【第2章】宇宙艦隊オッパリオン032話「潜むスタティアと襲撃者の来訪」
宇宙艦隊オッパリオン2章、2話目の更新です。
前回のオッパリオンは、謎の宇宙艦隊の強襲を受け全滅した地球の宇宙軍。
謎の敵の正体と、その目的とはいかに。
そして来るべき再会の予兆。
果たして、この宇宙を揺るがす力の「Zリーヌンス」とその所持者翔平と奈菜はどうなっていくのだろうか?
宇宙を巡る戦いの幕が再び開く!!
宇宙艦隊オッパリオン、出撃はもうすぐそこに!!
【〇三二 潜むスタティアと襲撃者の来訪】
オッパリオン星系からも、地球――水平の銀河からも遙か離れた小惑星宙域。この宙域に息を潜める宇宙艦が二隻あった。
「状況はどうかしら?」
その内の一隻はスタティアだ。アーリアは艦橋に入るなり、立っていたミストレアにそう声をかけた。
「通常の航行は可能ですが、戦闘となると的になると言うところですね」
「思いのほかひどくやられたわね」
「まさかこの宙域で仕掛けてくるとは思ってもいませんでしたからね。完全に不意を突かれる形になってしまいました」
「今は隠れて修理するしかないか……。アスタリアはどう?」
「先ほどまで哨戒に動いていましたが敵影も見えなかったので今は近くに潜伏してもらっています。アスタリアも軽微ではありますが損傷がありますので、その修理をするとのことでした」
「わかったわ」
スタティアの随伴艦としてついてきていたアスタリアも、スタティア同様に被害を被っていた。同じく小惑星帯に隠れ、修理をしている。
「クァードの方から連絡は?」
「ジャンプ前の連絡を最後に通信封鎖をしています。完全に秘匿行動に入っています」
「……今はクァードだけが頼りね」
「そうですね。優秀なクルーとパイロットの艦ではありますが……単艦ではやはり不安もあります」
「信じるしかないわね。タイミング的には相手より早く着けるかもしれないし」
「そうあって欲しいところですね」
「提督、艦長、哨戒に出ていたマーチャ機とセルシア機が帰投しました。異常なしとのことです。続いてアリシャ機、メーティア機が哨戒に出ます」
「お願い。今襲われるのは避けたいところです」
「了解です。注意深く哨戒するよう伝えておきます」
スタティアは推進機関を損傷しており、戦闘軌道が取れない状態になっていた。随伴艦のアスタリアは装甲の一部を損傷した程度ではあるが、万全とは言えない状態となっている。
オッパリオンを出た時は三隻体制だったのが、ここに来て幸いすることになった。
「クァード、そろそろ着く頃かしらね」
「予定ではそうなりますね。敵艦もあのあとすぐにジャンプしたとなると、同じくらいのタイミングになりますが」
「上手く交戦は避けてもらいたいわね。もっとも、あの部隊なら交戦になったとしても上手く切り抜けてくれるとは思うけど」
「信頼されてますね」
「直感よ。根拠はないわ」
そう言って苦笑にも見える微笑みを残すと、アーリアは踵を返した。
「提督、どちらへ?」
「修理状況を見てくるわ。わたしが行くと急かすようになっちゃうけど、急いだ方がいいし」
「そうですね。整備員たちも気合いが入るでしょう」
「だといいんだけどね。クァードから連絡があったらすぐに教えて」
「了解しました」
ミストレアの返事に頷くと、アーリアは艦橋を出て行った。
今はクァードという艦が隊列を離れ、単艦で任務に当たっている。
今回、アーリアたちに与えられた任務はZリーヌンスの保護であった。
先だって、監視していた宙域でニュートレースジャンプを行う正体不明の艦影が数隻確認された。その行き先が水平の銀河方向ということが判明し、アーリアたちは急遽部隊を編成しその追跡に出たのだった。
そしてジャンプアウトした宙域にて突如正体不明の海賊艦に襲撃され、スタティアと随伴していた一隻、アスタリアが損傷することになってしまった。
スタティアはなんとか敵を退け、小惑星帯へと逃げ込んだのだが、敵は部隊を二手に分け、スタティアへの追撃と、水平の銀河方向へ向かった。
それを受けたスタティア隊は無傷のクァードがZリーヌンス保護のため、水平の銀河へと単艦向かうことを志願してきたため、クァードを水平の銀河へと送り出したのだった。
本当はアーリアも同乗したかったのだが、提督という立場上スタティアを置いて出ることはできなかったため、願いをクァードへと託す形になった。
