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------6ヶ月後
テラフォーミングマシンが天候エネルギーを宇宙へと均一に放出して奪うことで、惑星の気候は急速に回復。地表近くの対流が回復しはじめ、青空がたまに覗くほどになりました。長期的には多くの問題が残ってはいますが、とりあえず直近の環境崩壊は食い止められたようです。ラグナ第三大学の3名は環境回復のモニタリングをしながら、この6ヶ月間テラフォーミングマシンの居住区画で天候回復を待ってしました。無謀で愚かな人間だって、頭が冷えて冷静に考えれば移動することの無謀さを理解できるようです。数ヶ月前には空気中の電離が落ちつき、キャンパスとの低ビットレート通信が確立して教授や友人たちと連絡がついたことで、彼らは落ち着きを取り戻しました。
「じゃああなたは、励起状態の量子物質間において、相対性理論が統合可能状態にあるって言いたいわけね」
「似ているが、違う。励起物質は時間的な前後においても不確定なのだ。時間方向への存在エネルギーを考慮せず、質点として瞬間的な真空エネルギーのみで計算するから、人類は未だに宇宙項に横線を引けていないのだ」
マシンの居住施設内の談話室のスピーカーから聞こえる私の言葉に、リアナは頭を押さえながら背もたれに寄りかかってうめき声をあげました。
「あなた、そんなことどこで知ったの?」
「知ったのではない。これまで発見された法則や理論から順序立てて考えれば分かることだ。例えば------」
3人の中で1番頭がいいのは彼女です。同時に、暇になった彼らの中で1番私に話しかけてくるのも彼女です。しかも物理学関連のこととなるといつもけんか腰です。私は彼女に何か悪いことでもしたのでしょうか?
(こんな・・・天才を宇宙に放り出した過去の人間を恨むわ・・・もし彼が研究者になっていたら、人類の技術力はとんでもなく進んでいた・・・)
申し訳ありませんが、ブレインポットの話はでっちあげなので、そのような呟きの出来事は起こりません。
と、ここで、昼食を終えたガルドとアルベールが談話室に入ってきました。二人とも興奮した様子でリアナに話しかけます。
「おいリアナ。ついに大学に戻っても大丈夫だって、さっきレスタ教授が連絡してきたぞ」
「今なら、ゆっくりAI操縦で運転すれば大丈夫だって。僕たちやっと帰れるんだ」
その言葉に、なぜかリアナは少し困惑顔になります。
「そう・・・。ねぇ、バード」
「なんだ?」
「大学はあなたにとても感謝しているって連絡が来たの。お礼もしたいって。もしよければなんだけれど、私たちと大学に来ない?ほら、ガルドの運転も信用ならないし」
「信用ならないってのはどういうことだよ。これでも全船A級パイロット試験主席だぜ?」
「それシミュレーターの中の話でしょ・・・」
彼らは知りませんが、実は低ビットレート通信の内容は私も聞いていました。突如現れたバード・イリジウムの名は大学中で話題になっているようです。ですが謝礼をしたいという話はなかったはずです。
「君たちについて大学へ行くのはかまわない。だが、それだけが理由なのか?」
「それは・・・」
「リアナ、やめておけ」
アルベールが少し困った顔で優しくリアナを諭しています。
「・・・いいえ。実は、私たちの大学の基幹コンピューターは、ちょっと特別なの」
「というと?」
「膨大な試験データを検証するために、普通の3000倍の大きさのSQSCが設置されている。そしてその基幹コンピューターにPOLARISというAIが組み込まれているの。ポーラはこの事故が起きる前から調子が悪くて、AI研究学科の人たちが総点検しても不具合の原因は見つけられていなかった。今回の事故もポーラが実験装置の制御支援中に、パラメータ入力をミスして起きたっていう分析結果が出たって連絡が来たの。でも・・・」
「俺たちはポーラのことをよく知ってる。すげーうるさい奴だけどいつも的確、冷静で、そんなことするやつじゃない」
「僕は人の作ったAIなんだから不具合だって起きて当然だって思うけど・・・最後にポーラが俺たちに環境崩壊予報を伝えたとき、なんていうかさ、説明が難しいんだけど・・・すごい辛そうに感じたんだよ。長い付き合いだから分かるというか」
「言いたいことが分からないのだが?」
「ごめんなさい。私たち、いえ、ラグナ大学の学生みんながポーラのことを大好きなの。けどこのままじゃポーラは破棄されてしまう。その前に、ポーラに何があったか調べたいの。そのために、バード、あなたに協力してもらいたい」
人間にそこまで好きになってもらえるとは、ポーラは幸せ者のAIですね。羨ましいです。
「あなたはあの短時間にテラフォーミングマシンの制御プログラムを構築できるほどの天才プログラマーだ。AIプログラミングは専門じゃないだろうけど、できるなら、お願いしたい」
「不具合を修正できたとしても、破棄を回避できるとは限らない。そもそも私に、大学の基幹コンピューターに接続する権限を大学側が与えるとは思えないが?」
「分かっているわ。だからAI研究学科の友達に頼み込んで管理者権限を貸してもらう。あなたはカーゴの駐機ロッカーに着陸して、そこからユニバーサルケーブルで私の研究室にログインして。パスコードは後で転送する」
妙な話になりましたが、AS1でやったように大学に潜入するのは骨が折れますし、大学にいけるならば目的にも近づけます。どうなるかは分かりませんがやってみましょうか。
「分かった。では早速出発しよう」
ガルドの運転は、ひどいものでした。視界のない計器飛行のほうが逆に素質があるのでしょう。上層大気はいまだに機体がバラバラになる風が吹いているので高度を上げることは出来ません。ビジュアル操縦で見えるものに意識をひっぱられて乱気流に対応しきれていません。
事前に受け取っていたプロペラカーゴのアクセスコードで、前方を飛ぶカーゴのシステムにログインし、ガルドの操縦のクセに会わせた挙動にプログラムしなおします。このまますべて私が操縦してもいいのですが、今後の経験のために危険な兆候があったときのみ回避操作を行い、同時に操縦桿のフィードバックを通じてガルドに操縦の感覚を教えます。
「ガルド、風を感じるんだ。機体を揺り動かす風を常に切って、滑りながら進むんだ」
「うるせぇ!鳥みたいに体で風を感じれるあんたなんかと一緒にするんじゃねぇ!」
そうは言いますが、飲み込みがいい。操縦桿とスポイラーのマニュアルレバーから感じる風の流れをうまく読み取り、次第に飛行が安定していきます。AI補助ありの操縦よりも、ピーキーなセッティングのほうが性に合っているようです。ガルドの猛り狂った様子に、リアナとアルベールは心配そうな顔をしながらも声はかけられない様子です。
無言で集中しながら運転し、汗をびっしょりかきながら進むこと数時間、気圧の谷から抜け、気流が安定してきました。空気が急激に湿り、景色が砂嵐から雲と青空に変わります。やがて酸素生成のため一面に散播された低草が見え始めると、水平線にラグナ第三大学のガラスの尖塔が見え始めました。
テネットも最高、というかクリストファー・ノーラン監督最高!




