【第7章】宇宙艦隊オッパリオン455話「尻尾をつかまれる」
本日もやってきましたオッパリオン!!
今話はのほほん平和回。
はたして、尻尾を掴まれるのは誰なのか?
密偵と化した双子のワンコニー星人の命運は如何に!?
【四五五 尻尾をつかまれる】
「トリアルダの発進を確認。重力圏より離脱します」
アルガノスはミルアティルスの艦橋でその報告を受けた。
ミルアティルスはその巨大さ故に通常の運用とは異なり、まずはラメルの軌道上へと浮上し、そうした上で地上からの物資積み込みを受けていた。
煩雑ではあったが、一度重力下に入るとその離脱が思いの他時間がかかることがマーラ星での運用で判明していた。
「大きいのも困りものだな。小回りが効くのがうらやましく思える」
そう愚痴をこぼしながら、カードベイに入るシャトルの信号を確認する。なんでもラメルの商会からの土産が多いらしく、断るわけにも行かずに積み込んでいるということだった。
「外交も大変なものだな。提督や皇女殿下はよくやっている」
そう言っていると、艦内警備からの直通の通信が入った。
「アルガノスだ」
『艦内警備です。今到着した貨物に紛れて二名の密航者がおり、捕縛しました』
「密航者だと?」
『はい。ラメルからの密航者です』
「わかった。先ほどのテロの件もある。人を向かわせる。密航者の様子はどうだ?」
『それが……泣いています』
「泣いている?」
『置いて行かれるのは嫌だと』
「なんだその主張は? まぁいい、人を回す」
アルガノスは通信を一度切り、親衛隊控え室を呼び出す。
『レーナです』
「レーナ隊長、忙しいところすまないがカードベイに密航者が出た。対応に当たってもらえるか?」
『密航者? わかりました。急行します』
レーナはそう応じるとすぐに通信を切った。
「面倒ごとは避けたいものだな」
アルガノスはそう言いながらあごをなで、進む発進準備の報告に目を走らせた。
◇ ◇ ◇
「びえぇ~! 帰りたくないです~!」
「強制送還は嫌です~!」
レーナがカーゴベイに行くとすぐに聞き覚えのある声が耳に付いた。
「おまえたちは……」
艦内警備員数人が集まっている場所に行くと、そこには手を拘束されたペロルとナデルが座らされていた。
「ペロル、ナデル?」
「あっ! レーナ隊長!」
「わたしたちです! お守りシスターズです!」
ふたりはレーナが来ると泣くのをやめ、笑顔を見せた。
「密航者とは……まさかおまえたちのことか?」
「レーナ隊長、知り合いですか?」
警備員がそうたずねたので、レーナは少し困ったような顔でうなづいた。
「あ、あぁ。ラメルでの件で世話になった……? まぁ、そうだな、世話になったふたりだ」
「よかった。テロがあったと聞いていたのでテロリストではないかと思いました」
「危険な人物ではない。身元もはっきりしている。ボタンさんの専属警備をしていたふたりだ」
レーナがそう言うと、警備員たちの緊張も和らいだようだった。
「おまえたち、どうして密航なんか?」
「お願いします! わたしたちもオッパリオンへ連れていってください!」
「お願いします!」
「たしかボタンさんから残るように言われたのではないか?」
「うっ」
「うぅっ」
痛いところを突かれたというように、ふたりは顔をしかめる。それを見たレーナはおおよそを察する。
「なるほど。その判断に納得がいかず、密航してでもついてこようとしたのだな?」
「そ、そうです……」
「そうするしかなくて……」
「専属警備なのに留守番なんてあんまりですー!」
「せっかく専属警備になれたのにー!」
「わーん!」
ふたりはまた泣きはじめてしまった。
「いったいどうしたんですかレーナ隊長?」
「あぁ、リディル、クライヴ」
騒ぎを聞いてから、リディルとクライヴがやってくる。
「見ての通り、ボタンさんの専属警備が自分たちもオッパリオンまで行きたいとここで駄々をこねていてな」
「お願いします!」
「連れていってください!」
その様子を見たリディルとクライヴは呆れこそしたものの、うーんと頭を抱えた。
「あの……泣くのはどうかと思いますが、気持ちはわかります」
「自分もです。このふたりも警備に誇りを持っているのでしょう。それが、星を離れて旅立つというのに任務から外されてしまっては、無念というものです」
リディルとクライヴの言葉を聞き、ペロルとナデルは何度も強く頷いた。
「その気持ちはわたしもわかる。しかし……ボタンさんはふたりを危険に晒したくないのだろう」
「危険なところに行くのなら警備が必要です!」
「そのための専属警備です!」
「まぁ……それはそうだな」
レーナ隊長の説得にも力がないのは、ふたりの主張がわかっているからだった。
すると、通路の奥からボタンがやってくる。
「あの、専属警備のふたりが来たって聞いてきたのですが……あっ、ペロル! ナデル!」
「ご主人様!」
「置いて行かないでください!」
ふたりを見ると、ボタンは駆け寄ってきて険しい顔になる。
「もうっ! みなさんに迷惑をかけてなにやってるの!」
「だってご主人様が置いて行くから!」
「なんとしてもついていくしかなくて!」
「密航なんてできるわけないでしょ! ここは皇女艦よ!? どれだけ厳重なセキュリティーになってるかわからないの!?」
「それでも行くしかなかったんですー!」
「銃殺も覚悟で来たんですー!」
