八月十三日(前)「日の出を見よう」
“僕”はこの島で最も高い場所から、世界を眺めていた。
夕景、あの太陽が沈む地平線まで、大陸が見えないほど広い海。ここは寂しい孤島だ。
だからこそ、“僕”はこんな島が嫌いだった。
『……っ、つまんない。こんな不自由な生き方なんて、オレも、絶対してやるもんか』
“僕”はいつも独りだ。
なんでかって?そんなの、そうやって生まれてきたから、の他にない。
自然しかない、小さな島。観光客すらまばらなもので、学校なんて小学校と中学校が一緒になってるっていうのに三十人以上いりゃしない。
退屈だ。こんなの、不公平だ。
それは窮屈な島だからそう思ってる?ちがう。
“僕”の、生まれ持って、定められた“仕事”のせいで、そう思ってる。
『父さんは、母さんは。……なんで、こんなのに誇りを感じたんだよ。兄さんは、なんで、オレを置いて行ったんだよ……っ!』
あの太陽はもう沈んでいって夕方が、じきに夜になる。
“僕”は振り返った。
そしたら、うざいぐらいに眩く輝く巨大な光源が、ぼろっちい動作のまま、粗雑な熱を灯し始めてしまった。
──ここは“灯台”。
島には必要な施設。
だが、中途半端に自動化された、オンボロなそれは人間の手を必要とせずに、船の、人の、帰る先となって救い続けている。
『……ッ!オレは、いらない存在なんだ、なのにどうして、ここから出られないんだっ』
“僕”はドン、とレンガの壁に手を叩きつけて、そして力無く狭いバルコニーに座り込む。
悔しくて仕方がなかった。親を失った、家しか無くなった、仕事を継ぐしかなかった、でもその仕事すら、“僕”を縛り付けて苦しくてたまらなかった。
──トン、トン、トンっ。
『……っ、だれだっ!』
足音だ。この長い灯台の階段を、誰かが登っている。ここにはもう誰も近づけたくない。奪わせたくなかった。いや、奪って欲しかったのかもしれないけど、今は、これからは、さらに独りにさせてほしかった。
どんどん足音は近づいてくる、もうこのバルコニーへ繋がる、鍵もないボロい扉は開かれる、ドアノブが下がっていく。
顔も見たくないから牽制するように“僕”は言った。
『開けるなッ!オレに誰も関わるなッ!オレを、ひとりに──』
“僕”は間違いなく、扉の向こうへ聞こえる怒声をあげたんだ。
でも、“彼”はそんなの聞こえてないように、関係のないように、その扉を、開いた。
座ったまま、その先を見た。
見覚えのある、人物だった。
直接的に関わったことはないけど、狭い島だからわかる、たしか同じ学校でひとつ上の先輩だった。
彼は、もう夜になったばかりのこの世界で、灯台の光を間近に受けて、輝いた。
そして、困惑する“僕”へ手を差し伸べて、不敵に笑ってこう言ったんだ。
『──独りになぞさせん。俺たちには貴様のような人間が必要だ。だから』
それは世界で最も“自由”なひと。
“不自由”な“僕”の鎖を断つ、紛れもないヒーローに見えた。この時からきっと、彼を信じて、生きてこれたんだ。
その一言で、“僕” は大きく、変われたんだ。
『──仲間になれ。そして、島を護れるぐらい、強くなれ』
わけもわからないままその手を取った。
そしたら“僕”の生活に、笑顔が増えたんだ。
◇
「……むー、そういえば、やったことないなぁ」
縁側。いつもの時間といつもの場所で、君は足をぶらぶらとなびかせて空を見ながら言った。
「……何を?」
「夜更かし」
「……そんなのするもんじゃありません」
「えー!健康には……悪いかもだけどぉ……でも、一度はやってみたいな」
「どうして……?」
「ふふ、そんなの、みんなとお話ししたいからに決まってるよ」
彼女はどれほど優等生的な少女だったのか、そんなのを真面目に悩んで、そして渇望している。
