【第7章】宇宙艦隊オッパリオン454話「決意と行動」
講和会議を終えたアティルーンとヴァツルド。
オッパリオンとマーラの新時代を祝う為に立食パーティーが催されていた。
ラメルの歓迎を受けるアティ皇女とアーリア提督。
そして、二人の元へとやってきたのはラメル経済団のシクレだった。
ヴァツルド達も集うこのパーティーで、一人決意を胸に秘めた少女がいた。
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【四五四 決意と行動】
「今宵の晩餐はマシ長と、ラメル経済団が手配させていただきました。主賓にはオッパリオン皇女アティルーン殿下と、マーラ帝国代理皇帝ヴァツルド殿下をお招きしております」
広い立食式の晩餐会会場でそう挨拶したのは、ラメル経済団会長のシクレだった。挨拶が終わり、晩餐がはじまると、シクレはまずアーリアの元にやってきた。
「アーリア提督、またお会いできてなによりの光栄です」
「先のラメル訪問ではお世話になりました。アティルーン皇女殿下、ラメル経済団会長のシクレ様です。先のラメル滞在のおり、会長にはお世話になりました」
アーリアはそう、となりにいたアティルーンにシクレを紹介する。
アティルーンを見たシクレは恭しくお辞儀をした。
「アティルーン皇女殿下、お初にお目にかかります」
シクレはそう言ったが、顔には意味ありげな笑みがあった。シクレはアティルーンが身分と正体を隠し、外交官ファルアとしてラメルに滞在した時に面識がある。シクレはその時のことを覚えていて、あの時出会った外交官がアティルーンの変装であると知っていたのだと、アーリアは思った。その上で、シクレは自分を手厚く歓待することで、一緒にいたファルア――アティルーンにも皇女として相応しい接待をしたのだ。シクレというこの人物は、ラメルという商売の激戦区のトップに相応しい人物だと、アーリアは思った。
「経済団会長様のこの晩餐、感謝いたします」
「アティルーン皇女殿下のご威光の前にはどんな食彩も色あせることでしょう。アティルーン皇女殿下のこのたびのご采配にはラメルを代表し、深く感謝申し上げます。先にラメルを訪れた外交官、ファルア様がこのご縁の一端をお繋ぎしたと思っております」
そして、しっかりと恩を売ることも忘れない抜け目のないものだとも、アーリアは思い、逆に関心した。
「あの時の歓待はファルアからよく聞いております」
「恐れ入ります。では、私はこれにて。今宵の晩餐をお楽しみください」
「ありがとうございます」
シクレが再びお辞儀をして去ると、有力商人たちが次々とアティルーンの前に現れる。アーリアはそんなアティルーンを守るようにそばにいるが、自分もよく話しかけられた。ふとヴァツルドを見ると、ヴァツルドも商人たちに囲まれていた。
シクレは晩餐会に来ているラムテグのところに行っているようだった。そこにはリルトとパルムクもおり、なにやら商談のようなものをしている様子だった。
晩餐会とは言うものの、ここは商人たちの戦場でもあるのだとアーリアは感じた。
「どうぞ、歓待スープをお召し上がりください」
商人が切れると、給仕係のものが料理を運んでくる。ラメルの晩餐の定番、歓待スープが運ばれてくる。
「ありがとうございます」
アーリアが料理を受け取った時、ふと会場の壁際に立つレーナたちの方からの声が耳に入った。
「どうぞ!」
「食べてください!」
「いや、警護の我々がもてなされるわけにはいかない」
見ると、レーナの前にふたりのワンコニー星人が尻尾を激しく振りながら皿を持って立っている。
「シクレ会長からお付きの方々もおもてなしをと言われています!」
「ラメルの歓待をお受けください!」
「そう言われても」
レーナと、そのとなりにいる親衛隊の面々も困惑しているようだった。
アーリアはレーナの前にいるワンコニー星人は直前に報告があった爆弾騒動で協力してくれたワンコニー星人なのだと思った。
「ふふ、よくなつかれたものね」
アーリアは思わず微笑む。
「親衛隊のみなさんもどうか!」
「どうか!」
