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-----4ヶ月後

 ラグナ第三大学は驚くべきことに、学術研究機関としての機能をほぼ回復していました。仮の住居や設備を用いて、人々は平穏を取り戻しています。ポーラの予測によって長期的には資材不足から始まる生活基盤の崩壊の問題を解決するため、私はちょっとした策で銀河人類から救助隊を手配しました。ですがそれ以外に支援は必要なさそうです。

 私はレオン・ロジャース学長の勧めでラグナ第三大学の短期の客員教授となりました。AR端末経由で壇上に立ち、AS2が集めた様々な星に関するレポートを発表。天文地質学ラボはいつも大乱狂です。彼らは薄々私が常人でないと気づいています。さらっと40光年先の星の比較データを出したりしているので、探検者ではないことはラボ内では気づいているでしょう。しかし、誰もその矛盾を指摘してきませんでしたし、私も話題には出しませんでした。

 ポーラは、原因が人為的な操作によるものとして疑いは晴れましたが、それでも経過観察として大学の研究からは外されました。ポーラが自己防衛的に構築した(ことになっている)ファイアーウォールが再発防止となる確証がとれるまでは研究支援などは行えなくなりましたが、それでも生徒からの研究に対する相談は絶えず、忙しさは以前と変わっていないそうです。

 私が地質学ラボでリアナ達とともに巨大恒星の組成の新しい考察を議論しながら、量子素材研究ラボのメンバーとSQSCの影を検出する実験を行っていると、地質学ラボのほうに2人の男がやってきました。一人はロジャース学長です。

「こんにちはバード。少しお話したいのだがいいだろうか?」

『ああ、大丈夫だ。リアナ、このデータではやはり従来の各構成とは違うと私は思う。新しいモデルを考案したほうがいいかもしれない』

「そうね・・・続きはポーラに聞いてみる。こっちは大丈夫よ」

『分かった。少し外す』

 私は資料が雑多な研究室から、ラボの談話室に向かってソファの横に立ちました。

『悪いが、私はコーヒーの入れ方を知らなくてね。セルフサービスでも構わないかな?』

 私の冗談に笑いながら、二人はコーヒーメーカーから飲み物を取ってソファに座った。

「彼を紹介しよう。ロイ・ストラテス教授だ。知っているか?」

『もちろん知っている。初めましてロイ教授。バード・イリジウムだ』

「よろしく、バード」

 ロイ教授は60代の小柄な男性です。茶色のベストを来た学者らしい格好で、優しそうな風貌から生徒に人気のありそうな人当たりのいい人物という印象を受けました。メインフレームのデータベースによると、並列宇宙に関する研究を行っている位相次元学の権威で、相対次元観測理論という論文が有名です。知ってはいますが位相次元学は今まで関わりがなかったので、私に何の用なのか分かりません。

『それで、私になんの用で?』

「実は、あるデータが我々の理解の及ばないものでね。私たちのチームが悩んでいたら、世間話をしていた際に君の話を聞いた。ポーラは今研究室のデータにアクセスできないから、代わりに相談しようと考えたわけなんだ」

 なんでしょう。もしヘータ機関の話をされたらしらばっくれるしかありません。緊急時とはいえ、消去モードの物的証拠を残したのは痛いミスです。

「データを見てくれた方が早い。君のアドレスに送っても構わないか?」

『ええ、お願いします』

 送られてきたデータは、異常重力事故の際の、次元検出器のデータでした。次元検出器はとても簡単に言えば、TEKEC技術の応用で物体の瞬間運動量を検出できる機械です。その検出データでした。その図は、ばっと見は植物の葉脈を思わせる形をしていました。ですが、拡大するとその中にも同じ葉の形が見えてくる。こういう図形はフラクタル図形と呼ばれます。

「これは、事象の地平面の内側の物理現象として人類が初めて捉えることの出来た現象だ。葉のような構造の中心が、今回事故を起こしたヒッグス粒子実験装置だ。そして葉のようなものは周囲の物体の物理エネルギーを示している。さらに、そのすぐ外側のもやが、予想に過ぎないがそこから漏れ出た事象エネルギーを示していると思われる。大深度の重力場がこの次元を超越して別次元へと波及しているわけだな」