しかもその理由というのが、課題に追われてとか、ゲームがしたいから、とかじゃなくて、『僕らと話したいから』なんてのが、僕が何も言えなくなる原因だった。
「………じゃあ、してみる?」
「……!まーこと〜っ!やろやろ〜!」
「わっ、ちょ、もうなんか最近簡単に撫でるようになってきてない……?」
「えへへ、撫でたいなって思う頻度が増えたからね」
「なんだそれ……」
「誠は撫でられるの、嫌い?」
「ん……、いや、まぁ、嫌いじゃないけど、僕が一方的にやられるのは、なんかいや」
「え〜?じゃあ、私の頭も撫でる……?」
「……………撫でない」
「あははっ、じゃあどうしたいの、誠っ」
……本当に、最近調子が狂う。
最初の頃はそそっかしい年下みたいに思ってたのに、なんだかおねーさんの余裕が出てきて、からかわれるようになってきた。いや実際に二個上なんだけど。
どうしたいなんて、僕もわからないから、とりあえず顔を背けて芝生の方を見ることにした。
だけど、その姿が気に食わないように、僕の頭を無遠慮に撫でていたその手は仕舞われて、そして今度は両手を引き連れて僕の頬を掴む。
ぐいっとひっぱるように、強制的にその方を向けさせられて君は至近距離で“予定”を決めた。
「じゃあ……みんなでお泊まり会しよっ!」
「……わかったよ。場所はどうする」
甘い花の香りがした。それにぴくりと体が反応したのはほんの一瞬で、彼女はようやくこの手を離し、そして立ち上がる。
お決まりの笑顔で、あの場所の方角を指差した。
「そんなの〜、私たちのエデンだよっ!」
◇
「ふむ、いいだろう。よし早速風船でも膨らまそう。レイン、貴様はスーパーでありったけのパーティグッズを買い揃えてこい」
「了解っす!」
「待て待て待て待て」
「なんだ?あ、ピザでも食うか?よし、この島にピザ屋ないが、今頼めば船に乗って夜には届くな」
「待って違う、ちがうよジン」
「おぉピザを自分で作りたいというか!なるほど面白いメアリ、キッチンを掃除しておけ」
「おっけ〜!」
「まってなにもいってないっ!ピザのピの字も出てない!」
「じゃあなんだマテ茶パーティでもするか?」
「マテは全文字出てた!そういうことじゃない!気になるけどしたくない!いやちょっとしたい!話が早いよ!早すぎるよ!」
午前十時。エデンにて。
フウカが提案をした二秒後にジンは全ての脳のリソースをこのお泊まり会にシフトしていた。
狂気的とも言えるお茶会が開かれそうだが、残念ながら今日のお昼はテイラーもルカもノアもいない。つまりツッコミ役不在で僕しか止める術はなかった。
「ふふっ……楽しそうっ!」
「……そっか、じゃあやろう!いくよマテ茶ピザパーティ!」
「あ……、いいんすねライトくん……」
フウカが笑顔になってくれるならなんでもいい。
僕は諦めると言うより、俄然やる気になって、もっと彼女を幸せにさせるために、少しずつ作戦を詰め始める。
「泊まるのは確定だ。それなら何か、各自他にやりたいことはあるか?」
「はいはぁい!」
「はい早かったメアリ選手」
「クイズ大会?」
「お菓子パーティ!」
「残念不正解!」
「あこれ答えあるんだ」
「解説:五日前に行ったから」
「それはそうだ」
「ぇぇ〜……ざんねぇん……」
「……まぁ、夜更かしにはジャンクフードはつきものだからな。少量は許可する」
「……!ジンくんさいこ〜っ!」
ジンはやっぱり甘くて、優しくて、輪の中心で話をし続けた。
「あっ、あたしやりたいことあるっす!」
「どうぞレイン選手」
「枕投げ大会はどうすか!」
「えーっ!それ私もやりたいっ!」
「というわけで採用だ。各自攻撃用枕はどうする」
「なんだそれ」
「石枕で!」
「死ぬでしょ」
「防御用枕は?」
「攻守使い分けなきゃいけないんだ」
