【第2章】宇宙艦隊オッパリオン057話「海賊たちの思惑」
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本日も宇宙艦隊オッパリオン、出航ー!!
翔平とフレイアが謎の惑星ベールヌを探索に出ていた一方その頃。
アルガノス率いるマーラ人の海賊一行は、皇太子の手引きにより補給を受けることとなった。
海賊達の思惑はどこへ進んでいくのか?
そして、翔平達はオッパリオン星を救うことはできるのか?
オッパリオンを巡る戦いは続く!!
【〇五七 海賊たちの思惑】
ラメル宙域を脱したグアデリアは小惑星群に近い宙域に停泊し、損傷を受けた箇所の修理を行っていた。
「修理の進行状況はどうだ?」
「大方終わったとのことで。通常航行には問題はありませんな。しかし連中とやり合うにはやはり万全で臨みたいところです」
「そうだな。それももういい加減なんとかしたいところだな」
そんなやり取りをしている中、レーダーを監視していたセンサー士は接近してくる艦影を捉えた。
「キャプテン、接近してくる艦影があります。数は三」
「海賊艦に近づいてくる馬鹿はどこの馬鹿だ?」
「これは……帝国の艦です。バーナバル級二隻と、もうひとつはラープ補給艦です」
補給艦と聞き、副長はアルガノスの顔を見た。
「ほう、本当に補給艦を回してくれたわけか。返事を聞いた時は信じられなかったのだがな」
アルガノスは笑みを浮かべた。本国からは補給艦を回すという連絡を受けたものの、実際には半信半疑でいたからだ。
「偽装してくると思いましたがそのままのようですね」
「そんな暇もなかったというところだろうな。こんな辺鄙な宙域じゃ誰に見られることもないだろう」
海賊は事実上黙認されているものの、帝国は名目として取り締まっているということにしている。実際に帝国からの補給を受けているというのは通念上好ましくないものの、これが現実だった。
「バーナバル級艦ベックルから通信入りました」
「繋げ」
「主モニターに回します」
すると主モニターにはアルガノスと同年代の、壮年のマーラ人が映った。
「おまえは――」
『ようアルガノス、補給が必要と聞いて来てやったぞ』
「ザーキル……どうしておまえがここに来た?」
そこに映った人物はアルガノスにとっては旧知の人物だった。
『わははは! ちょうど新兵どもの訓練を終えたところでご指名をいただいてな。俺に直接くる命令なんてどんな汚れ仕事かと思ったら海賊への補給というとんでもない任務だったというわけだ』
「ふん、大人しく教官だけやっていればいいものを。出しゃばりなやつめ」
『まぁそう言うな。こうして訓練を装って来てやったんだぞ。母乳と食糧と、ちょっとした手土産も持って来たんだ、喜べ』
「そいつは歓迎する。だがあまり時間をかけているわけにはいかないからな。さっさと受け渡しに入ろう」
『おうよ。こちらも海賊と長く接しているのは具合が悪い。受け入れ体制に入ってくれ』
「わかった。よし、受け入れ体制に入れ。――他の艦隊へも補給は出ているのか?」
『ああ、出ているよ。俺の部下が当たっている。あっちにも母乳が補給されるからな。なんでも潜伏してる特務艦を探しているということだったな』
秘匿している情報が補給部隊に漏れていることに不満はあったものの、それは補給を受ける上で仕方のないことでもあった。
アルガノスは別行動をさせている部隊も気にかけていたが、補給を受けられるようで少し安心した。
『そんな面倒ごとを負っているおまえたちには同情したくなるな、わっははは』
「笑えることか。気楽なやつめ」
『十年ぶりになるがおまえは相変わらず真面目だなアルガノス。だからこんな任務を任されるんだろうがな』
「補給艦接近、相対速度同調開始――同調しました。補給用ハッチを開きます」
「よし、続けろ」
『俺もそっちに顔を出させてもらおう。せっかくの新型艦とやらを見ておきたいからな』
「見学はお断りだ」
『まぁそう言うな。ちゃんと補給物資が積み込まれたかを確認する義務もあるんでな。じゃあまたな、通信終わるぞ』
「物好きの暇人め」
