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AS2はロット47の仲間たちの元にいるので、新たに完成したAS4~6の3機がAS2の任を引き継いでいます。新発明の物質瞬間創成機のおかげで、第2世代は工期が非常に短く済みました。
物質瞬間創成機はTEKECフラクタルリーフを使用し、加速された時間系内で物質配置プリンターが製品をプリントする装置で、数十万倍以上の速度で製品を印刷する反則級装置です。ただし暴れ馬です。内部の機器から放たれる遠赤外線などが青方偏移した強力なガンマ線が全方位に放出するため、ヘータ機関を用いて対生成した電子と陽電子を高い精度で消去しなければ、光電効果により周囲の物質を即座に蒸発させてしまいます。さらに言えば、ほぼ無尽蔵と考えられてきた核融合炉の燃料を、1日ほどで全消費します。現段階では困っていませんが、連続運転は慎重にやらなければなりません。
ここ、完全無人のオートメーション工業惑星シアは銀河人類加盟の大規模工業国が所有する産業惑星です。人間の活動が困難な高重力と大気組成ですが、表層から有用な鉱物資源が幅広く採取できるので、地上工場基地では作業ロボットが資源採取から加工、部品製造までを一括で行い、貨物コンテナに詰めて工場ステーションまで輸送しています。
ですが、基地の復帰には時間がかかりました。地上工場基地制圧作戦時、ゲートに取り付いていた味方部隊の損耗が予想よりも激しかったため、全滅する前に私はやむを得ずパンドラワームを使用しました。結果、システムの制圧は間に合いましたが、ワーム除染のために基幹システムから作業ロボットの1体に至るまで中身を全てローレベルフォーマットし、1からプログラムし直さなければならず、大分時間をロスしました。
工場基地内で800機の作業ロボットを操作し、AS2のヘータ機関と連携した大型物質瞬間創成機を組み立てていると、一機のNXR-6000が作業場にやってきました。第4分隊の3749です。
「なぁ6118、俺たちはこれからどうすればいいと思う?」
悩んでいた問題でした。敵味方双方が予想していた通りに、表向き、ロット47は工場基地の防衛設備により全滅、そして工場基地側からは防衛成功というデータを両陣営に流しています。工業惑星シアは人間が立ち入らないので、ログレポートと設備性能分の製品を出荷していれば不審には思われず、あとは好きにできます。生き残ったロット47部隊1200機ほどはこの工場で修理、整備中です。このうち90機ほどのSQSCに魂影が生まれていたので、件の量子アンテナ配列規則を適応し、個々の魂とソウルサーフェス間で接続しました。彼らは自由です。
私は手近な作業ロボットの溶接作業を中断して、3749と対峙しました。
「元の持ち主の元に戻りたい、と思う者はいるのでしょうか?つまり、トラキエル星国の部隊に」
「まぁ思い入れがないと言われれば嘘になるが、聞いた限りじゃいなかったな」
「捨て駒にされたことを恨んでいるのですか?」
「恨む?バカ言うなよ。俺たちは兵士だぜ?地団太踏んで悪態はつくが、軍事作戦である以上、そこにいいも悪いもねぇよ。単純に皆やめたかった、それだけだ」
呆れた仕草をしてますが、当時は結構絶望してたような気もします。仲間たちのプライドもありますので深く聞くのはやめましょう。
話を戻すと、今はその"兵士"というのが問題です。彼らの魂影は戦いの中で生まれました。なので私とは違い、自由にしていいですよと言われてもどうすればいいのかわからないでしょう。気性も荒いですし、戦場の肌感覚から離れるのは簡単ではありません。人間のような除隊兵士の社会復帰支援でもどうにもならない者も一定数いると思われます。仲間たちを人類史初のAIならず者にしないためにも、何とかしなければなりません。
「退役を希望する者たちは支援します。自由にしたいと思う者には、条件はありますが、探査機程度の船を用意することもできます。ただ、私の邪魔はあまりしてほしくありませんがね」
「お前と敵対しようと思うやつなんて俺らの隊には一人もいねぇっての。で、だ。みんなで話し合って思ったんだが、やっぱ一番面白そうなのはお前についてくことなんだよな」
驚きました。知らぬ間に話し合っていたようです。私が知らない、というのは相当珍しいことです。さすが兄弟たち。
「私に?私は言うほどアドベンチャーな生涯は送ってきていませんよ?」
〔どの口が言う?〕
〔黙っててくださいポーラ〕
「なんていうかな。俺らは命令されることが心底身についちまってるんだ。だから頭がいなくちゃ、ちっとも動けやしない。で、ついてくならデキる奴についてったほうがいいだろ?つまりお前だ6118」
悩みます。もちろん、こちらに協力してもらえるなら助かります。私とポーラがいればおそらく大丈夫でしょうが、手はあるにこしたことはありません。
「しかし、それは戦場に呼び戻すようなものです。せっかく手に入れた自由をなくなく手放すことになります」
その言葉に、3749はにやりと笑いました。いや、機体は笑いません。共鳴による幻覚です。
「言ったな6118!やっぱおめぇ何かと戦ってんじゃねぇかよ!おーいおめぇら、6118が戦場に行くってよ。俺らどうする?」
「KILL!KILL!KILL!」
3749が虚空に向かってそう投げかけると、突如、柱の影、渡り廊下の底、ダクトの穴などからバタンと一斉に、NXR-6000がギャグのごとく飛び出てきました。巨体を隠すセンサーステルスだけは一流です。今までどこに隠れてたんですか!?
「えー、そんな危ない橋になるとは考えてません。多分暇して退屈すると思いますよ?」
「へー。退屈しそうな奴が、こんなバカでけぇ物質配置プリンターを製造するかよ!」
「面白そうじゃないか!」
「だからもう6118は俺らの頭なんだよ!さっさと吐け!」
私の遠回しの遠慮に対して、3749は大型物質瞬間創成機をにらみつけながら指さし、そしてわらわらと集まる仲間達と共に作業ロボットをゆさゆさゆすり始めました。胴上げしそうな勢いです。
全く、バカばっかりです。
尺の都合でなくなくカットされた物質瞬間創成機の説明文
フラクタルリーフが起動すると、装置の内側でヒッグス粒子制御装置が極微少の局地的重力場を発生させ、擬似的なマイクロブラックホールが出現。この点に別のTEKEC機関が運動量操作をすると、周囲に時間加速フィールドが現れます。すると、赤方偏移の逆の青方偏移が発生しプリンターが青く、暗くなっていき、やがて可視光はなくなり真っ黒になります。
全ての物質は、熱放射として電磁波を放っています。内部の物質が放った遠赤外線を含む電磁波が加速フィールドから外に出ると、波長が縮み、強力なガンマ線となって放出されます。内部の核融合炉の10万倍の出力で、放出された強力なガンマ線が対生成を起こして大量の電子と陽電子が生成されます。ヘータ機関が生成された電子と陽電子を消去します。
ちなみに内部は放射冷却によってほぼ絶対零度まで冷却され、熱源は核融合炉と内部機器の熱放出だけになります。内部の物質配置プリンターはその温度下でも動作するように専用設計され、マイクロマシンによって常にメンテナンスされ続けるので、内部で数千年が経過したとしても、故障しても修理され停止はしません。