「羽毛の枕で〜!」
「ただの石のぶつけ合いになった」
「フッ、俺は誰だろうと手加減しない」
「あ、もちろんチーム戦っすよ!」
「フン、いいだろう」
「チーム分けは希望制で上限人数なしっす」
「おっと」
「……!じゃあ私ライトと組むねーっ!」
「はい、もちろん、あたしもライトくんと組むっす!」
「わたしも〜!」
「えぇ……いいよ。一緒に組もう」
「……なぁライト、俺はこのままだと一人で石で殴打され続けることになると思うのだ」
「だろうね」
「俺もライトと組んでいいか」
「ダメっす」
「なんでだよどうして貴様が言うんだよ」
「ジンくん心の俳句だ〜」
「字余りだからそれ違うだろ」
七七まで回収してキレキレだなこの人。
「あ、ダメな理由は普通に拒否権があるからっす」
「あぁ終わった……さよならライト……」
「潔すぎでしょ……なんだか可哀想に思えてきたな」
「さよなライト、だね!」
「なんですかフウカさん」
「あははっ!もうすでに夜も眠れないぐらいっ、いまから楽しみっすね!」
ただエデンⅡで各自の椅子に座って会話を回してるだけ、でもそれなのに楽しくて、フウカもコロコロと自由に笑っている。
しかしその中で、この場にいるのにいつものような呆れるぐらいの熱量が微塵も感じない、話にすら入ってこない、ぼんやりとした“彼”がいたのを僕らは見つめていた。
「……なぁ、ルークは何がしたい」
「そうだよ。したいこと、ある?」
彼は少しだけ遅れてエデンにやってきて、そしてずっと壁に寄りかかって遠くをながめている。
顔を見て話を振ればようやく意識を取り戻したみたいにパッとこちらを向いた。
「……!すまないボーッとしていた!なんの話だ?」
「えー?どうしたんすかルーク?お泊まり会で何やるかって話し合ってたっすよ!」
「ほう、お泊まり会……!それは、オレもいていいやつなのか?」
「……?いていいに決まってるじゃないすか」
「そうだよ〜!ルークくんもいないとつまんないよぉ?」
「あぁ。当たり前だ。起き続けて俺たちを賑やかておけ」
本当に話を聞いてなかったみたいに彼は最初から尋ねて、そして嬉しそうに笑う。
「……ははッ、朝までお前らといられるなんて最高だな。……うむ、やりたいこと、か…….」
「なんでもいいよ!夜は長いんだから!」
「あ〜でも筋トレ以外ねぇ……?」
「ふはっ、わかったわかった!身体を動かすのはナシだな。それなら……したいことがある」
「え、あのルークが身体動かす以外の遊びを知ってるんすか?」
「ルーク貴様怒っていいぞ」
「……ふっ、怒らないさ。大した遊びじゃなくて、オレはただ──」
彼は、似合わないけど、惹きつけてやまないような優しい表情を浮かべて、僕ら一人一人の顔を見て心から伝える。
「──そうだな、お前らと、日の出を見たい」
◇
太陽の光を存分に受けながら、僕ら三人は歩いている。長く緩やかな坂道を、大きな袋をそれぞれ抱えて。
「ブラザー、次は何を買いに行くんだ?」
「えっとね、海鮮ピザ作るつもりらしいから……漁港かな」
「おおっ!お魚っ!じゃあノアちゃんにも会えるっすかね?」
「だね。探して声かけてみようか」
僕らは買い出し組。
お泊まり会のために必要な諸々を取るために駆り出されたのは、体力自慢のレインとルークと、そして僕だった。
ジンに託されたメモ用紙をみて、だいたい馴染んできたお店を片っ端から回って食べ物からパーティグッズまで集めている。
フウカがいない状態でこうしてこの二人と一緒に歩くのは初めてだった。
いつも自警団のボケ担当として変な発言ばかりしているイメージではあるが、彼らはそこまでイカれた性格をしているわけではなく、気のいい、一緒に話してて楽しくなるような人物だ。
