八月七日「幕間」
今日はまだあります。
繋ぎの短い回。
──僕らのカイトは見えなくなるまで遠くへ飛んだ。
「おつかれ〜!レインちゃん、ライトくんっ!」
その日の午後三時。
仕事があるメンバーはもう行ってしまって、エデンに残ったのは僕とフウカとジン、そしてレインとメアリだ。
「えへへ、メアリちゃんもお疲れっす!あのカイトのデザインめっちゃよかったすよ!」
「あらら〜嬉しいなあ!ふふ、でもでも〜、あんなに輝いたのがみれたのはふたりのおかげだよ〜!」
午後三時といえばおやつの時間。
メアリがいつものように持ち寄った駄菓子たちをエデンⅡで広げながら、僕らは特に決まった遊びもなく話し続けている。
まぁ、話題といえば今朝の配達のことがメインだった。
「フッ、二人“だけ”じゃないな」
「あ〜ごめんねえ?もちろん、フウカちゃんのおかげでもあるよお?」
「え、俺は?」
「いやいやっ!私は思いついただけだから!本当にすごいのは危険なことをやってくれたライトとレインちゃんだよ!」
「やっぱりそうだよねえ!」
「いやまあそれはそうだが、俺は?」
……すごい可哀想に見えてきた。
「ん〜!もういっかいみたいなぁ!」
「フッ、無視、か。実に面白い」
いや本当に可哀想だな。僕は一番の功労者はジンだと思ってるよ。放置したほうが面白いから言わないけど。
「……ところで、一個みんなに聞いてもいいっすか?」
「んー?なに、レインちゃん?」
「【アルティメットカイト:マークⅴ】って誰が考えたんすか」
そんなの一人しかいないでしょ。
「俺だが」
「舐めてるんすか?」
「舐めてないが!?」
「アルティメットってなんすか。究極なんすか」
「そりゃそうだろう。究極だ」
「マークⅴってなんすか。五代目なんすか」
「いや?なんか数字あったほうがカッコいいだろう」
「舐めてるんすか?」
「舐めてないが!?」
確かに、《オペレーション・ゼフィロス》はまだいいとして、カイトの名前はカッコいいじゃ済まされない壊滅的なセンスだった……。
「《オペレーション・ゼフィロス》も大概っすよ?」
おっと。
「なんだかチュロスみたいだよね〜」
ロスしかあってなくない?
「ねー!」
ねーじゃないよフウカそんなわけないよお菓子食べながら適当に返事しないでよ。
「あ、ライト!」
「え、なに」
「チュロス食べたくなってきた!」
「えええ。……うん、わかった、今度作ろうか」
「えええっ!?それでいいんすかライトくんっ!?色々言いたいことあったんじゃないっすか!?」
「……ふむ、作り方はわかるか?ライト」
「いや、わからないなぁ、油であげるのはなんとなく……」
「それなら俺が作り方を教えてやろう、ノアが好きなのだ」
「ありがとう、助かるよ。で、原材料は?」
「フランスパンだ」
「はは、だと思った。やるぞ〜」
「えええっ!?それでいいんすかライトくんっ!?色々言いたいことあったんじゃないっすか!?」
ただ時間が過ぎていく。僕らの平穏はこれでいい。
それだけで楽しかった。
こんなくだらない話はメアリのお菓子が、ジンが淹れる趣味とは思えないクオリティのシンプルなコーヒーが、よく似合う。
「む、そういえば【アルティメットカイト:マークⅴ】を裁断した時に布が余ったんだ。誰かいるか?」
ジンは玉座に座りながら、マントから意外と大きな布切れを取り出す。ほんとそのマントの中どうなってるんだ。
「あ、わたし欲しいな〜それ!いい布だったからパッチワークに使いたあい!」
この自警団で最も女子力の高いのはメアリだ。次点ではルカだろうが、普段はマイペースに行動する分、こういう家庭科スキルの見せ所ではメアリが意外にもキビキビ動けるのはギャップがある。
「よし、やろう。お前らはいるか?」
「はいはい!私欲しい!団長!」
「……え、フウカその布何に使うの?」
「ふふ、なんにも使わないよ。ただ、八月七日はこれをしたんだって、モノを見て思い出したいだけ!」
「……なるほど、そういうことなら僕も欲しいなジン」
「あーっ!それならあたしももらうっす羨ましい!」
「むっ、それなら我も貰う!」
「あ、団長も羨ましくなったんだ」
結局僕らはメアリ用の大きな布とは別に、余ったのを九等分の細い布にしてそれぞれの思い出にしたんだ。
それを嬉しそうに眺めながら、ハンモックに座ってレインは話し始める。
「……あ、ちょっと話変わるんすけど、あのカイトに追加でソウルを吊るしたじゃないっすか」
「【アルティメットカイト:マークⅴ】だな」
「【アルカイマ】に追加でソウルを吊るしたじゃないっすか」
「なんだその省略。カッコいいな」
「吊るしたじゃないっすか」
ツッコミを放棄した。
「みんな、誰宛に書いたんすか?言えるなら知りたいっすじぶん!」
僕とレインは互いに知っている。
でも、他のメンバーが何を思って、あのどこまでも飛んでいったカイトに想いを託したのか、見当もつかなかった。
「フッ、俺は過去の自分へだな」
「……へぇ、ジンはそうだったんだ」
「俺は運命という未来は嫌いだからな。過去しか綴る話題がない」
「それは……いいことなの?」
「ああ、いいこと……いや、わからないな。まあでもほらカッコいいだろう」
「カッコいいか」
「それでいいんだねえライトくん……」
「私は団長とは違って未来の自分へ書きましたー!」
「ふふっ、フウカらしいね」
「どこかに埋めるより、もう未来に飛ばしちゃったほうが届くかもしれないって思ったんだー!」
「へへ、あのカイトは時間すらも超えた“どこか”に届くかもしんないっすからね!」
「でしょー?いっぱいやりたかったこと書いたから、未来の私に届いたらどのくらい達成したかチェックしたいなあ」
双方、どっちも彼らしく彼女らしい。落ち着くような気持ちになって、僕は三人目の言葉を待った。
「ねーメアリちゃんはー?」
「………別に構わんぞメアリ。言わぬが花という言葉もある」
彼女はすぐには答えなかった。
フウカは無邪気に尋ね、ジンはなぜか退路を与える。
メアリは遅れながらも言った。その声色はいつも通りで、表情もいつも通り。
優しくて柔和で、いつでもみんなを見守る呑気な姉のような彼女。
「わたしは『お父さんとお母さん』に書いたよ〜!」
「おー!それはいいね!私も書けばよかったかも!」
「両親になんて書くこといっぱいあるっすよ!」
それがなんの異常もないように、フウカとレインは変わらない口調で明るく笑った。
でも、僕はそれが『おかしい』ことに気付く。
──だって、僕らが吊るしたのは『住所のないところにいる者』への特別便。
そこに託すということはすなわち、現在ではどう足掻いても、言葉を送ることができないということ。
ジンは何も言わなかった。ただ、いつも通りな──いつも通りを装うメアリを、静かな微笑みで見つめていた。それは完全な祝福ではなく、寂しげな瞳だった。
これは全部僕の主観で、完全な憶測にしかすぎないけど。
彼女は何かを抱えているのではないかと。
“お菓子”を口いっぱいに頬張る君をみて、胸騒ぎがしていた。
だ、誰の話なんだ次は。




