のようなものを感じたが、それは微々たる感触だった。しかし――。
「あっ」
「えっ? どうしたの?」
「今なにか感じたような……」
「本当?」
フレイアが顔を見上げてくる。
「なんかこう、空気の中に柔らかいものがあるような、そんな感じだった。あれが母乳力か……」
「そうかも。少し前進ね」
言うとフレイアは翔平の手を離し、たたっと数歩翔平から離れた。
「フレイア?」
「長くなりそうだから一度クァードに連絡を入れてくる。ショウヘイはここで待ってて。危険はなさそうだしね」
「あ、じゃあ俺も――」
「ひとりで大丈夫。すぐ戻るから。待ってて」
そう言うと、フレイアは翔平を残し走り出して行った。
「フレイアは言ったらすぐだなぁ……」
残された翔平は思わずそんなことをつぶやいた。
少し離れたところに立つロボットが顔だけを翔平へと向ける。
「うん?」
「あの方とはもう長い時間を共にしているのですか?」
「そうでもないよ。いろいろなことはしてきたけど、まだ会ったばかりって言ってもいいくらいじゃないかな」
「そうですか。しかし時間は浅くともお互いに繋がりを得るには十分な経験はされている、ということですね」
「どうだろう? でも少なくともフレイアがどんな人かはわかってるつもり……いや、どうだろう、本当はフレイアのことはなにも知らないな。一緒に戦ってはいるけど」
「人とは難しい――だからこそ、Zリーヌンスと母乳力を合わせる力はお互いの繋がりを鍵としたのでしょう。不用意に発現してしまわぬように」
「なるほど」
ロボットの言葉からも、繋がりを得るのは難しいことなんだと翔平は汲み取った。しかしそれをなさなければならないこともわかっている。
フレイアのことをもっと知れば繋がりを得られるのかもと一瞬考えたが、そういうことでもないのかも知れないとそれを打ち消した。
もっと母乳力を感じる――Zリーヌンスを発現させる、今はそれに集中しようと思い、フレイアが行った先を眺めた。
◇ ◇ ◇
「繋がりか――」
軽く走りながら、フレイアはひとりつぶやいた。
言われてみると、自分は意外と人との繋がりは希薄に感じているのではないだろうかとフレイアは思っていた。
だからもし翔平との繋がりが生じたなら――。
「それってこっちの考えまで見透かされてるなんてことは――」
もしそんなことがあったら――。
「だとしたら、ナナにちょっと悪いことをしちゃうかも――なんてね」
自身の言葉と本音に微笑み、フレイアは枯れ木の森を抜けた。
「シェアトスフレイア機、スタンバイ解除。クァードへ通信回線開いて、通常で」
機動兵器に近づいたことで、通信回線が使用可能となった。
フレイアは走るのをやめ、歩いて待機状態のシェアトスへと近づく。
『クァードへの通信回線を確立。通信開始します』
「こちらフレイアよりクァード、聞こえる?」
フレイアの声は振動として体表のナノマシンが感知し、音声として通信に載る。
『こちらクァード。通信状況は良好です』
クァードの通信士から返事が返ってきた。こちらの通信状況も良好だった。
『アリメルです。そちらの状況はどうですか?』
すると通信士ではなく、艦長のアリメルから直接通信が入って来た。
「こちらは現在地上で機械生命体らしいものと接触したわ。なんでもZリーヌンスの使い方を教えるためにショウヘイを待っていたって言ってる」
『機械生命体?』
「詳しいことは後で報告するとして、なんでも使い方の練習をしないといけないみたい。それには母乳力も必要みたいで、あたしも一緒にやることになったわ」
『……なるほど。状況はわかりました。危険はなさそうですか?』
「この星に生命体は植物以外になさそう。だから危険があるとすれば追ってくるかもしれない海賊くらいね」
シェアトスの足下に来たフレイアはシェアトスの足に背中を預けて寄りかかった。
『わかりました。こちらは現在ベールヌ軌道で警戒を続けています。なにかあったら非常回線で連絡します』
「ありがとう艦長。こっちは練習があるから、何日かここに滞在することになるかも。定時連絡はさせてもらうわ」
『お願いします。こちらは早期警戒態勢に入りますので、そちらが急襲されることはないかと思いますが、念のため用心はしておいてください』
早期警戒態勢に入るということは、リアリィたちが交代で周囲の偵察に出ているということだ。その負担は決して軽いものではない。
「わかったわ――リアリィたちに感謝を伝えておいてくれるかしら。それと――」
それとナナに――言いかけて、フレイアは言葉を切った。
『それと? なにかしらフレイア?』
「――ううん、なんでもない。こっちもがんばって早めに戻れるようにするからって、みんなに」
『わかりました。機械生命体のことは一応博士にも伝えておきます』
「それがいいかも。ではこちらは状況に戻ります」
『了解です。お気を付けて』
通信が終了すると、フレイアはシェアトスの足から体を離した。
「ナナには言えなかったか……。やっぱりちょっと罪悪感があるのかも。順番的にはナナが先なんだろうからね」
そう漏らし、フレイアはつま先でシェアトスの足を突いた。
「――さて、がんばってきますか」
空を見上げるとそこは曇り空だったが、日が暮れてくる気配が迫っていた。
「この様子じゃ灯りを持って行った方がいいかも」
急ぎ翔平の元へと戻ろうとしたフレイアだったが、一度コクピットに戻り野外活動の道具を出しておくことにした。
フレイアと翔平の特訓が始まった!!
二人は、Zリーヌンスと母乳力の融合を果たし、無事クァードへと戻ることができるのだろうか?
機械生命体に促された特訓は続く!!
次回058話後編もお楽しみに。




