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ヘータ機関の物質遷移モードは宇宙の確率事象を操ることに近く、緻密なコントロールが求められます。ですが宇宙の物質はいわば"イデアの似姿"であり完全剛体ではないため、量子的振る舞いも発生する分子を使った装置ではゲートを制御しきれません。そこで、制御リングとゲートの間の中間層にエネルギーを用いた擬似的な橋を構成した上で、これを一瞬だけ剛体に反転させゲートを"挟む"ことにしました。この構造によって、物質遷移の必要エネルギーは当初の予想よりも格段に減少しました。工場区画に放置されているARIビットのバッテリーでも数百kgの物質を遷移可能かもしれません。やってみましょうか。
私がそうやって工場区画での作業計画を考えていると、夕日の向こうから青年がこちらにやってくるのが見えました。アルバです。アルバは無言で台座に座ると、膝を抱えて黙り込みました。またなにかあったのでしょうか?
統制AIから議事堂の警備ネットワークを経由して会議室の監視カメラに接続。時間を遡って今日の議案内容を確認しました。ふーむ、アルバは今日もかなりケチをつけたようです。若い熱量で話していますが、理想論だの現実が分かっていないなどでダメだしを食らっています。
「テラフォーミングマシンを停止させ、代わりに農業地区に安定的に水を供給できるようにする水生成プラントを設置するのは私も賛成です。しかし、生成純水は生物には良くない影響をもたらします」
「・・・知ってるさ・・・でもこのままじゃダメなんだ。α1は役目を終えているテラフォーミングマシンを環境管理のために未だに使い続けてる。けどそれじゃ、いつかは問題が出るんだよ。豊潤、天災、火災すらも発生しない高度な防災システムは安全だけど、みんなは衰退する」
「究極に過保護な生活はストレスを受けませんからね。マシンがもし故障したら弱体化した人々は自然の猛威によって滅びかねない」
「・・・よく知ってるね。僕はそのことを調和会議中に知った。だけどα1の人たちはこの惑星にある多くの施設の設計理念を学んできていないから、天気を操れるただの便利な箱程度にしか思っていない。真にその危険性を理解出来ないんだ」
学んできていない、というのは語弊がありますが、まぁそれは仕方ありません。地球の歴史情報から生活技術や農業技術を再生し、その技術水準で教育された移住従業員の子孫である彼らからすれば、いわば数千年は進んだ未来の機械を扱っているようなものです。短い時間とはいえ、銀河人類のテクノロジーとアーカイブに触れたアルバと意見が合わないのは当然です。
「マシンは新しいですし、メンテナンスを怠らなければそうそう故障しません。数百年後の人々のことまで考えて、今のQOL引き下げることに反対するのは当然です」
「・・・僕は今、僕が生まれてから100年先の人々と会話してる。もしもう一度旅に出て、戻ってきたら故郷がなくなってたなんていう恐怖は・・・味わいたくないんだよ」
「あなたは今やこの星の重役です。おそらくもう一度恒星間航行をすることはないでしょう。・・・そうですね。私がテラフォーミングマシンのコマンドを分析して制御します。気づかれないように数百年後かけて少しづつ機能を停止させていけば、やがて彼らは自力で生きていく力を得られるでしょう」
アルバは驚いた様子で顔を上げ、こちらを見ます。
「・・・そんなことできるのか?それだとお前は・・・ずっとここにいなきゃいけない」
「ずっとここにいるつもりでした。ちょっと趣味で未知の技術解明をする、その程度で」
「何かしたいこととかないのか?たとえばほら・・・新しい知識を得たいとか、同じような仲間に会いたい、異星人に会いたいだとか」
「----それはアルバの望みですね・・・面白そうです。何百年かかるか分かりませんが、そういうことをやってみたいと思うのも悪くありませんね」
「そうだね。そのときには僕は死んでいるだろうから、その報告が聞けないことが残念だよ・・・」
アルバの叶わぬ夢を継ぐこと。なぜかは分かりませんが、不思議と私はその夢に共感していました。
インターステラー最高!