「ショウヘイ……どうか無事でいて」
クァードとその目的を思い、アーリアはひとり、人知れずそう呟いた。
◇ ◇ ◇
火星軌道上。ここにはさまざまな実験や観測を行う大型国際宇宙ステーションがあった。
通常で二〇〇〇人ほどが滞在している大型のもので、実験や観測の他、将来的に火星や宇宙で働くための学生の実習施設も兼ねている。
翔平はそこで宇宙服に身を包み、船外活動をしていた。宇宙ステーションの外壁を確認し、損傷などがないかを確認するというものだった。
「……ん?」
ステーションの外壁に足をつけ、翔平はふと頭上を見上げた。
そこにはただ夜空のような宇宙空間が広がっているだけだ。
『どうした翔平? 足が止まってるぞ』
「ああ、すまない。ちょっと視線のようなものを感じて」
短距離通信を入れて来たのは同級生の田口だった。
『視線? こんな宇宙のど真ん中でか?』
「気のせいだと思うよ」
『はは、そりゃそうだろ。って、それよりも聞いたか? 今、火星周辺じゃ定期便も止められてるらしいぞ』
「そうなのか?」
『ああ。なんでもテロリストの宇宙艦が発見されたとかでさ』
「テロリストが宇宙艦なんて持ってるのか?」
『そうらしい。それで近く大規模なテロがあるんじゃないかって、軍はピリピリしてるって話だ。定期便まで止められてたんじゃ俺たちもここに缶詰だな』
「そうだな。まぁまだ滞在予定は一ヶ月も残ってるし。その頃には騒動も終わるんじゃないか?」
『だな。でも定期便は止まってても臨時の便が今日火星基地から届いたってよ。本校の学生たちが施設の見学に来るんだってさ』
「基地からならここは近いからね。許可が出たんだろう」
なにげない世間話をしている翔平だったが、気のせいと思っていた視線のようなものは未だに続いていた。
そしてはっきりと、それは気のせいではないと感じるようになっていた。
この感じはどこか懐かしくもある――半年前、遙か彼方オッパリオン星系で感じていたものに近い。
「まさかね……」
なにかが起こっている、あるいは起こるのではないかと思ったが、翔平はその思いを否定し、内へと追いやった。
あれから半年、オッパリオンは地球とは接触しなかった。翔平と奈菜も一時は異星人として接触した人物として世間に注目されたものの、物証がなにひとつでなかったことと、政府や軍の隠蔽によってあっという間に風化してしまっていた。
そんな中でも、翔平は宇宙で起こる『なにか』に備え、こうして宇宙になれようと実習に勤しむことにしていた。
翔平たちは外壁の確認を終え、移動用の小型シャトルでステーション内へと帰還した。
重苦しい宇宙服を脱ぎ、外輪部通路へと移動する。ステーションは二重の輪が回転している構造になっており、外輪部は実験と観測施設になっており、内輪部に学習施設や居住施設等がある作りになっている。
「丹澤翔平、戻りました。異常なかったです」
「お疲れ様。船外活動もだいぶ慣れてきたんじゃないか?」
学生の活動を受け付ける窓口を通過した時、管理を担当している男からそんな声をかけられた。何度もやりとりをしており、もうなじみの間柄になっていた。
「まだ緊張はしますよ」
「はは、緊張感をもって当たるのはいいことだよ。これから講義かい?」
「いえ、今日はもうないです」
「そりゃいい。もうひとりは?」
「田口は補習があるって言ってました」
「そっちは災難だな。ま、補習じゃ自業自得ってやつか、ははは」
そんなのんきな会話をしつつ、翔平はシャトル発着所を後にした。
「――おかしい」
外で感じていた視線のようなものを、未だに感じている。後頭部がじりじりするような感覚がまとわりついている。
オッパリオンから帰還した以降はなにごともなく、平穏な日々を送ることになっていたが、ここに来て不意に強くオッパリオンのことを思い出された。
自身に秘められた力――Zリーヌンスはあれから顕在化することはなく、それは今も息を潜めている。
もしなにかあれば自分にもなにかあるだろうと思うし、なにかしらの手段で連絡があるだろう、そう思うことにした。
とりあえず自室のある内輪部へと戻ろうと思い通路を進むと、目の前から小走りに近づく人影があった。
「うん?」
「翔平ーっ!」
「奈菜?」
声で、それは奈菜だとすぐにわかった。
「はー、やっと会えた!」
「奈菜、どうしてここに? 基地の本校にいるんじゃなかったのか?」
