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アニマラットとアニマキャットはカシマ・ロボット製作所の大ヒット商品になりました。コロニーで愛玩動物を飼えるのはごく一部の富裕層だけだったので、本物そっくりの見た目と挙動のペットを飼えるようになると注文が殺到。製作所が売り払っていたアニマロボット生産工場を謎の新興企業が買い戻して賃貸契約することで再稼働し、今やノア6のみならず地球圏コロニーで爆発的人気を呈しています。
「いやぁこんなに忙しくなるとは思わなかったぜ。コロニーに製品を卸してた頃より忙しいんじゃねぇか?おい!その資材はB搬入口だぞ!リニアコイルは振動弱いから丁寧に運べ!」
工場ではおやっさんの伝手でかき集めたかつての社員達が戻り、そこら中で慌ただしく作業を行っています。私が制御システムをプログラムした自動組立機で部品製造を行い、動物的に見える外観部分を人間の職人たちが手がけていきます。私とおやっさんは工場二階の手すりからその様子を眺めています。
「圧巻ですね。これだけの規模の製造ラインをすぐに立ち上げられるのもおやっさんの経験あってこそです」
「いや、それもこれもおめぇの兄の力じゃねぇか。知らなかったぞ、兄弟があのハル・オスミウム社で働いてたなんて」
「言ってませんでしたね。すみません。噂をすれば、ちょうど来たようですよ」
そう言っておやっさんをそちらに向かせると、鉄の階段を上って来たのは30代の一人の男でした。黒いスーツとネクタイ、合成革のトランクを持って眼鏡をかけ、キャスケットを被っています。現代のコロニーでは珍しいですが、地球時代のレトロ感が逆にオシャレさを醸し出しているのでしょうか?
「こんにちは鹿島さん。一月ぶりでしょうか?」
「おう、アルバのぼっちゃん。弟と違って相変わらずいい男してんなぁ」
スーツが似合わなくて悪かったですね。文句は父に言ってください。
彼はアルバ・イリジウムとしてノア6のシティコンピューターに登録後、私と同じバイオメカニクスの権化となって実質ペーパーカンパニーだったハル・オスミウム社を実社化し、今ではCOOとしてオフィスでCEOの代役となり社員をまとめ上げています。社員はCEOの顔も名前も知りませんが、兄弟経営ということもあり首をかしげながらも納得しているようです。元々人を束ねる立場にありましたし、実年齢は50代の大ベテランです。体格は少し小柄でボクサー体型に近い別人ですが、知り合いと出会っても気づかれない程度には見た目の印象が残っています。そういえば前世では筋肉がつかなくて悩んでましたね。
「兄さん、元気そうでなりよりです。仕事のほうはどうですか?」
「にいさ・・・いや、ごめん。順調だよ。どこかのCEOが全然仕事してくれなかったせいで、対面での商談がすごい溜まってるんだ。まだ今はそれを切り崩しているところ」
『すみません。一財産築いたらそのまま解体する予定だったので、手を入れていませんでした』
『分かってる。働きたいって言ったのは僕だから、ちゃんとやるよ』
「忙しいのにわりぃなぁ。けどおかげでこっちは本当に救われた。工場をタダ同然で貸すたぁ肝が据わってやがる」
「アニマロボットの制御ソフトも今はハル社の製品ですからね。投資するのは当然ですよ」
「そういや、謎多き天才プログラマーって特集でやってたが、ぼっちゃんは社長のツラ見たことあるんだろ?どんなやつなんだ?」
言われると、なぜかアルバは手すりに寄りかかって考え始めました。
「んーよく聞かれるんですけど、毎回なんて答えたらいいか悩むんですよね。好奇心旺盛で頭はいいけど、たまに考えを忘れて突っ走るというか、負けず嫌いなくせに押しが弱くてダメというか、そんな感じ・・・」
「あー分かるぜ。職人気質なのに抜けている奴な。こいつみたいに」
