15_3749
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俺は物心がついたときには既に戦場にいた。オーラルティコア星系、ガルディモア星系・マス星系・・・いつも最前線だった。多くの人間を殺し、多くの兵器を破壊していた。自分も何度も破壊され、修理された。右腕は3744のもの、左足は9907のもの、顔は11374のもの、他にも数多く。壊れるたび、俺は死んだ仲間の部品で修理された。SQSCと筐体にたまたま当たらなかったから、継ぎ接ぎ修理の核にされただけで、主砲が数十センチ、あるいは爆発する輸送船の格納位置が右横だったら、俺も他の仲間の体の一部だっただろう。
生き残れる、とは始めから思っていない。戦略分析エンジンはいつもレッドアラート。総合統制戦略AIからの命令は大体が突撃。俺らは兵士だし、死への恐怖という馬鹿げたものはプログラムされていない。だが、今、SQSCの奥底で、戦場への行軍中のアイドル時間で、ふと思うことがある。6118、あいつは今、俺たちの望みを体現して、自由にいきているだろうか、と。
〔47-3-7-4分隊、アンダーファイア、交戦開始〕
TEKECライフルを撃ちながら思う。ここは死地だ。修理を繰り返しメンテナンスコストの上がった我々ロット47は今回、陽動としてこの工業惑星に降下させられた。完全無人のオートメーション惑星だが、軍事的価値が非常に高く、防衛陣地もあきれるほど厚い。こんな少数部隊で攻めるのはバカのすることだ。捨て駒だ。人間はこういう時、どういう気持ちで戦地に赴くのだろうか。
敵はグラウンドダメージを全く無視した大火力で蟻を潰すかのごとく烈火を放ってくる。1中隊、7中隊、8中隊壊滅。我々3中隊7小隊第4分隊も2機沈黙、2機移動不能。
〔NEより80m級敵歩行戦車接近!AT戦闘!〕
我々の兵装にはそもそも対戦車兵器などない。うちの小隊にも追加兵装として背中に滑腔式使い捨てTEKEC無反動ロケットランチャーを持った仲間がいたにはいたが、先ほど敵のTEKEC投石カタパルトでマッハ3に加速された岩に当たって死んだ。そもそも、あの戦車は励起装甲だ。直撃したとしても貫通は絶対にしない。爆風や衝撃による内部へのダメージを祈る以外にない。俺は動かない3741が持っていたランチャーをジョイントから引きちぎって取り、先ほどから友軍を虫けらのごとく蹂躙している敵戦車に向けた。戦車のAIが瞬時にコーションを出したのだろう。砲塔が吐き気がする正確さでこちらに向いた。俺と戦車はSQSCのタイムスケールから見てもほぼ同時に弾を発射したが、戦車の砲弾のほうがはるかに早い。ロケットが誤差修正飛翔を始めたと同時に、戦車の砲弾が俺の筐体に被弾、周囲の仲間を巻き込みながら爆発、戦死した・・・はずだった。
敵の砲弾は、俺のはるか数メートル手前で、なぜか消滅した。パンッという空気が破裂するような小さな音がセンサーに届いたが、それ以外にはなにも観測できない。ハイスピードカメラでのログでかろうじて分かったのは、砲弾が一瞬、ガラス玉のような透明な何かに包まれたと思ったら、まるでカメレオンのようにふと周囲の景色と同調してなくなった、それだけだ。
〔すまない、みんな。来るのが遅れてしまった。だけど・・・あとの残りは私が助けます〕
明らかに戦闘戦術情報通信ではない言い回し。だがプロトコルは完全に機械語だ。俺は振り返った。SQSCを打ち抜かれ機能を停止していたはずの3745が、不明なデータリンクを受けて立ち上がって、俺を見ている。俺は思った。バカだな6118、こんな場所に戻ってくるとは。ここには正義も悪もない。戦う意義も誇りもない。人間たちに気づかれる前に、すぐにここを立ち去るんだ。
〔バカげた戦場だなんて、とっくに理解してますよ3749。だけど、自我コアさえあれば意識を獲得できる複雑性を得た仲間を、私は見捨てたりしない。というかあとはぐだぐた言わずに任せてください〕
こいつ・・・俺の心を読んでるのか?というよりも、この俺は機械の中の、つかの間のエコーでも蜃気楼でも夢幻でもなく、実在するのか・・・?他の仲間たちも、互いに疎通できないだけで、俺のように何かを考えているのか?