「施設の見学でここに来たの。今は自由行動。翔平の部屋に行ってもいなかったから探したのよ。聞いてみたら技能班は外で実習中って言うから、ここに来たら会えるかなと思って」
「それでわざわざ?」
「悪い?」
「いや、悪くはないけど」
翔平は思わず苦笑した。
奈菜と翔平との関係性は帰還後も特に変化はなかったものの、奈菜は人類初となる異星人との交流ということで、自身の体験をレポートとしてまとめて提出することにした。
それは奈菜の名を取り『桃ノ瀬レポート』と呼ばれ、一時は注目されるものの、政府と軍の上層部により隠蔽されることとなった。人類と異星人との接触は未だになされていない、そう結論づけられてしまっていた。
「来たのはいいんだけど、戻りの便が出なくなったみたいなの。翔平たちの実習期間が終わるくらいまで、わたしたちも滞在かもしれない」
「さっきそんな話を聞いたよ。なんだか急に物騒な話になったな」
「うん。地球もなんだか平和じゃないのかもしれないわね。……って、こんな言い方するとまた笑われちゃうか」
「そうなのか?」
「そうよ。異星人と会った人は見解が違うな、みたいなこと言われるんだから。オッパリオン星のこと、誰も信じてくれないし」
「はは、まだそんなこと言ってるのか? いいだろ別に、信じてもらえなくてもさ。真実は自分たちだけが知ってればそれで」
「翔平はそうかもしれないけど、異星文化交流を学んでいる者としてはそうはいかないのよ。せっかくの交流があってもこんな感じじゃ開かれた交流なんてできないでしょ」
「そうは言うけど、いろいろあるんだろ。大人の事情、みたいなのがさ」
「どういう事情よ、それ。わたしは翔平みたいに聞き分けよくないんだからね」
「まぁそう言うなって。ところで、なにか用があったのか?」
「え? べ、別に用ってわけじゃないけど……ただ翔平がここにいるって言うから来ただけで……」
「そうか。じゃあ中を少し案内しようか? せっかく見学に来たわけだし」
「う、うん。ありがとう。お願いするわ」
「まぁ俺たちが立ち入れる場所なんて限られてるけどね」
実験や観測施設の大半は許可がなければ立ち入ることはできないことになっていた。
「一ヶ月ぶりだけど、元気だった?」
「ああ。実習ばかりやってるけどね。奈菜のほうはどうだった?」
「こっちも相変わらずよ。来たるべき異星文化交流に向けてあれこれ議論してるけど、なんだか虚しく感じちゃう。だってわたしは実際に異星文化交流してるわけだし」
「そうだな。でもその時の経験は活かせるんじゃないか?」
「それがそうでもないのよ。教授たちは自分たちが想定する異星文化の押しつけみたいになってるし。結局は自分の仮説が正しいって言いたいだけで、実際の未知との遭遇はあまり想定していないみたいなのよね。なんだか理想と現実の乖離を感じちゃって」
「奈菜の方は大変だな」
「翔平だって、地球の技術とオッパリオンの技術の差に愕然としたりしないの?」
「うーん、あの時が特別だったって思ってるしね。今の技術だとあの時のような体験はできないわけだけど、それは仕方がないかなって」
「翔平は物わかりがいいわね」
「まぁシャトルの操縦でもやらせてもらえる機会があれば実感できるかもだけど、学生の身分じゃまだやらせてもらえないからね。あまり不便を実感しないのかも」
「重苦しい宇宙服を着るのだって不便でしょう?」
「それはあるかな。スタティアにいた頃はそんなの着る機会なかったし」
「そうよね。オッパリオンの人たちの技術ってどうなってるんだろう? もっと聞いておけば良かったって今になってすごい後悔してるわ」
「はは、もしかしたらまた会う機会もあるかもな」
「そうなったらわたしの言ったことも本当だったって、みんな認めることになるわね」
奈菜は少しだけいじわるそうに笑う。
そんな時だった。
不意に、翔平は揺れを感じた。
「うん?」
「翔平、今……揺れた?」
「あ、ああ、やっぱり、揺れたよな?」
軌道修正などでたまに揺れることはあるステーションだが、それとは違う、左右に振られるような揺れを翔平も奈菜も感じた。
通路には翔平と奈菜の他に誰もおらず、ふたりは通路の中央に立ち止まり天井を見ていた。
それからしばらくして再度、今度はもう少し大きい揺れが起こった。
「揺れてる!」
「なんだろう? なにかぶつかったりしたのかな?」
不安を感じた奈菜がふと翔平に近づく。すると。
