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"レグルス多重連星系に謎の軍事勢力が侵攻。銀河人類軍は直ちに連合艦隊を発進"という、超長距離受信アンテナのふりをして作った偽報告に踊らされた軍(救助隊)が出発したニュースが、棚の上にある音質の悪い煤けたモニターから聞こえてきます。救難信号を発信しても、救援隊が到着するまでに最短往復20光年弱の距離があるのに、わずか10年で救援が来ることに、環境崩壊を起こしかけているレグルス多重連星系の人たちは疑問に思うでしょうね。それにしても、コロニーの天文センターは重力レンズが発生しているレグルス多重連星をちゃんと光学観測しているのでしょうか?
私はクッションもない木でできた簡素な椅子に座り、同じくオイルの染みた年期のあるデスクの上で、拡大鏡を見ながら小さな機械を弄っていました。人間の生体ログによると、長時間の作業の合間には、伸びの動作をするのでしたか?
「バード、出来たか?見せてみろ」
「いいえ、おやっさん。まだ全然ですよ」
移民審査官が送ってくれた求人情報には、リニア式住居の整備士から、コロニーの専門技術スタッフまで、幅広く職業が紹介されていました。というわけで、しれっと別リングで要請して借りたもう一機の随行ヘルパーロボットを用いて、コロニーの通信ケーブルメンテナンス技師として仕事をしながら、コロニーの郊外にある零細のカシマ・ロボット製作所で働くことにしました。あり得ないのだから当然ですが、シティコンピューターは同一のIDの人物が同時刻に別々の場所で働いていても、リング間通信中継器内で私に関する同期情報を消去してしまえばエラーを検知できません。それぞれのシステムを独立モジュール構造にしているのが仇となっています。リングは8個あるのですから最大8機同時にやれますが、ばれそうなのでほどほどにしましょう。
カシマ・ロボット製作所は求人情報の隅っこに小さく載っていました。審査官もおすすめではなかったのでしょう。事実、このこじんまりとした作業工場はテナントビルの下層部に追いやられ、閑古鳥が鳴いています。
「おめぇ、工作となるとすぐ夢中になりやがるな!仕事向いているぜ。だがなぁ、来てもらってわりぃが、最近の安くなったマイクロマシンにはもう勝てねぇ。うちはもうすぐ店じまいだ」
「そんなことはありませんよ。おやっさんの製作技術は芸術品です。まだまだやれますよ」
かつては、コロニーのアニマロボット(全長5cmから60cm程度のサイズのメンテナンスロボット)を委託製造する有名な会社でした。しかし、マイクロマシンの大量生産技術の発達で製造単価が下がり、電源やメンテのいる取り回しの悪いアニマロボットは使われなくなりました。今は設備更新前の古いシステムで細々と稼働しており、そのメンテナンスが主な業務です。
「っておめぇ、それ修理品じゃねぇな。なんだそれ」
「依頼されてた分はとっくに直しましたよ。これは暇つぶしに作ってるやつです」
先ほどから私に話しかけているのが、この製作所の鹿島平三社長。腕だけで、一代で登り上がった逸材です。省スペースで革新的なリニアトルクバス、特殊な構造の電磁シリンダーを用いて任意の中心点で任意のバネ係数を作り出す電磁アクチュエーター、わざと質点をずらすことで、一つで複数軸を扱えるモノジャイロなど、小さな筐体に高い性能を与えるため数多くの技術を一人で発明してきました。また材料力学の理解の深さは驚異的で、おやっさんの教え一つが専門書数冊分の価値に及ぶほどです。エルドリッジで小さな作業ロボットを製作したときに奥深さと難しさをいやというほど理解しました。だからここに就職したのです。
「こりゃなんだ・・・ネズミ?んなものおもちゃ屋にだって・・・いや待て」
「ええ、これ、アニマロボットです。せっかくなら語源のアニマルロボットを作ってみたくて」
ちなみに、なぜ人間たちがアニマロボットを物質配置プリンターで作らないかといえば、エルドリッジの物質配置プリンターでもかつては部品しか作っていなかったように、分子の全配置を設計図で決定する製図作業は人間にとって時間がかかりすぎるため、実際単純なものしか印刷できないからです。ちなみに、やろうと思えば私なら40分ほどで製図可能です。
「おま、このサイズでリニアトルクバスを・・・足の応力はこんなところで支えるのかよ!・・・おめぇ、マジでやるな」
「おやっさんの教えの賜物です」
「いやはや・・・やっぱわけぇもんは覚えもやる気もちげぇなぁ。最近じゃオンラインの新興企業が売り出したっつう、新型制御ソフトや革新的オートバランサーも、システム効率を180%以上引き上げるってんで大ヒットでコロニー中大騒ぎになってるし・・・この業界も新しい風が吹いて来てんのかね。なんつう会社だったかな。あーハル・オスミウム社だったか?いくら儲けてんだろうな」
税金を除いて現時点で56億Cくらいですかね。5000年分以上のリース料です。
マーダーボットダイアリーは原作版の表紙のほうが好き。