「おっ!雨宮の嬢ちゃんじゃねぇか!この前の速達は助かった!採れたてのトマトがあんだ、持ってきな!」
「えー!いいんすかおじさんっ!へへっ、じゃあありがたく貰うっすね〜!」
「あら、護くんじゃないの!いつも島を見守ってくれてありがとうねぇ、ほら、アジあげるからお友達と食べてね!」
「なぁに、この島を守るのがオレの仕事だ!だが、有難くいただこう!こちらこそいつも感謝している!」
そして彼らは勤勉な人物。
いつでも島のために尽くし、裏表なく誠実に働く彼らだからこそ、島の大人は総じてふたりを自分の子供のように愛おしく思っている。
「ふふっ、ふたりはやっぱりすごいね。僕より全然立派だなぁ」
「えへへ、嬉しいっすけどライトくんもあたしたちに負けず劣らず立派っすよ〜?ね、ルーク!」
「あぁ!一緒にいて面白いし、筋肉の総量という面でみても意外としっかりしていて歯応えがある!」
「それは褒め………まぁ褒められてるだろうから、なんでもいいよ。そう言ってもらえて嬉しいな」
「ははッ、その適応力もオレは好きだぞ。さすがブラザーだ」
ぶらぶらと適当に会話をしながら歩く。
そうして僕はふと気になったことがあった。
「……ねぇ、最初に一回ツッコんだだけなんだけど、なんで僕“ブラザー”なの……?」
「あっ、そういえばっすね?本物の兄弟すか?」
「そんなわけないでしょ」
「そうっすね苗字違うっすもんね」
「判断材料そこだけ?」
灯台で出会い、ビーチフラッグを挑まれたその日からすでに僕はその呼び方で統一されていた。ぶっちゃけあの時点では互いに人となりもわかっていないのに、よく呼べたなとも思う。
「む……、別に深い意味はなくて半分ノリだが……」
「やっぱりそうだよね」
「だが、半分は、ライトを兄と重ねたのかもな」
「へぇ……………」
ふと、立ち止まる。
そして僕は思わずその懐かしむような表情をする顔へ振り向いた。ついでにレインも振り向いた。
「……ってええ!?ルークってお兄ちゃんがいたの!?」
「あ、あたしも知らなかったっすよ!?こんなに一緒にバディやってきたのに!?」
「ん……ふはは、言う機会もないし、いたのは随分前だからな。知っているのは島の大人とボスぐらいか?」
言われてみれば、彼はそこはかとなく『弟属性』なるものがついている気が……するか?筋肉大好き人間が弟キャラな可能性あるか?
その悩みはさておいて、僕はこのことをもっと掘り下げたいと思ったが、この耳は敏感に、ある言葉をキャッチして、深く聞いていいのか迷うこととなった。
『いたのは随分前』、それなら、今は。
「じゃあその兄は今、どこいるんすか?」
僕がなかなか言えそうにないことをズバッと聞くレインに転けそうにもなったが、それこそが彼女のいいところ。会話が変に遠慮して止まることなく、なだらかに進んでいく。
「ふっ、さぁな。七つ上の兄が大学生になった頃には、もうこの島からでていったからな」
「……!七歳差っすか!」
「帰ってくるつもりはないらしいが、どこか知らないところで元気にやっているんだろう」
「へぇ〜、家出ってことすかねぇ?」
「だな。ここにはなんにもないって飽きて出て行った」
「そんなことないっすのに……。……ねぇ、ルークは──」
レインは少し、いや正直に、かなり不安そうな顔をしてルークを見上げていた。だが、彼は一切曇るような様子は映さずに僕らの前で言い切って見せた。
「……ははッ、オレは出ていかないぞ?この島の灯台守として見守る者として、そして──自警団のガードナーとて、今が楽しいから、これから先も残り続ける」
彼は『国見 護』。その名前が身体を表すように、この千草島の守護者としてこれからも居続けると誓った。彼自身の言葉には迷いがないのがわかって、それをレインは嬉しく思って、そして互いに笑い合っていた。