「バカっ! すぐにラメルに帰りなさい! 帰りのシャトルで!」
「嫌ですー!」
「わたしたちもオッパリオンに行きますー!」
「あっ! あなたたち!?」
ペロルとナデルは立ち上がり、なぜかレーナにしがみついた。
「な、なんだ?」
レーナは困惑する。
「オッパリオンの皇女殿下様に親衛隊がいるように、ご主人様にも専属警備が必要です!」
「レーナ隊長、お願いします!」
ペロルとナデルはレーナにそう訴える。
「あなたたちねぇ……。レーナ隊長を説得しようとしたって――」
ボタンが呆れて言う時、レーナ隊長がこほんと咳払いをする。
「あの……ボタンさん。あなた方の事情に口を出すつもりはない。が、ひとつ参考までの意見として……その、どうだろうか、連れていってやっては?」
レーナのその発言にペロルとナデルはパッと笑顔を咲かせ、再び何度も強く頷いた。
「レーナ隊長? それは本気ですか?」
「あ、あぁ……」
言うレーナもいつになく自信がない様子だった。そのそばにリディルが立つ。
「ボタンさん、彼女たちも自分の警備という任務に誇りを持っているんです」
クライヴもレーナのそばに立ち、穏やかに言う。
「それだけボタンさんのことを気にかけているということです。彼女たちも、危険は承知で行きたいと言っているのでしょう」
「でも……このふたりはわたしの世話はできても、機動兵器も扱えないですし……」
「それは――」
レーナが言う。
「ヴァツルド殿下の警護をつかさどるメイドたちも、機動兵器戦はできないと聞いている。そこは問題ではないだろう。ボタンさんはこれから異国の地に向かう。そこではいろいろな人に出会うことになり、もしかしたら衝突もあるかもしれない。そうなった時、ボタンさんの味方がいた方が、心強いのではないだろうか?」
レーナはそう言いながら、自分にしがみつくペロルとナデルの肩に手をおいた。
ペロルとナデルは真剣な表情でボタンを見て、何度もうなづいている。
「レーナ隊長……親衛隊の方々も……。そうですね、その通りかもしれません。わたしは自分ひとりでなんでもできるって、少し図に乗っていたのかもしれません」
「そこまでは言ってないです」
リディルがあわてて首と手を振ると、ボタンはふふっと微笑んだ。
「ありがとうございます。ペロルとナデルを連れていってもよいでしょうか?」
「ご主人様ーっ!」
「ありがとうございますーっ!」
ペロルとナデルは尻尾を振りながらボタンに飛びつく。
「いい? 連れていくけど、余計なことはしたらダメだからね? 言われたこと、やっていいと言われたこと以外は絶対にしちゃダメ、覚えておいて」
「わかりましたっ!」
「お任せください!」
「……返事はいいんだけど、なにか不安なのよね、この子たち……」
その様子を見ていたレーナふふっと笑み、生体通信を使う。
『レーナです。艦橋アルガノスキャプテンへ』
『アルガノスだ。密航者は終わったか?』
『はい。ですが、同行者が二名追加されます。よろしいでしょうか? ボタンさんの専属警備です』
『密航者の正体はそれか。密航するくらい覚悟が据わってるのなら大丈夫だろう。同行を許可する。……もたもたしていたらまた客が増えそうだ。発進を急がせる』
『お願いします』
警備員がペロルとナデルの腕の拘束を解除していた。
「ありがとうございます!」
「お役に立ちますので!」
そう言って自信に満ちた顔をするペロルとナデルを見て、レーナは思う。これから起こることは苛烈を極めると思うが、気負いすぎていてもよくないな、と。
ラメルへ降りるシャトルが発進すると、カーゴベイが封鎖され、艦内放送が流れる。
『本艦はこれよりラメル軌道より離脱し、オッパリオンへ向かいます。各員持ち場につて最終点検と報告をお願いします』
それを聞いたペロルとナデルはぴっと背筋を伸ばす。
「わたしたちも持ち場につかなくちゃ!」
「そうしよう! 発進の準備をしなくちゃ!」
さっそくどこかに行こうとしたふたりの尻尾をボタンは軽く掴む。
「ひゃぐっ!?」
「ひぎっ!?」
「わたしが言ったことを忘れたの? どこに行くつもり? あなたたちの持ち場はわたしのそばよ。わたしのお部屋をひとつ貸してもらえたから、あなたたちもそこにいなさい」
「お役に立ちたいですー!」
「がんばりますから!」
「あのね、この艦は皇女艦って言ったでしょう? みんなプロなの。素人がいたって邪魔になるだけ。プロの現場に任せておきなさい」
「そんなー」
「なにもできないなんて……」
「やることはあるわ。わたしの荷物の整理をお願い。ひとりで大変だったんだから」
「それじゃいつもと変わらないですー!」
「もっとすごいことしたいですー!」
「調子に乗らない! 一緒に行けるだけ感謝しなさいよ、特にレーナ隊長に!」
「うぅ、そうします……」
「ありがとうございます……」
少し危なっかしいふたりの扱いに慣れるボタンを見て、レーナは微笑ましく思えた。
双子のワンコニー星人ペロルとナデルは簡単にバレてしまいましたが、一緒に同行する模様。
オッパリオンの新生コメディ担当の二人にも今後注目です!?
大変な二人を抱えているラメルのスーパーアイドル「ボタン」の行く末はどうなるのか!!
桐生スケキヨ次回予告。
オッパリオン星へ戻る中、アーリアはひとり搾乳をしていた。
それは次の戦いに備えるためであるのだが、アーリアはふとあることを思う。




