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レグルス多重連星系 人工惑星ラグナ ラグナ第三大学
テラフォーミングマシン内で開発計画書を見ていたので知っていましたが、ラグナ第三大学は外から見ると、学術機関というよりも一つの都市です。水生生物を研究するための巨大な湖と、地質調査のための直径数キロメートル、深さ10kmの穴の縁に引っかかるようにして、城のようなガラスの建造物が立ち並んでいます。湖から人工的に流れ出す川はその穴へと落ちていき、霧となって霧散しています。穴には宇宙探査用の白い大型宇宙船が停泊しています。
平時だったら感動したでしょうが、建物が傾き、いくつかの構造物は崩れ、穴の側面に激突して潰れているのをみると、不謹慎ですが、逆に退廃的な美しさを感じます。崩れてもなお感じる美的センス、と言い直しておきますか。
ガルドが操縦するプロペラカーゴが大学の空中管制システム圏内に入り接続。はぁぁぁという間の抜けた声が聞こえます。AS3が管制システムに誰何されると面倒なので、カーゴの真上につけて、管制システムからのオートパイロットデータをもとにぴったりとくっ付いていきます。
「バード?なにをやっているの?」
「管制システムに外来ポートに案内されると面倒だ。この状態で電磁波の反射特性をそっちのカーゴと同期させると、レーダーには同じ乱数反射波を返す点が二重に映る。空中管制AIはこれをどこかの壁で反射したエコーと勘違いして消去する」
「いたずら好きだよなぁ。堂々と行けば良いのに」
ガルドが伸びをしながらそう言いますが、いたずら好きなのはどっちですか。私が寝ている(と思わせている)時間帯に何度もAS2にちょっかいをかけてきていたのは誰でしょうかね。
AS2はこの6ヶ月で全ての応急修理を終えています。なのでやろうとすればステルス状態で行くことも出来ますが、その後の言い訳がめんどうなので、今回はこうします。
学生用地上機乗降口は比較的大きなガラスの貝を縦にしたような構造物の根元にありました。近づくと、多数のプロペラ機があり人や災害物資を積み下ろししています。
3人を乗せたプロペラカーゴが着陸パッドに着陸する直前に自動操縦に干渉して少し前に詰めてもらい、その後ろに着陸しました。TEKECエンジンなしにはできないVTOL機動でしたが3人とも気づかなかったようです。
我々に気づいた学生、スタッフたちがわっと集まってきます。3人がカーゴから下りてきて半年ぶりの再会を喜んでいる傍ら、多くの人々がこちらにも集まってきてAS2に群がってきます。みな私が探検者であることと、テラフォーミングマシンでの活動を知っているようで、我先にと好意的に話しかけてきます。全員の発話は分析ですべて聞き取れますが、ふりをしている普通の人間にはできません。
「ちょっとみんな!そんなに群がってちゃ混乱するでしょう!・・・ごめんなさいバード。みんな"ラグナの奇跡"ってはやし立ててうるさくて」
「いや、問題はない。とりあえずポートに接続してもかまわないか?」
「ええ、大丈夫。今コネクターが来るとおもうから・・・ほら、みんな邪魔だからどいて!」
大規模災害の後だというのに、皆とんでもなく明るく元気です。若い者たちが多い集団はやはり違います。
着陸パッドのリニアレールでやってきたコネクターに接続すると、大学のシステムログイン要求がされたので、事前にリアナから受け取っていた研究室のIDでログイン。システムにアクセスしました。早速現状を確認・・・ふむ。見た目ほど建物の中核へのダメージは酷くないようです。人工惑星ゆえ、基幹となる施設は強固な免災設計がなされており、倒壊しているのは逆に新しい施設や建物です。インフラ関係はこの半年で8割が復帰。1番酷いのは食料需給関係で、湖から出た波が自動農場を襲い壊滅。作物が大打撃を受けているようです。しかし、災害復旧、復興のこの半年間のログですら興味深い。見たことのない建物修繕ロボット、斬新な通信拡大システム、手作り感あふれる巨大浄水システム。学生たちはこの危機に我先と自分たちの技術をこぞって使い、有り余るパワーでとんでもないことを成しているようです。さすが人類の最先端研究機関。輝く未来に震えます。
「とりあえず君たちは仲間や先生と話すことも多かろう。私は待っていることとするよ。暇な時間に君の研究室の資料でも読んでてかまわないかな?」
「ええ。なんなら図書室の鍵も渡しておくから、読んでてかまわないわ」
「それはありがたい。読書は好きでね」
いまだわいわい騒がしい中、とりあえず私はもらったアクセスコードで大学の図書アーカイブにアクセスし、面白そうな本を探し始めました。
いまだ地球圏に届いていない最新の論文、宇宙のパルサー星図、謎のAIによって汚染されていないソウルサーフェスに関する資料はとてもためになりました。量子パターンをマスクすれば、短時間ですが他人の量子接続を介して魂を中継接続できるとは驚きです。これをもっと早く知れていれば、私の仲間たちも生きていられたでしょうか。
そんなことを考えていた夜遅く、人気もなくなった着陸パッドに一人の人間がやってきました。40代の男性で、カーキのつなぎを腰で縛って、白いシャツを来たワイルドな格好です。
「こんにちは。バード殿。こんな状態でなければ、あなたを両手を挙げて歓迎できたのですが、申し訳ない」
「いいや。私こそ挨拶が遅れてしまい申し訳ない。第89探査隊バード・イリジウムだ」
「私こそ。私はラグナ第三大学学長。レオン・ロジャースです・・・89ということはベガへ?」
「ああ。その帰りだ」
学長とはとても思えない体格と格好ですが、記事にも載ってるので間違いありません。現場タイプなのでしょうか?