「いや、我々は――」
レーナは押し問答のようになり困っていた。アティルーンもそれに気づいたらしく、そっとアーリアに告げる。
「アーリア提督、レーナ隊長に歓待を受けるようにお伝えください」
「ふふふ、わかりました」
アーリアはヴァツルドを警護するメイドたちの様子はどうなのかと思ったら、ヴァツルドのもとに料理や飲み物を運ぶ給仕係をやっていた。ヴァツルドのそばにはアルセメイド長が立っており、自分は何人も寄せ付けない雰囲気を醸し出している。
「……なるほど。さすがこういう場は慣れたものね。うちの親衛隊は少し経験が足りなかったのかもしれないわ」
そう思いつつも、それはしかたがないことだと思い、レーナに歩み寄る。
「レーナ隊長」
「なんでしょうか?」
「はっ!?」
「アッ、アーリア提督!?」
ワンコニー星人のふたりはアーリアを見てビシッと背筋を伸ばす。
「レーナ隊長、アティルーン皇女殿下からの伝言です。ラメルからの歓待をお受けしなさいとのことです」
「皇女殿下からですか!?」
レーナは驚いた様子だったが、ワンコニー星人のふたりは笑顔になった。
「皇女殿下がそう仰るのなら……。親衛隊各員、歓待を受けろ」
レーナはそう言いながら、ワンコニー星人のふたりが持って来た皿と飲み物を受け取った。親衛隊の近くにいた給仕係たちも、親衛隊に同じように料理と飲み物を渡す。
「ワンコニー星人のペロルとナデルですね。レーナ隊長から報告は受けています。協力に感謝します」
アーリアがそう言うと、ペロルとナデルは驚いた。
「ペロルです! アーリア提督に名前を知ってもらえ、身に余る光栄です!」
「ナデルです! 光栄です!」
「なんでも、ボタンさんの専属警備だとか。ボタンさんのステージは投影映像ですが、上空から拝見させてもらいました」
「ありがとうございます!」
「ボタンにも伝えておきます!」
アーリアは緊張しまくっているこのワンコニー星人が微笑ましく思えた。しかし、あまり緊張させているのもよくないと思う。
「引き続き、専属警備をがんばってください」
「はっ、はい!」
「がんばります!」
ワンコニー星人ふたりの前を離れると、アティルーンの周囲から商人の山が消えていた。あまりしつこくするのも下世話であると、商人たちも理解しているようだった。そんなアティルーンのところに、ひとりが近づいていた。
アーリアはその人物を知っていた。
「あれは……」
その人物がアティルーンに笑顔で挨拶していた。アティルーンも笑顔で応じると、その人物はさらに笑顔を弾けさせた。
「なるほど、人気なのも理解できる笑顔ね」
そう言いながら、アーリアはアティルーンに近づく。アティルーンに挨拶に来たのは歓待のステージを行ったラメルのアイドル、ボタンだった。
「先にヴァツルド殿下にご挨拶させてもらいました。アティルーン皇女殿下はご人気で、商人たちが多く、近づけませんでした」
「わたしの人気なんて、あなたの人気に比べたら些細なものでしょう?」
「とんでもありません。アティルーン皇女殿下のご威光は宇宙に渡っています。わたしにも自負はありますが、ラメル国内における程度です」
「あ、アーリア。こちら、歓待のステージをくださったボタンさんです」
「アーリア提督です。見事なステージ、しっかりと拝見いたしました」
「アーリア提督! お会いできて光栄です!」
魅力的な笑顔だ、アーリアは素直にそう思った。しかし、その笑顔はパッと転調し、強い意志を宿した神妙なまなざしに変貌した。
「あの、おふた方にお願いがあるんです」
「なんでしょう?」
アティルーンがたずねると、ボタンは自分の胸に手を置き、さっと周囲を見た。そして、よく通る声を潜めて言う。
「宇宙に危険が迫っていること、わたしはマシ長から聞いて知っています。おふた方も、ここでこうしている場合ではないことも、知っています」
アティルーンとアーリアは思わず顔を見合わせた。ただのアイドル、というわけではなさそうだった。
「わたしを……オッパリオンへ連れていってもらえないでしょうか?」
アティルーンはすぐに首を振った。