アルガノスの悪態を笑いながらザーキルは通信を終了した。その頃、グアデリアのとなりには補給艦が到着しており、機動兵器発進用のカタパルトハッチに向けコンテナレールを延ばしていた。
グアデリアはハッチを開き、レールと接続する。
「補給艦との接続を確認。物資搬入を開始します」
「ああ、なるべく手短に済ませるようにな。俺も現場に立ち会ってくる」
「わかりました」
副長に艦橋を任せ、アルガノスは格納庫へと向かうことにした。
物資の積み込みだけなら一時間程度で終わるのだが、受領の確認と手続きなどがある。だが自分たちは非正規部隊なので受領の手続きもしない方がいいということを、アルガノスはザーキルに直接伝えようと思っていた。
艦内に出ると乗組員たちの士気は高く、皆はいつになくてきぱきと動いていた。補給物資が届くというのは前線において嬉しいことだと、アルガノスは実体験から知っていたので乗組員たちになにかを言うことはなかった。
格納庫へと行くと大型のコンテナがゆっくりと搬入されていた。作業そのものは単純であるのだが、大型の物質が動くため現場には緊張感がある。
「うむ、いい手際だな。ザーキルの仕込んだ兵士たちか」
アルガノスが密かに関心しているところに人影が近寄ってきた。
「おぉ、来たかアルガノス」
「久しぶりだなザーキル」
大柄のアルガノスよりもさらにひと回りほどの巨躯を揺らしながら、ザーキルが近づいてくる。
「いい艦じゃないか。五機も積めてまだペイロードに余裕がある。もっと積めたんじゃないか?」
「これくらいでいいんだ。多ければいいというものじゃない」
「ふむ、おまえらしい判断だな。速度もかなり出るそうじゃないか。武装もしっかりしている。この艦を持ってしても任務はままならんのか?」
「ああ、思っている以上に苦戦してるのが現状だ」
「ふふふ、正直だな。苦戦するおまえを見ることができたのは幸運だ」
「言ってろ。――母乳はどれくらい回してくれたんだ?」
「貯蔵庫を三回は満タンにできるほど持たされた。破格の待遇に驚いたさ。これだけありゃ都市部が半年は生活できる量だ」
「この艦が大飯食らいでな。おまけに機動兵器もそうなってる。しかしそれだけの量を回してくれたとなると心強いな。行動に制限がなくなる」
積み込まれるコンテナを眺めながらアルガノスは満足げに腕を組んだ。
正規の補給艦に加えてのこの待遇に怪しさすら覚えるところがあるくらい、今回積み込まれた母乳量は破格のものだった。
「ところで息子は元気か? もうそろそろ学生も終わる頃じゃないのか?」
「――死んだよ」
「――は? なんだって?」
「五年くらい前か。肺症でな」
「……う、嘘だろ? 悪い冗談はよせ。あいつが、あいつが死ぬわけはないだろう。俺にだって話してくれたんだぞ、将来は植物学者になってマーラ星でも作れる作物を見つけるんだって」
ザーキルは慌てていたが、アルガノス本人は落ち着いていた。しかし、顔は合わそうとしなかった。
「嘘だったらよかったんだがな。その学者になる都合、野外での土壌研究が多くてな。それで肺症になったんだ」
「そ、そうだったのか……。それはすまない。つらいことを聞いた」
「過ぎたこと……だと思うようにしてる。正直、妻が死んだ時よりもつらかったよ」
「……一時は軍を辞めたと聞いていたが」
「妻が死んで軍を辞めたんだ。息子との時間を増やそうと思ってな。その矢先のことだったよ」
「そうだったのか……。つらい思いをしたな。なのになんで軍に戻った?」
「死んだような日々を過ごしていたが、ある日とある人物が直接尋ねて来てな。俺なんかが会えるような人物じゃないような人がな。俺にしかできないことがある、星を救う手伝いをして欲しいと言われたんだ。息子も言っていたよ、星を救いたいとな。だから協力することにしたんだ」
「…………」
独り言のように言うアルガノスの言葉を、ザーキルは神妙に聞き入っていた。
「なるほどな……。詳しい事情は聞いていないが、重要な任務に違いはなさそうだな。ドドーバン作戦の英雄アルガノスでなければできないようなことなんだろう」
「英雄はよせ。そんな柄じゃない」
「功績は功績だ。今度の任務もまたひとつの手柄になるだろう」