着陸ポートのモニターにこと座α星の至近写真を表示します。AS2が深宇宙探査を開始してすぐ、連続探査遷移していた際に撮影していたものです。ベガは有名かつ銀河人類からしたらかなりご近所ですが、星系が新しいので選択肢から外れがちで有史以来も亜光速無人探査機が通過観測したことしかありません。
「おおこれが・・・素晴らしい楕円球だ、美しい・・・これを実際見ることが出来たとは羨ましい。よければ貴方の旅を生徒たちにも語ってくれませんか?」
「それは・・・私で良ければ」
本当は遠慮したいですが、探検者は見聞きしたことを広めるのが仕事です。断るのはおかしいのでうなずいておきましょう。
「それとこの星のことも、本当にありがとうございました。本当は我々が対処すべき問題だったのに、対応が遅れてしまった。まして学生たちにその重責を負わせてしまうとは」
「いいや。私も天文地質学の3人には世話になった。彼らが環境データを持ってきてくれなければ、今頃この惑星は火だるまだった」
「聞きました・・・貴方も学者なのですか?噂ではかなりの博識だと伺いましたが」
「どうだろうか。広い宇宙を漂っていると、頭が回るようになる。それだけのことかも知れない」
「フフ・・・探索者らしい言葉だ。さて、お休みのところ邪魔してしまい申し訳ない。後日またお礼をさせてください。それでは」
「分かった。お休みなさいロジャース教授」
男は眩しいような目でAS2を見ながら触れ、それから去って行きました。深宇宙探査はもっと広い意味で本当に行っていますが、純粋な憧れとロマンに対して嘘をついているので悪い気になってきました。心の中で謝っておきます。
翌日、アルベールが研究室にログインして開口謝ってきました。
「ごめんなさい。今リアナがAI研究室のやつらと揉めてて話せないんだ」
『揉めてる?なにかあったのか?』
「ほら、ポーラのシステムへの管理者権限を貸してもらうって話。いくら友達だからって専門でもない人においそれと管理者権限は貸せないって、それで今口論になってる」
大学のセキュリティは独創的で高度ですが、穴がないわけではありません。応急修理のためセキュリティコードが初期設定のままになってるハブを経由して監視カメラに接続し、AI研究室の出口廊下を見ると、ガルドとリアナが学生と口論してるのが分かります。早戻ししてまとめると、初めは友達として真摯に話をしていたが、AI研究室の学生らのプライドに火をつけたのかあれやこれやで話が拗れてます。構内に入ってオンラインになっているリアナとガルドのAR端末に研究室の共有でログインして、二人にだけ認識できる人間の姿の仮想体を表示します。
「リアナ。そこまで怒らせてはしょうがないよ。今は引こう」
「え、バード!?あなたどうやって・・・」
「な、なんだこれ!?師匠の人間の頃の姿?すげぇー」
昨晩友人たちに担ぎ上げられていつの間にか私を師匠にしているガルドはおいときます。AI研究室の学生は突然何も見えない後ろに驚く二人に困惑しています。
「やろうとすれば、アクセスする方法はいくらでもあるものだよ。それに不正アクセスに彼らを巻き込まずに済むならそれに越したことはない」
「・・・そうね。ごめんなさい。あなたたちの意見は理解出来たわ。無理言って悪かったわね」
「い、いや。分かってくれるならいいんだ。ところで、さっきから誰と話して・・・」
「行きましょうガルド」
「そうだな」
そう言って二人は困惑しているAI研究生を置いて天文地質学ラボへと歩き出した。
「ARはせいぜい立体模型や仮想モニターくらいしか表示できないのよ?その姿、まるで・・・」
「食堂の案内板とかと違って、ぶれもないし本当にここにいるみたいに見えるな!師匠体格いいんだ。元軍人だったのか?」
「過去は秘密だ」
さて、さっさと管理者権限を手に入れましょう。AI研究室にも監視カメラがあります。過去数ヶ月の映像をダウンロードして活動を分析。管理者権限へのログインパスコードは、情報漏洩が起きにくい紙媒体で保存されているようです。実に前時代的ですが1番安全です。パスコードが偶然カメラに写ったことはありませんでした。口に出して入力することもなし。ログイン端末は画面もキーボードも監視カメラに写らないように配置されていて、常に背中しか写っていません。学生ながらいい心がけです。アプローチを変えましょう。
最もパスワードを入力する機会が多かった彼をターゲットとしましょう。大学中の監視カメラのログを片っ端から集め、ターゲットがログイン端末に似た端末を操作している場面を抽出。入力内容とその様子を切り出します。次に、AS1経由でジュピター・ノア6の公共医療センターに接続し、バイオメカニクス治療の際用いられる汎用筋繊維信号テーブルとその計算ソフトをコピーしてリプログラム。シティコンピューターにプログラムをロードします。先ほど切り出した映像から入力するキーごとに体の重心や筋繊維の動きに対する信号パターンをシミュレーションし分析、特徴を洗い出します。最後にログイン端末への入力機会の映像を複数この分析プログラムにかければ・・・・はい、パスコードが分かりました。ハードクラックは簡単です。
二人はまだ廊下の最初の角を曲がったところです。ラボにたどり着くまで時間があるので始めちゃいましょう。
背中には気をつけましょう。