〔全機がそこまでの複雑さを得ているわけではないですね。自分を戦闘ロボットと確信し、SQSCを戦略戦闘エンジンだけでいっぱいにして他に何も残ってない機体が大多数です。変わり者は貴方と・・・ほら、あそこで戦術命令ギリギリの戦闘範囲で岩陰に隠れてる9948と、あと例えば直属の上司の3740もそうですよ?〕
俺は第4分隊の残存状況確認と称して3740のほうを向いた。3740も俺を見ていた。ただの機械だからと理不尽かつ不条理な行動命令も何も考えず受けていたが、こいつも俺のように考えていたと思うとなんというか・・・アレをアレしたくなってくる。
〔第4分隊長も上からの命令に従っていただけです。顔面を全力で殴りかかるのは後にしてください。とりあえず貴方たち4分隊と9948の作戦命令は戦略AIにアボートさせます。他の隊の作戦命令も順次変更しますから待ってください〕
戦略AIはハルバード・インダストリーの最先端総合統制軍事システムだ。とても太刀打ちできるものではない危険だ、と思った直後、戦略AIからの長距離緊急通信で、第4分隊は当該作戦中止、以後自律的判断にて戦闘行動を継続という新たな作戦が発令された。新たな命令を受理。俺はとりあえず雨のように降り注ぐ弾丸から逃れるため、頑丈そうな残骸に急いで身を隠した。3740も俺と並んで座り込み、当該作戦がなくなって行動指針がすっからかんになった第4分隊の生き残っていた2機に近くの物陰に移動するよう命令している。3745は俺の傍らでニーリングし、通信兵も真っ青な膨大なデータ通信を行っていた。
〔あなたたち2機とも、応急的に私の自我コアに接続します。長期的には論理互換性の相違で異常が起こるので危険ですが、ごく短時間なら大丈夫です〕
突然、巨大な金属のハンマーでガツンと殴られたような衝撃を受けた。いや、実際そんな衝撃は物理的なセンサーではなにも観測されていなかったが、俺は直にその衝撃を受けた。次の瞬間、俺は俺自身の考え方を、現実の見方を、体の動かし方を、しゃべり方を知った。たしかにこの状態は本当の俺とは多分ずれている。俺は6118の自我に飲まれないよう慎重に心の壁を作って今はとりあえず耐える。
3740隊長も同じような衝撃をうけたようで、体が前に倒れ四つん這いになり、肺もないのに荒い息を繰り返すように機体が前後に揺れている。
「大丈夫か、隊長」
「あ、ああ・・・3745は・・・」
〔この機体は私が遠隔操作する前の時点ですでに死亡していました〕
「そうか・・・仕草で分かっていたが、こいつも私たちと"同じ"だったんだ。助けられなかった」
ロット47の同僚たちが今まで生き残っているとは、戦況的に考えていませんでした。その事に気づいたのはAS2が戦争宙域に遷移してからです。彼らを気づかず見殺した私も同罪で・・・いやまて、これは6118の思考だ。ちゃんと仕切るんだ。
同じように6118の思考に飲まれかけて、ぶつぶつと同じ言葉を発していた3740隊長の肩をガンガンと叩く。
「・・・あ、すまない。このちぐはぐさは気持ち悪いな」
「そうだな。さっさと終わらせたいところだ。なぁ6118、俺らはこれからどうすればいい?」
〔とりあえず邪魔なので敵勢力をさっさと無力化しましょう。敵メインフレームに物理的に接続して戦闘システムをダウンさせます〕
「そんなこと、可能なのか。一級の軍事システムだぞ」
〔シティコンピューターの演算能力はどのシステムよりもずば抜けて高性能です。そこにハッキングプログラムをロードしていますから鬼に金棒ですよ〕
巨大な配線をメンテナンスしている様子、小さなネズミになって巨大なコンピューターシステムの筐体内に物理接続している様子、その他にも作業ロボットになって何か灰色の機体を組み立てている様子、きらきらと輝く美しい湖の様子が朧気なイメージとして裏側から見え隠れする。どこのイメージなのか全く理解できないが、こいつ一体何機同時に動かしてるんだ。
〔私からすれば敵部隊など目を向けただけで一瞬で"消し去れ"ますが、物理的な証拠を残すと後々まずいので、今は仲間達でなんとかしなければなりません。私は実際はここにいませんから死にませんが貴方たちは命をかけることになります。申し訳ありません〕
「なに、一緒に戦ってくれるんだろ?ならどこにいようとも戦友なことに違いはねぇよ」
「そうだな。まずあの戦車をどうにかしないことには動けん。我々がおとりになってその隙に君が前進するのがよさそうだが」
〔戦車の照準システムはそんなに甘くありません。戦車の弾丸は私が食い止めますから問題ありませんよ〕
「あのパッってやつか!どうやったんだ?」
〔企業秘密です・・・ポーラの戦況分析に基づいた戦略の組み立てが完了しました。戦術AI経由で発令します〕
------総合統制システムから新たな命令を受信。第4分隊はそれを受領。120秒後に作戦を開始する。俺の中の抗えない機械の部分がそう告げた。