「……!へへっ、ルークらしいっすね!じゃあ、あたしたちとずーっとバカやってましょっか!」
「……あぁ、それはいいな。大人になっても、オレたちがはしゃいで、ブラザーとか姉御とか、時にはテイラーがツッコむんだろう?そんなの面白くないわけないさ」
彼らは“未来”の話をした。
そこに当たり前のように、知り合ってたった二週間の僕がいるのが、どうしようもなく嬉しくなって。
でも、その反面──いつか僕はこの島から出なければならないと、過去と向き合って真面目に生きていかなければいけないと、“現実的”に物事を考える嫌な自分もいて。
「──ふふ、だね。とっても面白そうだ」
だけど、とりあえず今は、時間が許す限り、そんな“理想”だけを子供のように願っていようと、向かうべき先から目を逸らし彼らの言葉を肯定して微笑んでいた。
〜〜
「……ところでさルーク」
僕らはまだ歩き続けていた。
漁港に着き、新鮮にパック詰された切り身や魚介の購入を済ませ、そしてついでのように堤防に行ってノアへ今晩の“予定”を教えた。
昼は忙しいかも知れないが、夜は全員空くだろう。
だからこのそれぞれのビニールに抱えた重たい九人分の食材たち、そしてその命を握る氷が溶けないうちに、急いでエデンに帰らなければいけない。
山中の廃屋に繋がる、険しいようでしっかりと整備された道を歩きながら、また話しかける。
「ん、なんだ?」
「僕がその兄と重なるっていったけど……、もしかしてブラザーって僕を『兄』として呼ぶ意味合いだった?」
「……?そうだが?」
話を戻して尋ねたことで、僕は人知れず、無意識に大きな勘違いをしていたことに気づいてしまう。
彼がノリで呼んだと思っていた『ブラザー』。僕は当然、背丈もあって頼り甲斐もあって、仕事にすら就いている彼を歳上のように思っていた。
つまり、僕の方こそ、彼を『兄』として認識していたのだ。
「…………ルークって何歳?」
そういえば知らなかった。
自警団の年齢を整理すれば、フウカが一番上の高三の代で、ジン、ルカ、メアリ、テイラーの高二の代、僕とレインの高一の代。そしてノアが単独で中学二年生。
ここまで判明していたが、唯一ルークだけは尋ねていない。
「ん、十五だが」
「えええぇっ!?同い年だったの!?」
衝撃。ここ一番の衝撃。
初顔合わせで上裸で腕立て伏せしたマッチョがくれば誰だって兄とは思わないだろう。僕はその最初の勘違いを抱えたままずっと友達であり続けていたというのか。
「え、知らなかったんすか?」
「実は歳上だと思ってた……」
「ははッ、言ってなかったなぁそういえば。ちなみに誕生日は二月だぞ」
「僕が九月だから……ちょっとだけ僕のが先輩……!?」
「へへっ、ふたりとも四月生まれのあたしの下っすね〜!こんなかで一番お姉さんなのはあたしっすから逆らわないでくださいっす」
「突如生まれた微々たる差の年功序列」
「姉には絶対服従っす」
「重すぎる」
まさか体格が1番デカいルークが、ノアに次ぐ自警団年齢順のワースト二位だなんて。
こうしてみれば、僕ら買い出し組のこの集まりも、ある共通点を持って映るようになった。
「ふははっ、じゃあこの三人は同級生なんだな!」
「……!言われてみればそうっすね!あたしたち、おそろっすよ!」
「本当だね。……なんだか、ワクワクするかも?」
僕が柄にもなくそんなことを言ってしまったのは、彼らの明るさに当てられてしまったからだろう。
自分でも不思議なぐらいだ。
タイプが違う僕らだけど同じ点を見つけただけで、もっとぐっと、距離が縮まっていく気がするのは。
「わかるっすよそれっ!……あーあっ!やっぱりふたりと同じ高校なら退屈しなくて済むのになぁっ」
「この前も言ってたね。……僕も、そう思うよ。皆で同じ授業受けるのすごく楽しそう」