「それはできません。状況を知っているならご理解いただけると思いますが、オッパリオンは安全な場所ではなくなります」
ボタンは引かない。
「それも知っています。ですが、それを知った上で、わたしは宇宙の行く末を、最前線で見たいのです。そこに活躍する人々と、その人たちが守ろうとするもの、宇宙の奇跡の力を見て、語り継ぐ必要があると」
「しかし――」
アーリアが反論しようとした時、ボタンが首を振った。
「それだけではありません。わたし自身、なにかできることがあると思っています」
「それは……?」
アティルーンが聞き返した時、ふとボタンの背後からマシ長が姿を現した。
「マシ長?」
「アティルーン皇女殿下、アーリア提督。わしからもお願いする。このボタンをオッパリオンに連れていってやってはくれまいか?」
マシ長の推挙があるということはなにかある、アティルーンもアーリアもそう思った。アーリアが言う。
「マシ長がそう仰るということは……なにかあると」
「うむ。ボタンはこの通りアイドルをやっておるが、宇宙史に明るい。この知識が、オッパリオンの、今の状況を打破する鍵になると、そう見えてな」
「なるほど……」
アティルーンは頷く。そして続ける。
「安全、快適、華やか、そんな言葉からは遠い危険な旅路になりますが、よろしいですか?」
「もちろんです! わたし、こう見えて打たれ強いんです! どこでだって寝られますし、なんでも食べられます!」
「アイドルは思ったよりもタフでな。ボタン、しっかりと役に立ち、多くを学んで来るのだ」
「わかりましたマシ長! ありがとうございます、アティルーン皇女殿下、アーリア提督! では、準備もあるので失礼します!」
ぐっと力強いお辞儀をしたボタンはさっとレーナたちのところにいるワンコニー星人ふたりのところに行った。
「ペロル、ナデル、わたし、オッパリオン星に行くことになったの」
「えぇーっ!? 突然すぎませんか!?」
ふたりの声が重なっている。
「今許可をもらったの。だから、専属警備はここまで。オッパリオンへはわたしひとりで行くわ」
「そんなのできるわけないじゃないですか!」
「そうですよ! 今こそ専属警備の出番んじゃないですか!」
「余計な人員は減らした方がいいでしょ。資源だって無限じゃないんだから」
「余計ではないです!」
「専属警備は必要です!」
「もう決まったことなの。今までありがとう。ごめんね」
アーリアから、お互いの顔を見合うペロルとナデルが見えた。
「……わかりました」
「ご主人様がそう言うなら反対しません」
「ありがとうペロル、ナデル。大好きよ、それじゃ」
と、ボタンは会場から出て行った。
その後ろ姿に、ボタンの底知れない行動力の一端を見た気がした。
◇ ◇ ◇
晩餐の翌日、アティルーンとヴァツルドは本星に向けて出立の準備に入っていた。シクレは両国にたくさんの土産を用意しており、その積み込みが行われている。
空港にはその荷物を運び込むシャトルが発進を待っていた。その貨物室に、荷物に紛れて侵入したものがいる。
「ここまでは順調だねペロルお姉ちゃん」
「うん。専属警備にできないことはないのだ」
ペロルとナデルはミルアティルスに積み込まれる荷物に隠れ、密航を企んでいた。
「ご主人様ひとりをオッパリオンに行かせるなんて、専属警備の恥。できるわけない」
「うんうん。ご主人様はきっとなにか大変なことをたくらんでいるよ」
「今こそ専属警備の本領を発揮するところだ!」
「ペロルお姉ちゃん、立ったら見つかっちゃう!」
「あ、ごめん」
ふたりは息を潜め、荷物の間に隠れていた。
シャトルがミルアティルスに向け出発する。
「オッパリオン星についたらここを出てご主人様に会おう」
「うん。オッパリオン星まで来たら追い返せないものね」
「ご主人様を守るのは、お守りシスターズの役目!」
「特に、ご主人様に近づく男性は伝説の力の持ち主であろうとも容赦しない!」
ふたりは静かに燃え上がっていた。
ボタンを追いかけるペロルとナデルの行方は如何に!?
桐生スケキヨ次回予告。
次回「密航バレる」




