アンナの秘めたる力
午後の診察回診を終え、帰宅しようと着替えていた時に携帯が鳴る。着信画像を見ると鈴木は慌てて通話にした。
「唯美!今どこにいる?」
それは家を出て行った妻からの着信だった、何度もコールしたが取って貰えず連絡がつかないでいた。
「もしもし、もしもし!」
鈴木が矢継ぎ早に話しかけていたが、終始相手が黙っているので様子を伺い、少し黙ると唯美は淡々と他人行儀で話した。
「離婚届が出されていないようです。早く出して下さい」
「待て!何を勝手な事を言っ」
鈴木が言い終わる前にプツ、ツーツーと電話の通話が切れた。鈴木が唯美に折り返し電話をかけ直すが。
「おかけになった電話番号は.....」
電源を切ったのかこれ以降唯美に電話は繋がらなかった。
「くそ!ふざけやがって勝手に出て行ったくせに」
怒りが込み上げ血圧が一気に上がり、鈴木の顔は真っ赤になった。数分は怒りに任せて唯美に暴言を吐いたが、その後には筆舌に尽くし難い感情が一気に押し寄せ、大の大人が幼児の様に泣きじゃくり嗚咽した。しばらく放心状態だったが、こんな姿を他人に見られる訳にはいかず、顔を見られない様に人気の少ない所から病院を出た。鈴木は鼻をスンスン言わせ、目も鼻も真っ赤にしながら、ハンバーガーのドライブスルーに入る。
「ご注文は?」
「ホプキンスバーガーセットとチャイルドバーガーセットで」
「お飲みものとおもちゃは何に致しますか?」
「コーラと野菜ジュースで、おもちゃは3番で」
「かしこまりました、1320円です。前にお進み下さい」
鈴木は車を前に出すと料金の支払いを行い、別の窓口で商品を受け取り自宅へ帰った。
「ただいま」
鈴木は電気をつけ買って帰ってきたハンバーガーとポテトを食べながらチャイルドバーガーセットに付いてきたおもちゃを開けて眺めた。
「.....」
鈴木はハンバーガーを食べ終わり、出たゴミをゴミ箱にまとめて入れると、おもちゃを敬太の部屋の窓枠に置き風呂場に向かった。泣き疲れ風呂場で眠りそうなのを堪え歯を磨く。風呂場から出るとベッドに行き着く前にソファーで撃沈した。
ゆっくり目を覚ますと眠気眼で、目を擦りながら身体を起こした。何故か上半身がうつ伏せで椅子に座ったまま、ベッドの隅で眠っているアンナがいた。夢でも見ているのかと、もう一度眠い目を擦ってみるが、先程よりも可愛い寝顔の女性がそこにはいた。鈴木がアンナの寝顔に見惚れていると、アンナと急に目が合い時が止まる。
「やぁ、おはよう」
鈴木の挨拶を一度無視して、アンナは一度身嗜みを整えてから挨拶を返した。
「おはようございます、やっと起きたんですね心配したんですよ」
「?」
「太助さん、昨日一日中寝たきりだったんですよ。誰が起こしに来ても起きる気配が無くて、呪いでもかけられたのかと心配でした」
「俺は一日中寝てたの?」
「はい」
と言う事はレシールが出て行ったのは一昨日という事になる。そう言えば腹がペコペコで空腹感が襲ってきた。鈴木の腹の虫の音を聞き、アンナが優しく笑うと。
「朝食食べに行きましょう」
鈴木は頷きアンナと一緒に食堂を目指した。
「俺一日中寝てたんだよね?」
「そうですよ、ぐーすかぴーって感じで」
「ぐーすかぴーって」
鈴木はツッコミたい気持ちを抑え、話を進める。
「昨日の戦いはどうだった?」
「昨日は四方の城壁に攻城塔をつけられて大変でしたよ、一部の戦線が抜かれ魔王軍が城壁内に流れこんで来ましたが、バルバロス陛下直々に指揮を執り、見事に入って来た魔王軍を一人残らず駆逐されたそうです」
「バルバロス王自ら前線に出たのか?」
「はい、流石はバルバロス陛下です。流入して来た魔王軍の兵士や魔物を一気に押し返し、民間人の怪我人は出なかったそうです」
「そうか、さすが獅子王だ」
「そう言えば昨日はキッシュ王子と我々、黎明の旅人が共闘して魔獣を倒したんですよ」
「魔獣?」
「太助さんどうしたんですか、昨日一日中寝たからまだ寝ぼけてるんですか?魔獣は先日倒したカースグリフォンやグランドキマイラが正にそうですよ。昨日出たのはデススコーピオンと言って」
アンナは廊下の手前の柱から二本先の柱くらいまで駆けて行くと。
「こーーーーーれくらいの大きさで!高さは尻尾が天井に付くくらいの大きさがありましたよ」
アンナは興奮冷めやらぬ表情で、昨日死闘を繰り広げた魔獣との戦闘に余韻を感じている様子が伝わってくる。鈴木は巨大なサソリと戦う自分を除いた、黎明の旅人が戦う姿をアメリカの超大作映画のワンシーンの様に、想像を膨らませてカッコイイと思った。
「今日は何を食べようかな」
と満面の笑みで話しかけてくる、アンナは食べる事が本当に好きなんだなと鈴木はしみじみ思った。と言うのも一昨日の食堂での一件を思い出す。
2日前の食堂にてアンナがケーキに突進して食堂にいた人達の注目を集める少し前。
アンナはイノシシの丸焼き何キロかを一人で平らげ、美味しそうに食べていた。隣りにあったサラダや何かの肉を揚げたものも、そもそもあの体積をどうやって胃に入れたのか、マジックでも見せられてる気分だったが、昨今流行ってる大食いタレントの様な胃袋だと関心して、アンナの見事なマジックショーに見入ってしまった。
「太助さんどうしたんですか?美味しいですよー、食べれる時に食べとか無いとです!」
アンナは口一杯に肉を頬張り、口元に滴る肉汁をナプキンで素早く拭き取った。
隣には象の亜人が座っており、アンナのいる一画は宛らフードファイトの会場と化していた。野次馬が周りを囲みアンナと象の亜人のフードファイトを煽る。
「普段はあんなに食べてないのに」
鈴木がアンナの胃を心配していると、決着は突然訪れた。アンナが席を立ったのだ、象の亜人が勝利を確信して拳を高々と挙げるとアンナはおもむろにリーゼのところに歩み寄る。
「満腹ですー」
「よく食べましたわね」
アンナの積み重ねた皿を見てリーゼは呆れながら答えた。
「もう食べられません」
「私は最後にデザートを頂きたいですわ」
リーゼはそう言うと鈴木の方をチラチラと見てくる。
「今日はデザートは無いんじゃないかな...」
「デザート?ケーキがあるじゃないですか!」
アンナはケーキに突進して行った。
「あまり食べ過ぎてはいけませんわよ」
そのやり取りを見ていた象の亜人がバタッと倒れた。
回想から現在へ。
鈴木はアンナの大食漢ぶりを思い出しながら、ニヤニヤしているとアンナから注意される。
「今何か想像しました?」
アンナは鈴木のニヤケ顔が癪に触ったようで、頬を膨らませるとスタスタと、鈴木を置いて先に食堂へと向かってしまった。鈴木はニヤケ顔を引き締めてアンナを追いかけたのだった。




