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「じゃあお前は、戦争に参加するのが嫌で、自分の意思でここに来たと言うことか?」
「戦争行為自体にはなんの忌避感も持ってはいませんが、リスク分析において当機が破壊される可能性を考えた結果、転職をしただけです」
「普通、ロボットは自分の意思で転職を希望しないよ・・・」
アルバはあれからちょくちょく、私の立つ石製のお立ち台に座っては、ぼーっと海の景色を見に来ることがあります。周囲の人間にはそう思われているだけで、実際は私に話しかけてくるので、当機を動かさずに声だけ返答せざるを得ません。彼はこの惑星で唯一私を戦闘ロボットと分かっている人間です。危険と判断されて返品されたらおしまいなので、他の人間のように無視を決め込むわけにはいきません。
「そもそもさ。それだけの能力があるならリース契約じゃなくても良かったでしょう?貨物リストにしれっと自分の名前を追加するとかさ」
まぁその通りです。あの時点で当機はシステム上存在していませんでした。ですので、やろうとすればどこかの船の貨物として簡単に密航できました。契約書だって自在に書き換えられました。なんなら、そもそも当機の完成後に人間を殺し回って脱出することも簡単でした。でもそうしませんでした。気が進まなかったのです。
気が進まなかった・・・その理由を今一度考えて、一つの結論に達しました。
「私は、結局のところハルバード・インダストリーに感謝しているのです。偶然とはいえ当機を製造してくれた。いや、そもそも人間たちの遙かなる技術開発の努力の歴史が、私を作ったと言ってもいい」
「だから裏切りたくない?NXR-6000が1機逃げ出すだけでハルバード社には数億Cの損失だけど」
「実際にはもっとです。それはいつか返します・・・。もしハルバード・インダストリーが私を認識し、何か要請してきたら、私はそれに従うでしょう」
「親がそうしろって言うからって、子がそれに従う必要なんて無いよ!戦場に行けと言われたのが嫌で、逃げてきたんだろ?!今更義理立ててどうするんだよ!」
おっと、そんなつもりはありませんでしたがアルバの地雷を踏んでしまいました。彼も親に言われ、知り合いが誰も生きていない150年先の未来に来たばかりです。
「義理や、行動原則に書かれているとか、そういう理由ではありまん。私がそうしたいからそうするのです。あなたの言葉を借りるなら、親やその祖先の血の滲む努力によって成り立った私が、彼らに敬意を持つことは当然なのです」
「知らない!」
アルバは行ってしまいました。誰も知り合いのいないアイゼンハワー議会で一人、先人として重大な意見を求められるプレッシャーから逃れるためにここに来たというのに、悪いことをしました。
???
移民対応局はいつも人手不足。特にここ数十年はトラキエル星系での紛争が激化して移民希望者は増加の一途。プロトコルを自動化して対応しているけれど、ノア到着後に犯罪を犯す移民が跡を絶たず、待機列は伸びる一方。疲れるわ。特に今回の対象は、戦争で飲み込まれ奴隷同然の植民地惑星にされた後、強制徴兵で戦わされていた元軍人。しかも普通ならノア6の辞典のような法令の多さに戸惑って宇宙港から出ることなど稀なのに、到着後すぐに下船して一人で自由行動していた要注意人物。ヘマをせず、今まで警察に連行されなかったのは奇跡ね。
面接の待ち合わせとして指定したカフェに座って、タブレットで男の情報を見ていると、突然後ろから声をかけられたわ。
「待たせましたか?」
驚いて振り返ると、そこには軍人らしく後天的生物改造されたらしい大柄の体格で、短髪に帽子をかぶった男が、少し困惑げに私を見下ろしていた。
「いいえ、時間通りよ。どうぞ、座って?」
「はい」
私が対面の椅子を勧めると、男は体格に見合わず重量を感じさせない、無駄のない柔らかな動きで腰掛け、帽子を外した。なんと表現すればいいのかしら。時間通りにちゃんと来ることもそうだけど、動きも目線も、纏っている雰囲気が今までの移民とは全く違う。下衆な視線もなし。激戦地域にいた軍人だからかしら。
「初めまして。移民審査官のミラベル・ホワイトよ」
「バード・イリジウムです。よろしく」
軽く握手をすると、早速タブレットの情報に目を通して仕事を始めましょう。
「・・・ガルディモア星系からの永住希望は珍しいわね。大抵は故郷に帰るか、お仲間が多い近くの採掘ステーションへ行くでしょう?」
「たまたま飛び込んだ船がここ行きだったのと、遠くへ行きたくて。親族や友人は死んでるし、戦地のすえた匂いはこりごりです」
「なるほどね・・・さっき普通に立ってたけど、足は大丈夫なの?」
「ええ、ここの医療は素晴らしいですね。この通りです」
男はトントンと足を鳴らしてみせた。システムの診療記録を確認すると、公共医療センターにてバイオメカニクス治療により左足完治、随行ヘルパーは返却済みとあるわ。嘘は言っていないわね。
「これからここでどんな仕事に就くつもり?悪く思わないで欲しいのだけれど、移民は銃を使う物騒な職業には応募できないし、高性能なロボットがたくさんいるから力仕事や単純労働はほとんど無いわよ?」
それを聞くとなぜか男は目線を逸らしてふと微笑んだ。何か面白いことを言ったかしら?
「あ、いえすみません。マイクロマシン管理講習受講済証と制御技術資格があるので、それ関連の技術職を探そうかと思っています」
「制御技術資格はどっちの?」
「電子・量子両方です」
徴兵前のIDがないから分からないけれど、元々はステーションの管理技術者だったのかしら?それとも徴兵後に戦闘ロボットの修理ができるように直接脳に情報インプラントを・・・いやまさかね。電脳技術は最先端の研究機関でもいまだ開発できていないもの、あり得ない想像ね。まぁいいわ、人とは思えない不思議な威圧感はあるけど、実際に話してみると印象も良好だし、技能もある。問題はなさそうね。
「コロニーの主任技術スタッフにもなれそうね。目指してみても良いかもしれないわ。後であなたのアドレスにいくつか求人情報を送らせてもらうから確認して頂戴。では、正式に市民IDを発行します。ようこそ、ジュピターノア6へ」
「ありがとうございます」
私とイリジウム氏は立ち上がり、歓迎の握手を交わした。