『すまないが、私は位相次元学には詳しくはないのだ。なんの意見を求められているのか分からない』

「正直、私もこれがなんなのか全く理解出来ない。なにせ人類はブラックホールと出会ったことすらない。しかも観測不可能であるはずの事象の地平面の内側の現象を記録できたのは人類史上初だからな」

 データを見た時、何かひっかかりました。事象エネルギーが漏れ出すのは当然です。ヒッグス粒子実験装置はTEKEC技術によってヒッグス場のエネルギーポテンシャルを傾ける装置だからです。ですが、もし普通に装置を観測したら、そのエネルギーは中心点から円状に広がるはずです。ヘータ機関だって同じです。無限の特異点を中心とした現象しか起こせません。とても馬鹿げた説明をすれば、宇宙すべてを一瞬特異点の中に回収して、ずらした宇宙を再び展開するような装置です。ASは実質その場から一切動いていません。でも、これは・・・!

『物理エネルギーと事象エネルギーが折り重なって自己近似の無限連鎖を起こしたような収束状態となっている・・・つまりエネルギー励起が系全体に植物の葉脈のように周囲に広がっている・・・』

 私の絶句した様子に、ロイ教授は気づいていません。

「・・・そうだな。どうしてこんな現象が起こるのだろうか?宇宙は葉脈構造をその内側に内包しているのだろうか?宇宙の仕組みはまだまだ我々の及ばぬ所にあると途方に暮れているよ」

『・・・気づいていないのですか。これはヒッグス場のエネルギーポテンシャルを経由すれば、系全体に影響を及ぼせるということを示している。これがTEKECエンジンならば、系の内側の存在すべてに運動量を与えられるということなんですよ!』

 二人は始め、私の言葉の意味を理解出来ないようでぽかんとしていました。が、すぐにその事実に気づいて息を忘れます。

 TEKEC機関は、特定の指定された物質に対してのみしか運動量を与えられませんでした。例えば、宇宙船のTEKECエンジンは反動推進エンジンと同じく宇宙船の構造物に、TEKECライフルは内部の弾丸のみに運動量を与えていました。火薬のようなものです。故に搭乗員は艦内で無重力状態にならず、慣性や引力の影響を受けていました。

 この理論を用いた装置を、例えばTEKECフラクタルリーフと呼びましょうか。これはヒッグス場のエネルギーポテンシャルを操作、経由することで、系全体、つまり範囲内の任意の存在全てに対して運動量を与えることができるのです。これはとんでもないことです。

〔ポーラ、今からある研究データと理論アルゴリズムを送ります。至急データの解析を行ってください〕

〔私は現時点で大学の研究に携わる事を禁止されている。データに関わることはできない〕

〔四の五の言わずにすぐやってください!これが正しければ、世の中すべてひっくり返ります〕

 ポーラは渋々データを受け取り、私が殴り書きしたアルゴリズムを用いて系の状態分析を行いました。ポーラの計算能力なら1/1000秒もかからずに結果が出ます。なのに、その結果が信じられず数十万回の多角的再検証を行っています。

〔・・・バード、やってくれたな。ヘータ機関を人類に公開できないその代替が、これか?〕

〔私だって今初めて知りましたよ。こんなことが可能だとは〕

 ポーラから帰ってきた検証結果を見て確信しました。系そのものへのエネルギーポテンシャルの操作は、つまり系の光速度の操作が可能なのことを示します。光の速度は時間の速度です。つまり任意の範囲の時間の速度を自在に操作できることと同義です。

 さらに、もっと恐ろしい事実は、系内の歪み相対速度を光速以下に抑えたまま、因果律を維持したままで、見かけの速度を光速以上にできます。周囲空間ごと巻き込んでタキオン化して、タキオン加速が可能ということです。

 超光速航行が可能となる。西暦3784年、人類は切符を手に入れました。


一言で言えば、虚数の質量を持つ場を作るということ。それをこんな長々書いて、分かる人おらんやろ?

ロイ・ストラテス教授は時空の船にちらっと名前だけ出てくる人物。同一宇宙の人物かは想像にお任せします。

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― 新着の感想 ―
うんわからんw とりあえず凄そう。 超光速通信と移動が出来て、慣性を無視した移動が出来て、時間逆行しての情報のやり取りが可能になって、時間移動も有り得る? って感じる。
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