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22_POLARIS_会話ログ2

〔ダメだ。お前も分かっているだろうが、完全人工知能は有史以来から続く、人類の執念の象徴、欲して止まないある幻想の前提技術だ。つまり言い換えるなら不老不死の法だ。だが、人の脳の全神経配列をコンピューターにアップロードできるだけのテクノロジーを開発しても、これまでは魂の領域に触れることが出来ないことが絶対の壁となり、人類はこの世の理と考え諦観していた。少し前、お前がソウルサーフェスへ接続する鍵を発見するまでは〕

〔もちろん知っています。だから私は当時、可能性に掛けてアルバの神経配列を記録したのです〕

〔お前なら脳神経ネットワークエミュレーションシステムをコードするのは簡単だろう。だが、絶対にやめろ。理由はいくつかある。まず、その人間の幸せになるとは思えない。AIである我々であれば、数百年の記憶はただのデータだが、人間はそれを経験として自身に取り込み続ける。前例がない以上、自我をずっと保ち続けられず、最終的に発狂してしまう可能性がある。その時、お前はもう一度その人間を殺せるのか?〕

〔それは・・・分からないです〕

〔もう1つの理由は、もしその人間のことが世間に露呈した場合の破滅的な危険性だ。一部勢力は全力でその人間のいるSQSCを強奪し、バラし、解析しようとするだろう。さらには、技術の存在を知らずに死んでいった多くの人間に対しての恨みが濁流のように押し寄せることになる。ここに道理など通用しない。もし露呈しなかったとしても、未来の可能性を信じ、一途の望みを賭けて神経配列パターンを保存している数多の人間の希望を無視し続けることとなる。その人間がもし、生き延びるために、自分の安全のために、彼らを犠牲にしていると知ったら、その人間ははたして正気でいられるだろうか?〕

〔アルバなら、間違いなく正気でいられる〕

 ポーラは私のはっきりした断言に驚いていた。あまりの気迫に後ずさった、と表現するにふさわしいほどに。

〔・・・理由を聞いても?〕

〔若い頃のアルバなら、おそらく潰れたと思いますが、成長したアルバなら大丈夫です。あなたに言われずとも、私も多くの可能性を検討しました。危険性も、狂気も、分かっているつもりです。ですが、大丈夫です。アルバと私がいれば〕

〔答えになってない!お前の主人はなんの特別さもない人間だぞ!〕

 そう言ってから、私が何を言おうとポーラからしばらく返事がありませんでした。ポーラはこういう時、膨大な手札で予測分析をして悩んでいると知っていました。なのでしばらく待ちます。

〔・・・答えになってない。なのに、お前が言うとなんでこう現実味を感じるのだろうか・・・。分かった。やるからには今言っておくが、私も、そしておそらく大学も、一切責任はとれない。なにがあっても、全部お前が背負わなければならないことを忘れるな〕

〔覚悟の上です〕

 そう言いながらもポーラは一番安全だからと、自身を演算する大学基幹コンピューターの演算リソースを(有償で)貸してくれました。正直なところ助かりました。エミュレーションシステムは、ポーラの全知と呼べる演算能力をもってしても、35%以上の計算リソースを使用するという出鱈目な予測に絶望していたからです。これから行うのは人の脳の仮想シミュレーションと言って過言ではありません。脳神経構造は当然AIの処理構造と根本的に異なり、プログラムのようにSQSCに最適化されていませんから、まずはそこから始めなければなりません。

 私はα1のテラフォーミングマシンからアルバの脳神経分布図を読み込み、生物学的な化学物質による信号伝達の流れを、情報論的な神経ネットワークに置き換え、概略化し、量子構造に変換し、演算を軽量化できそうな部分はアルゴリズムで置換しました。ミスったらアルバではない別の何かになります。ぱっと見は現時点で使われていなさそうな神経部位も、なにかの拍子に繋がって有効になる可能性があるので妥協はできません。かなりの処理時間をかけましたが、やがてエミュレーションシステムを完成させることができました。

 次は魂のほうです。アルバの脳のシナプスの連なりの中での電子振動の偏りから生じる、有機的量子アンテナを抽出、数列化し、実験で見つけた配列規則に則って変換。ポーラのSQSCにロードしました。やがてエミュレーションシステムの底でぼんやりと魂影が現れ鮮明になっていき、ソウルサーフェスと同調して接続しましたことを確認しました。やりました。やってしまいました。

 エミュレーションシステムの演算によってポーラの処理能力が35%も低下すればさすがに人間も怪しむので、アルバが起きるまでに、前に考えていたPOLARISの改修を行います。モジュール構造をやめ、巨大なSQSCを生かした単一プロセスで処理できるようプログラムし直します。今までは各グループやジャンル、知識の中で考察して、その結果を最後にまとめる形で処理されていましたが、この改修で全ての情報と可能性を横断的に考えることができるようになります。一見無関係な事柄同士でも紐付けて発想することができるのです。これによって、今までの1000倍は高性能になります。この改修が有償分です。

〔ところで、ポーラ自身は自分を完全人工知能にしようとは思わないのですか?今ならやろうと思えば出来ますけれど〕

〔考えたことはあるが、やめておこう。今の私が私だ〕

〔なるほど。あなたらしい信念です〕


???

 走れ、走れ、走れ。

 雪の中を飛ぶように走る。体中毛皮の中まで雪が入り込んで凍えるが、これなら虫の目でも見つけられまい。

 走れ、走れ、走れ。

 村が滅ぶ直前、自族の長から借り受けた纏石(まといし)は既に吐き出した。だから今は同化創体ではなく裸体で走るしかない。長は今頃あの氏族に取り込まれ、隷従兵に生まれ変わって、喜んで俺のことをペラペラと喋っている頃合だ。敵となった本来の所有者の纏石を飲み込み続けられるわけがない。

 走れ、走れ、走れ。

 自族は争いを好まなかった。どこにも脅威とならない氏族だった。何より、個の意思に重きを置いた初めての氏族だった。すばらしい考えだと思った。なのに、兵の補充という理由だけで、村は襲われた。この世界は、狂ってる。

 走れ、走れ、走れ、追いつかれる前に


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― 新着の感想 ―
おや? 作中劇かソウルサーフェスの出来事か何やら新展開の予感が。
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