「だな!ふっ、休み時間のたびにライトの机に集まるんだ」
「僕のとこまで来てくれるの?嬉しいね」
「当然。そしてその周りで筋トレ大会……。そそるな」
「それだけはそそらないでほしかった」
「たぶんその机めっちゃ汗まみれになるっすね」
「それで授業は嫌だね……」
「で、カブトムシがいっぱい集まってくるっす」
「なんでルークの汗が樹液と同じ成分なんだよ」
「光栄だなっ」
「どうして!?……ふふっ、でも、なんだかんだ、本当にずっと、楽しそうだよ」
彼らがそばにいる学校生活。
目を瞑れば容易に想像できる。
一個上の階には、ジンたちがいて。お昼休みになったら、エデンとはちょっと違うけど、僕らだけしか寄りつかない校舎裏の秘密の箇所に集まって、皆で囲ってお弁当を食べて。
もちろん、僕の隣にはフウカもいて。
学校が違うノアのために、時には皆で下校して彼女を校門で待ったりして。
きっと、かけがえのない一年間を、僕らは過ごせるんだ。
それはあまりにも眩しくて、訳あって学校にすら登校していない僕には、まるで幻想みたいなことだった。
「……高校、か。……面白いんだろうな」
そうやって僕は胸の奥に、どこか穴の空いているような思いをしていたからこそ、“彼”のその小さな呟きも鮮明に聞こえてしまった。
まるで、それは僕と同じ、境遇。
「ルークって、学校、行ってないの……?」
「あぁ、実はな。……オレには仕事があるから、通信制の高校に通わせてもらってる」
それはまさかの理由だった。若くして“灯台守”という仕事に就いているからこそ、学業という選択の幅が狭くなっている。
「あーっ、そうなんすよっ!聞いてくださいライトくんっ!本当はあたしとおんなじとこ行くつもりだったのに、なんか気づいたら内緒で進路かえてたんすよ!結構怒ってるんすからね!?」
「ふっ、それはすまないと何度も言っている。……仕方なかったんだ。灯台をあけるわけにはいかないからな」
「むー……そんなのわかってるっすけど、ルークがいないと、あたしつまんないっすよ……」
彼はずっと、優しい顔をしている。
レインが感情を表に出して、不満をぶつけてくれて、それに対して穏やかに、そして半ば──諦めるような表情で笑っている。
僕は、ひとつ訊きたいと、つい口が動き出していた。
「……ねぇ、ルークは、もし、仕事がなかったら、学校に通いたいと思う?」
友情を、覚悟を、確かめるような質問。
少し失礼かも知れないけれど、こんな何気ない問いに彼は歩くスピードを緩めてまで、真剣に考えて悩みながらも最後には断言した。
「……そんなの、当たり前だろう。もちろん、何も仕事がなかったらオレはお前らと一緒にいたいさ」
あぁ、ひどく安心した。
彼の答えに。
そして僕は、自分の罪を、ひどく自覚した。
彼は生まれ持ったどうしようもできない理由で、仕方なく“通信制高校”という道を選んだんだ。
対して僕はどうか?
僕は、その選択を“逃げ道”だとして、過去に向き合うことすらできずに怠惰なまま掴んだ。ちがう、掴んでない、気付けば手元にあっただけ。
埋まらない差がここにはあった。
だから僕はやっぱり彼が眩しくて、自分が嫌いになる。
「へへ、嬉しいこと言うっすね!っと、もう見えましたエデン!さっ、はやく帰りましょ、ふたりとも!」
話していれば、あっという間に買い出しという楽しい時間は過ぎ去っていく。
きっとこの後のお泊まり会も、翌日も、そしてこの夏休みでさえも、振り返ってみれば瞬きの間に終わっていたように思えるんだろう。
僕は寂しくなる、怖くなる。
でも、レインが腕を引っ張って。
そしてルークが“ブラザー”と慕って背中を押してくれたから。
せめて今だけは、前を向けたんだ。
ルーク√。
この人は面白くて本当に好きです。




