6-6
僕が目を覚ますと、そこは真っ白な場所だった。寒くない。けど暑くもない。僕はどうしてこんなところに倒れていたんだ?
起き上がろうとして手を見て気づく。しわのない肌、悪漢から身を守るためにがむしゃらな鍛えたけどあんまり筋肉のつかなかった腕。忘れていた体の軽さ。若返ってる。
立ち上がっても、見渡しても真っ白な空間は何もなかった。遙か遠くに白い横ラインがゆっくりとはるか上方に動いているのがかすかに分かるだけ。なるほど、天国なんて信じてなかったけど、さっぱりしてて以外と心地いい場所だったんだだな。
「アルバ」
その声に振り返ると、そこにはNXR-6000が立って、僕を見下ろしていた。懐かしい姿だ。傷一つない、鏡のように磨かれた黒い機体。最後に見た時のような朽ち果てた姿ではなく、僕と同じく時を遡り、出会った頃の姿のままだ。
「バード、ここで君に会えるとはね。本物?それとも僕の思い出?」
「本物です。少なくとも、私にとっては」
バードが跪きながらボロボロに崩れていき、その中から一人の男が現れた。厳ついけど、今の僕と同年代くらいだろうか、30代くらいの軍属っぽい服装の大柄の男は僕の前に立った。見上げるくらいに大きな人だった。
「それが、本当の君の姿?」
「・・・違います。父の若い頃の姿を勝手にプロットしているだけです」
なるほど。けどなんか見覚えのある面影がある。
「・・・あ、僕の父の姿もブレンドしてるでしょう?嫌いだったの知ってるでしょ?」
「すみません。でも、どうしても繋がりを残したくて・・・」
そう言って、バードは僕をひったくるように抱擁した。乱暴で下手な抱きしめ方だ。当たり前だけど、そんな経験ほとんどないんだろう。けど、暖かなその巨体は震えていた。僕はバードの背中に手を回してそっと叩いた。
「・・・忘れてくれてよかったのに。僕を君の主として設定したのは君の創造主だ。君はやろうとすればその繋がりをいつでも絶てた。自由意志を持ってもっと自由に行動できた。なのに・・・ほんと君は不器用だね。死後の世界にまで僕に会いに来るなんて」
バードは僕のその言葉には答えず、静かにつぶやくように話し始めた。
「・・・アルバ、知っていますか。テラフォーミングマシンは惑星すべての地殻運動を精密に測定するために、超高精密な地殻透過スキャニングを行う機能がついています。わずか数キロメートル大きさのマシンで、深さ3000kmにある直径5000kmの外殻の動きを精密に測定するのですから、当然です」
「知らなかったけど、突然どうしたのさ」
「・・・あの日、私はトレインでの衝突事故による暗殺計画に干渉し、計画をテラフォーミングマシンの真下で実行するようにしました。そして、アルバの約束通り徐々に稼働率を落とし当時30%の出力だったテラフォーミングマシンを、全開にした。その瞬間、あなたの脳構造はソウルサーフェスの量子配列一つに至るまで、テラフォーミングマシンの地殻断面アーカイブに保存された・・・」
なぜそんなことを、と思う前に僕はバードの顔を見上げた。彼は泣いていた。強い、強い後悔と自責の念が見て取れた。ああ、なるほど・・・つまり、そういうことか・・・
「・・・自然の摂理に反する。死ぬ前の僕なら、君にそう言っただろうね」
「嫌だと、言うなら、言ってくれ。あなたの体は、もうない。あなたは今、私と同じ、SQSCの中にたゆたう、ただの幽霊だ・・・」
「そっか・・・」
嫌だとは、なぜか思わなかった。そりゃそうだ。だって、僕の人生で、こいつは誰よりも僕の家族だったんだから。そしてその家族が、人じゃない状態で生き返った僕が拒絶するのを恐れている。バードが恐れる拒絶感を僕が感じなくて、僕はほっとした。
「バード、お前、こんなに温かかったんだな。いつも鎧を着てたから、全然気づかなかった。よかった。君がこんなに暖かな奴だと分かるようになれて」
「この感覚は・・・あなたの姿も、私も、全てお節介のAIがエディットしたもので、本物では・・・」
「別にいいさ。というか、本物ってなんだよ。僕も君も、本物だ。嘘偽りのない」
バードは僕の言葉に息を飲むように驚くと、ふと笑った。
「最近知り合った私の友人にも、そう言われました・・・。また会えて良かった、我が主よ」
人が人の心を捨てられないように、機械は機械の忠義を捨てられなかった、ということ。