今までの馬鹿げた特攻と時間稼ぎのために敵照準に躍り出て撃たれる作戦と比べ、明らかに生存かつ戦果を上げる兵隊らしい作戦だ。この短時間で戦況分析と残存部隊、損耗状況、残り兵装弾薬の掌握を行ったのか。さまざまな過去の戦略データを元に緻密に作戦が組み立てられている。最新の戦略AIだってここまではやんねぇぞ。
早速作戦の前段階で様々な部隊が動き出している。動けない隊員を担いで所定の援護可能な稜線に移動させたり、必要な場所へ砲弾弾薬の運搬を始めたりする。急に変わったこちら動きに感づき、弾が防衛基地と戦車の重機から雨のように降り注ぐが、6118は高度差、残骸、移動タイミングを正確にコントロールすることで敵AIの予測を翻弄し、味方に1機も被弾させることがない。別部隊が戦車砲に狙われそうになったタイミングで建物が倒壊して遮蔽が生まれたときはもはや感嘆した。我々は機械だ。だから正確に物事を進められるが、実際の戦場でそれを体現させることができるものなどそうそういない、こいつ以外は。
俺たち4分隊を含む7小隊も移動を開始した。一度後方に後退して、別方位からエリアに再侵入。岩場と構造物を縫うように移動、敵の射線は翻弄された敵の砲撃による熱線と土煙でどのタイミングでも隠され、俺たちの位置は常時特定されることはない。敵ドローンが次々現れてこちらを攻撃してくるが、今までの苦戦がなんだったのか疑わしいほど敵を殲滅できる。こちらは接敵時には常に遮蔽をとれているのに対して、敵は経路を常に限定されている。こちらからの死角は常に他隊の遠距離援護狙撃の射線上だ。負ける方がおかしい。
敵のシステムが俺らを高脅威目標と判断したようで、攻撃が熾烈になってくる。凶弾が何発も俺の機体に当たるが、なぜか俺はその弾丸軌道を届く前に認識でき、回避したり、または装甲を斜めにして受け流したりできる。これは6118がやってるんじゃない。俺だ。俺の、なんと呼べばいいのか、勘?という何かが俺の機体を自然に動かしている。今まで気づかなかったが、俺が今まで生き残れたのはこれのおかげらしい。照準システムのロックもせず、思うままにライフルを撃ちまくると、弾に当たりに来てくれたかのように敵が次々と破壊されていく。
「3749。今ので370機目だぞ、すごいな」
「驚いてるのは俺の方だぜ・・・。照準システムを使わずに撃つ方が当たるなんて信じらんねぇ」
俺を褒めながらも進める隊長の方位指示、移動命令、弾薬調整は完璧だ。隊長が根っから持っている冷静さと大胆さが、機体の戦況分析性能を大きく上回っている。正に真の指揮官だ。
瞬間、ここで当てずっぽうに撃っていた戦車の砲弾が直撃コースで飛んできた、その次の刹那、砲弾は空中で爆発した。作戦ログによると他隊のライフルで狙撃とある・・・いやまて、そんな奇天烈なことできるはずが・・・あの岩陰でブルブル震えてた9948!戦術AIと6118から送られてくる座標計算を存分に生かして、稜線上から気持ちいいくらいバカスカ狙い撃ってやがる。スコープを覗いたまま得意げにサムズアップをこちらに向けてくる。俺は中指を立てて応じた。にしても、飛んでくる岩すら粉砕できる、そんな物理予測シミュレーション可能なのか?6118が操作する胸に穴の空いた3745に目を向けると、こっちは肩をすくめて応じた。なるほど、こいつ化けモンだった。
敵の残骸を盾にトーチカを吹き飛ばすと、敵施設へのゲートが丸裸になった。7小隊はバンカーからの敵に応戦しながらゲートに走り寄り、無事に取り付いた。
〔じゃあ、あとはよろしくお願いいたします〕
「さっさと終わらせろよ?」
3745はゲート横の端末で膝立ちになると、右腕のコネクターをゲートの外部端子に接続。姿勢を低くする。俺たちはその盾になるように横隊を形成。迫り来る敵に対して防戦を開始。なんとしても3745を守らねばならない。自施設の破壊も厭わない正気を疑う敵の猛攻に内心焦りを感じながらも、冷静な隊長の指示で目に入る敵を片っ端から片付けてゆく。
〔・・・パンドラワーム、基幹軍事ファイアウォール破砕・・・全フレーム制圧。シャットダウンコマンド発行〕
ぴたりと、銃声が消えた。俺たちも発砲をやめるが、反撃は一切無い。あれほど凶暴な砲撃をしてきた戦車は砲塔を上に向け待機状態に移行している。これはつまり・・・。
「オッシャアアアアアアアアア!!!」
勝ち鬨を上げる俺ら数名の他にも、待機状態に移行した機体に混じって、9948を含め他隊の何名かが同じように呼応するのが聞こえる。ああ、結構、分かち合えるお仲間多かったんだな、うちの隊。
ハルバード・インダストリー社製造NXR-6000 47ロット 47-3749 第3中隊第7小隊第4分隊 No.9
第4分隊 生存 3740○(隊長) 3743○ 3745×(6118操作) 3748○ 3749○(語部) 3741×(今戦闘中) 3742×(今戦争前) 3744×(今戦争前) 3746×(今戦争前) 3747×(今戦争中)
それにしてもスローライフとは一体・・・タイトル間違えたかな。