「海賊の手柄なんてたかが知れてるだろう。今の俺は正規軍じゃない」
「おっと、そうだったな」
ザーキルはにやりと笑みを作った。するとその背後からドロアズがやってくるのが見えた。
「キャプテン、少しいいか?」
ドロアズが声をかけてくる。
「どうされたかな?」
「積み荷の中に見慣れない機動兵器が入っていた。あれはどういった素性のものかな?」
「おぉ、あれか」
ドロアズの言葉を聞いたザーキルは体をドロアズの方へと向けた。
「これは補給部隊の指揮官殿。仮面姿のご無礼を許していただきたい」
「ふむ、そちらもなにか事情があるのだろう。深くは察せぬよ。積み荷の機動兵器の件だが、あれは試験運用を終えたばかりの新型機だ。性能はずば抜けているものの扱いに問題があって採用は見送られたものだ。だがこの部隊にはあれを乗りこなせる者がいるらしく、その者に宛てて送られたものだよ。ちょっとした手土産とはこいつのことだ」
「ほほう」
ドロアズが仮面の下で笑みを浮かべる。自分へと支給されたものと確信していた。
「新型機か。乗りこなしてみせるしかないな。整備と予備のパーツ、武装は揃っているのかな?」
「もちろんだ。引き渡しは万全のパッケージでもらっている。専属の整備士も二名こちらに配属されることになっているよ」
「それは心強い。ではさっそく説明を受けてくるとしよう。ありがとう指揮官殿」
「礼には及ばんよ、仮面の海賊殿」
新しい機体に心躍らせたドロアズは早々に去って行った。
「怪しい風体の男だろう?」
「ああ、だが……俺はあの男を知っているぞアルガノス」
「……なんだって?」
ザーキルはドロアズの去って行った方を見つめ、怪訝な面持ちを浮かべていた。
「どういうことだ?」
「教導隊をやっていた時に一度だけ見たことがある。――ジャクメイという男だ」
「ジャクメイ? ドロアズではないのか?」
「偽名だろうな。おまえが軍にいなかった時期のことだから知らないのも無理はないかもな。ただ、いい話は聞かない。ジャクメイは別名、母艦殺しと言われている」
「母艦殺し?」
穏やかではない言葉にアルガノスも眉を寄せた。
「機動兵器の操縦や戦術に関してはずば抜けた才覚を持つものの、母艦をないがしろにする。個人的な手柄のためなら母艦を捨てる、という話が有名でな。実際に過去三隻、母艦を沈められているそうだ」
「それは縁起でもないな。あいつは上層部が直接送り込んできたパイロットだ。作戦にも口出しできる立場でな」
「そうだったのか。俺と同じく汚れ仕事も請け負うそうだ。教導隊の演習で一度見たことがあるが、腕は確かだったよ。だが信用は置かない方が身のためだぞ、アルガノス」
「その忠告、聞き入れておくよ。同じ艦にはいるがあいつとは微妙に目的も違っていてな」
「それならなおのこと用心することだ。持って来た手土産が悪い方に働かないことを祈る」
「……わかった」
「では俺は受領手続きの方を進めてくるとする」
「いや、それはいい。海賊に受領した証拠など残さない方がいいだろ」
「俺もそう思ったがそうもいかんらしい。なにせこれだけの母乳を動かしたんだ。軍も突かれると痛いのでな。特務隊に宛てたことにしておくそうだ。今のごたごたならごまかしはなんとでもなるさ」
「ごたごた?」
「オッパリオンへの再侵攻の用意だ。軍の内部はそれでてんやわんやの大騒ぎでな。近いうちに条約破棄もあり得るとの見方だよ」
「早急だな」
「エネルギー事情がそれほど逼迫しているということらしい。噂では別の星への移民も検討されているとかいないとか」
「移民か……」
その噂はアルガノスも聞き及んでいた。軍の内外でも囁かれる噂で、どこかの植民星へ移るか、別の惑星を探すかを迫られているという状況らしかった。理由は資源不足と環境汚染だと言われている。事実、マーラ星は環境汚染を原因とした病気が蔓延している。
アルガノスは個人的に移民は反対の立場であり、亡き息子の遺志を汲んで星の再生を願う立場に身を置いていた。
「まぁ噂だがな。しかし再侵攻はそう遠くない将来に起こるだろうよ。俺もおまえもまた駆り出されるな」
「もっと若い者がいるだろうに」
「軍は実績を重視するんだよ。おまえのような英雄が指揮を執るとなると皆が喜ぶ」