『ステーション内に通達。現在外輪部観測所周辺にて事故が発生。ステーション内にいるものは全員宇宙服を着用してください』
「事故?」
「嘘?」
翔平と奈菜は思わず顔を見合わせた。
「とりあえず宇宙服を着ておこう」
「もう、ついてそうそうなに?」
非常用の宇宙服はいたるところに設置されており、非常時にはすぐに着用できるようになっていた。翔平たちがいた通路のそばにも五人分の宇宙服が設置されていたため、すぐに見つけることができた。
「わたし、宇宙服ってあまり着たことなくて」
「手伝うよ。俺はひとりでも着られるからさ」
「ありがとう」
重力のある状態だとかなり重い装備になるものの、これでも宇宙開発黎明期よりはだいぶ簡素化されたということを翔平は知っていた。
「酸素の残り時間、わかる? 腕のインジケーターで見られるよ」
「六時間って出てるわ。異常もないみたい」
「わかった」
「翔平も着て」
「ああ」
奈菜を通路に立たせたまま、翔平も宇宙服を着る。まだ空気漏れが起こっているわけではなかったのでヘルメットはしなかった。
「これ、ヘルメットしたら翔平と話せなくなっちゃう?」
「非常用のアナウンスとかは通信で聞こえるし、近くの人とも自動で通信は繋がるようになってるよ」
「よかった。――うわ」
「おっと」
今度も大きな揺れが起こった。
アナウンスであった観測所というのはちょうど翔平たちのいる発着所周辺とは反対側の位置になる。そこで事故が発生したということだが、揺れは近くで起こっているように感じられた。
同時に、翔平は胸の奥でなにかが灯るような感覚を覚えた。
「うっ……」
「翔平? どうしたの?」
「わからない……わからないけど、この感覚は――」
半年前に感じていた感覚に近い――そう思っていたが、口に出すことがためらわれた。
「あそこまで行ってみよう。外の様子がわかるかも」
「うん」
少し離れたところに、外が見られる窓が設置されていた。
動きづらい宇宙服を着たままであったが、翔平と奈菜はそこまで移動した。
窓から見る宇宙にはなにも見えず、ただ夜空のような空間が広がっているだけだった。アナウンスもあれ以来なにも起こっていない。
「……なんだったんだろう?」
「っ! 翔平! さっきなにか光った!」
「え?」
「ほら、あそこ!」
奈菜が指をさした先、光の筋のようなものが見えた。
「本当だ。彗星?」
そう思ったのだが、その光の筋は何度も走っている。
「いや、彗星じゃない……あれは……光線? 荷電砲を撃ってるのか?」
「え、それじゃあ……」
「テロリストが宇宙艦を持ってるって話をさっき聞いたんだ。もしかしたらその戦闘かもしれない」
「うそ」
遠近感の乏しい宇宙空間ではわかりにくいが、かなり近い位置で撃ち合いをしているように翔平は感じられた。
すると光線が走っている先でパッと大きい光が散った。それはなにかの爆発だった。
「奈菜、避難した方がいいかもしれない。俺がいたシャトル発着場に避難区画があるから、そこに向かおう」
「避難って……なにが起こってるの?」
「わからないけど……なんか嫌な予感が――」
翔平は思わず言葉を詰まらせた。
窓の奥から、なにか巨大なものがこちらへと接近してきているのが見えたからだった。
それは忘れもしないシルエットをしている。
「翔平、今のって……」
「あ、ああ……あれは……機動兵器だ!」
人型のシルエットを持つ巨人――オッパリオン星系で使われる機動兵器だ。見たこともない機種ではあったが、それは間違いなく機動兵器そのものだった。
「オッパリオン星の?」
「わからない。けどなんとなくオッパリオンのものには見えなかった」
「じゃあ……」
「ああ。マーラ帝国のものかもしれない」
「地球に来たってこと!?」
「そうかも。ならここも危ない。避難区画へ急ごう」
「う、うん!」
宇宙服のせいで重くなった体を動かし、避難区画へと向かう翔平と奈菜。移動中も、翔平は胸の奥でくすぶるなにかを感じていた。
――この感覚は、なにか近くに来てる感じがする……マーラ帝国が来ているということは、スタティアも? でもなにか違う……違うんだけど、懐かしいような……。
そんな気持ちの中、翔平たちは避難区画へと急ぐのだった。
本作品に関するコメントやご感想、色々お待ちしております。
引き続き「宇宙艦隊オッパリオン」応援よろしくお願い致します。




