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6-5

 α1に到着して20年。当機は相変わらずステーションのエントランス出口に立っています。最初はマイクロマシンで装甲をメンテナンスしていましたが、風雨に晒されたまま長期間経過しても新品同様にピカピカなのも変なので、室外に置かれたブロンズ像を参考に表面を赤黒くくすませ、マイクロマシンで空気中から金属イオンを回収して徐々に青錆を表現させました。装甲自体の部材劣化率はゼロですが、見た目は古ぼけて見えます。蔓が機体に絡んで伸びて、足下は苔で台座と同化し始めています。

 私は実害がなければ基本的に人間の活動に関してタッチしません。例えば政治に関しては、アルバに助言を求められても問答と議論はしますが、具体的に私から何かを勧めたりはしません。私の認識からしたら愚かな決断などいくらでもありますが、あくまでそれは私の視点からみた感覚なので、人間は人間の采配を持って行動するのが正しいと考えます。前アルバとテラフォーミングマシンの依存について話したことと同じで、高度な保護は人間の生きる意思を阻害して衰退させ、結果的には不幸になるのです。非情かもしれませんが、銀河人類の高度な医療知識があれば助かる命さえ、私は見捨てたことがあります。今までは、そうライン引きしてきました。

 なので、この予兆を検知したとき、私は悩みました。それは軌道エレベーターステーションの基幹コンピューターを出入りしているデータストリームを監視しているプログラムからの報告でした。

-------アルバ・アイゼンハワー代表に対する暗殺の兆候あり

 なんとなくいつかは来るだろうなと思って網を張ってはいました。やっと肉体年齢と精神年齢が合致したアルバは持っていた落ち着きと英明さの甲斐あってこの惑星の代表に選出されました。アルバは、私の思慮深さのおかげだ、いつも救われているとよく私に言いますが、私は本気でアルバと議論したことはありません。つまり全て彼の実力です。そしてそれに伴う発言力の高まりと、エイル・トランスデータ社の一件が絡み合い、暗殺という手段に発展したのでしょう。

 もともとこの星の主権についてはかなり曖昧でした。この星に巨額の投資をして破産した運営団体はこの星への補給支援を一方的に打ち切り、残された人々は全滅の危機においやられましたが、彼らは諦めなかった。放置された設備を応急的に使い、長い時をかけてやっと1つの国と呼べる規模にまで回復しました。ところが、破産した運営団体を買収していたエイル・トランスデータ社が、今更星の所有権を主張し始めたのです。かつてアルバが調和会議に出席した理由は、この星の所有権と独立権を訴えるためのものでした。銀河人類の中枢は互いの意見を聞き、多くの議論を重ねた結果、すでに生活基盤を整え生活している惑星住人たちに、特別に取得時効を認めることとしました。銀河人類の台帳の上で、土地も施設も、アイゼンハワーの主権に切り替わりました。ここが銀河人類側の愚かな判断ですが、主権を惑星住人全てではなく、アイゼンハワー家にしたのです。IDもない実在が確認できない星にいる住民に対して主権を認めることは出来ないというのは分かりますが横暴です。アイゼンハワー家は実質トップなのですから外からすればそれで問題ありません。しかし国の中では阿鼻叫喚でした。

 アイゼンハワー家は謙虚で皆の意見はよく聞きました。それでも国内の政治における最終決定は、結局星の主権を持つアイゼンハワー家となり、不満はたまる一方でした。

 アルバは調和会議に出席しアイゼンハワー家への主権を認めさせた張本人です。矛先が彼に向かうのは当然の流れでした。むしろ20年も知略と話術だけで人々をなんとかなだめてこれただけでも偉業でしょう。裏で私が情報を流していたのは秘密です。

 私と共に夕日を見にやってきたアルバに対して、このことを伝えることにしました。アルバはもう50過ぎです。エントランスへと登る足取りも衰えてきています。

「アルバ、あなたへの暗殺計画が持ち上がっています。今回は本気です」

「・・・まぁよく持たせられたほうだと思うよ。僕、頑張ったよな」

「どうにかしなくては。アルバ、私はいままでこの星に対して無干渉でした。しかし、やろうと思えばすぐに計画は阻止できます。ですから」

「だめだよ。バード。そのことはずっとお互いに話してきたじゃないか。君が干渉すれば、この国は銀河人類一の大国になると確信できる。君にはそれだけの能力がある。だけどそれじゃダメなんだ」

「あなたの命が掛かっているのです!こんな時ぐらいいいじゃないですか!」

 アルバは夕日から顔を向け、目を丸くして私を見ます。

「・・・君がそんな荒げた声を出すのを初めて聞くよ。ありがとう、心配してくれて。でも、いいんだ。これは僕が望んだことなんだから」

「・・・望んだこと?」

「僕はこの20年間でアイゼンハワー家の主権をそれとなくバラバラにして、国民に行き渡らせるようにした。彼らは気づいていないけど、アイゼンハワー家はもはやただの国の象徴だ。そして、最後に僕が死ぬことでアイゼンハワー家への恨みを消し去り、溜飲を下げる。どこにでもあるベタな話だろ?」

 分かっていました。今は恨めしい私の論理予測は、それが1番穏便にこの国が進むことを明示していました。だが、こんな終わりは・・・認めたくありません。

「・・・アルバ、私は暗殺計画に干渉はしようと思います。あなたが苦しむ死とならないよう・・・計画を弄ります」

「ありがとう・・・。僕のために泣いてくれて」

 先輩の言葉が、SQSCの裏に思い浮かびます。私は、やってはいけない決断を今したのでしょうか。


 アルバは、テラフォーミングマシンの視察として、テラフォーミングマシン直下の地殻縦坑を案内されている最中、縦坑の連絡通路から突き落とされました。粒子化したマグマが優しく彼を抱き込んだまま、アルバはマグマの中に落ちていきました。生体反応がふと消失するのを、私はセンサーでじっと見ていました。ただ全力で運転するテラフォーミングマシンの轟音だけが、あたりに響いていました。


まぁ、そういうことです。

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― 新着の感想 ―
よくある展開ではあるのですが、干渉しようと思えども阻止はしないってのはしんみりしますね、 そして某マーティン星の顛末を思い出したりしましたw
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