「英雄はよせ」
「いいんだよ。おまえはマーラ星の英雄だ。皆がそう思ってる。俺もそう思ってる」
ザーキルはアルガノスの肩を叩くと、踵を返した。
「外装をやられていたな。修理班も乗せているから修理に当たらせるとしよう。強敵とやり合ってるようだから、万全の状態で送り出してやるよ」
「そんな暇はないのだがな……まぁ、頼むとしよう」
「任せろ。俺の部下は優秀だぞ、俺に似てな。わははは! じゃあなアルガノス、マーラ星に戻ったらあの店で一杯やろう」
「ああ、そうしたいものだ」
そんな言葉を残し、ザーキルは格納庫の奥へと消えていった。
旧交を感じたアルガノスではあったが、ザーキルの言葉で気にかかるものもあった。
「母艦殺しか……」
ドロアズの素性を自分はすべて把握しているわけではない。第一皇太子が直接送り込んできたということ以外の情報は開示されていなかったのだ。
味方ではあるが、味方ではないその者に、アルガノスは警戒感を強めておこうと思った。しかし、彼に頼らねばならない部分があるのも事実であり、そこは加減の難しいところだった。
「まったく、余計な悩みを増やしてくれる」
アルガノスは苦笑すると艦橋へと戻ることにした。
◇ ◇ ◇
「おかえりなさいキャプテン」
「外装の修理をやってくれることになったそうだな」
艦橋に戻るなり、アルガノスはそう言った。
「はい。修理班が取りかかるそうです。装甲を直してくれるそうで」
「そうか。時間はどれくらいかかる?」
「三時間ほどとのことでした」
「結構かかるな。まぁいい。その間にZリーヌンスでも探すとするか。反応はないのか?」
センサー士に声をかけるが、センサー士は首を振った。
「反応は掴めていませんね。ですが向かった方向にエネルギーの残滓のような反応が残っているのを先ほど感知しました」
「どこへ向かった?」
「ロマニール銀河団方向ですね」
その言葉に、アルガノスは副長と顔を見合わせた。
「それは間違いないのか?」
「確定はできませんが、向かった先にはその星系しかないです。なのでそこに向かったと思うのが妥当かと」
「……ふむ」
ロマニール銀河団と言えば、マーラ人にとっては特別な場所であったが、それは同時に忘れなければならない場所でもあった。
「正直、あまり近づきたくはないですな」
副長が本音を漏らした。
「あそこに好き好んで行くマーラ人などいるものか。聞くまで俺だって忘れていた。修理と補給が終わるまでそっち方面の監視に注視だ。なにか反応があったらすぐに知らせろ」
「了解です」
母艦殺しの件と言い、ロマニール銀河団と言い、どうも不吉な言葉が続くとアルガノスは思った。
それに長い間輪っか付きと合流する気配を見せない付録艦の思惑も気になるところでもあった。
連中はなにをしているのか――。ラメルに立ち寄ったことも、ロマニール銀河団方面へ向かったことも、なんら合理性ある答えを得られない。まるで自分も、付録艦もなにかに振り回されているように思えた。
「別行動中の僚艦へ連絡だ。一度状況を伝えろと」
「通信封鎖中ですが構いませんか?」
「ああ、構わん。向こうも補給を受けている可能性があるからな。補給部隊が近づけば輪っか付きはこっちを察知するだろう。だが向こうから仕掛けてくる可能性は低い。やつらは時間が欲しいのだろうからな」
「了解しました。通信を入れます」
あちらの状況によっては輪っか付きの探索を打ち切り、付録艦のみを叩くのもいいかとアルガノスは考えた。
もしかしたらロマニール銀河団のあの星で決戦になる――そんな考えが頭をよぎったが、それはひとつの可能性として残す程度にとどめることにした。
アルガノスとドロアズはクァード隊とスタティア隊の追撃に向かう。
新機体により更なるパワーアップをするドロアズの脅威に、オッパリオン人は太刀打ちできるのだろうか?
母乳力をめぐる宇宙の戦いはまだまだ続く!!
引き続き応援よろしくお願い致します。
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継続の励みにさせて頂いております。
次回もお楽しみに!!