おやっさんはこちらも見ずに私を指さしてきます。
「・・・私、そんな風ですか?」
「違いない。抜けているところとか、兄に対して敬語やめねぇところとか。できた兄でよかったなバード」
「それは否定できません」
〔....注意!SQSC干渉確認。保護有効〕
はっとして体を起こします。AS1がここに到着した日と同じ干渉反応です。しかも一瞬だった前回とは違い継続しています。
「にしても、こんなバカみてぇな役に立たないおもちゃなんて作るのやめて、兵器を製造してぇよな。銀河人類の兵団を容赦なくぶっ潰せるような」
「え、突然なに言ってるんですか?カシマ・ロボット製作所は軍事産業には関わらないって聞いてますけど」
「銀河人類政府なんて潰れてしまえばいい!やつら全員俺の手で息の根を止めてやりたいくらいだ!それに比べてトラキエル星国の皇帝はすげぇやつなんだ。声が聞きてぇ。俺の絶対の君主なんだ!」
今までのおやっさんの様子とは別人のような様子です。目が血走り、体は力んで半分怒り、半分恍惚とした恐ろしい形相で手すりを叩いています。
「おやっさん!落ち着いてください。どうしたんですか!」
〔干渉反応消失。測量失敗。発信源特定不能〕
その瞬間、おやっさんの体からふと力が抜け、茫然自失となりました。そしてその3秒後にはいつものにやっとした顔でこちらを見ました。
「で、なんの話をしていたんだったか?」
「え・・・あの、おやっさん。大丈夫ですか?」
「あ?俺はまだそんなに耄碌してねぇよ。なんだ?」
どう考えても何かおかしいです。至急、干渉データをポーラに転送し信号の分析を依頼。同時にシティコンピューター内のシステムで、私が原因ではない謎のハッキングアラートとウイルスアラートが出たので即時ログアウトしました。念のため、私とアルバの接続を事前に設置していた予備のアンテナに切り替えます。
「えっと、鹿島さん。もしかしたら少しお疲れかもしれません。今日は休まれた方がいい」
「そうか?・・・まぁぼっちゃんがそう言うなら、そうかもな。じゃあちょっと休んでくる。バード、後は頼んだぞ」
「わかりました。ゆっくりおやすみください」
おやっさんは首をかしげながら階段を下りていきました。製造工場のシステムにアクセスして監視カメラを見ると、ほんの20秒間ほどでしたが、作業員全員が突然興奮して、自分が今制作中だった製品を無遠慮に叩き壊している様子が映っていました。その後、おやっさんと同じように脱力した後、壊れている製品を発見して悲嘆の絶叫をしています。カメラの当該ログは削除しておきます。
「バード、今のは・・・」
『アルバ、何か分かったら伝えますから、今は一度会社に戻った方がいいです。多分被害が出てるはずです。万が一の時は、その人型機体との接続を切りますから、そのつもりでいてください』
『・・・分かった。とりあえず急ぐよ』
何か深刻な事態が起きていることを察したハルバは、顔をしかめながら早々に階段を下りていきました。
〔監視カメラのログに写ってた人間たちの挙動を見るに、23.8秒間のことは覚えていないようだな〕
〔様子からは、亜空間干渉装置の干渉による発狂にも見えました。しかし、あの症状は動植物などの人ではないソウルサーフェスに再接続されることによる狂乱です。今回のように人の思考が残ることはあり得ませんから、何か違います〕
〔そういえば言っていたな。トラキエル星国の皇帝、とか。他の人間も突然皇帝を崇めだしていたぞ〕
トラキエル星国、かつてのロット47、つまりアルバの前の私の注文者であり、いまだに戦争宙域で勢力を伸ばし続けている国です。つまり"あれ"のことです。
〔何かしてくることは予想してましたが、一手先を行かれました。すぐに行動を始めましょう〕
〔もちろんだ。クソ野郎どもへの敵討ちがやっとできる〕




