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探偵と私の関係

「逃げられました」

私の言葉に上野さんは「出口は見張ってたのに」と悔しそうに言ったので、奴がトイレの窓から出てスーパーの裏手から逃げ出したのだと説明する。犯罪者ばりの逃走劇に上野さんも呆れたようだった。

「そこまでするなんて」

「奴が関節を外せるなんて知りませんでしたよ」

「でも、まだ発信機があるじゃない」

励ます上野さんの言葉に私は首を横に振った。

「いいえ、あいつは尾行に気づいたんですよ。

もう私たちの求める情報がある場所には行かないでしょう。多分、そのまま家に帰るんじゃないですか?」

私の言葉に上野さんは発信機の点滅する1点の様子を見て、天を仰ぐ「その通りみたい」

「と言うことは、これまで奴が行った場所から何かのヒントを得ないといけないです」

「でも、行ったところなんてスーパーぐらいよ?

スーパーで靴を脱ぐことがある?」

「そもそも、それを言ったら何であいつはスーパーのはしごなんかするんですか」

「趣味だったりして」

「趣味の途中であんな逃走しますかね。いくら尾行に気づいたからって」

「それも、そうね。

でも、もしかしたら全く無関係の事に逃げていたのかもしれないわ」

「無関係の事?」

「どこかで恨みを買ってたり、追われるような心当たりがあったんじゃない?借金とか?

尾行が私達じゃなくてアッチ系の人たちだと思ったのかもしれないわ」

上野さんが順調にあいつのことを理解しているようで涙ぐましい。人はこうして『異常』に慣れていくのか。

「それは否定できませんけど、、」

でも、もし本当に奴が追跡者"x"に追われているとして、追っ手をまんまといた後に家に帰るのはうなづけない。標的を見失ったら追跡者達が家にやってくるのは想像力がなくとも分かる。

しかし、そもそも新木場は何のために外出したのだろうか?__本当にスーパーめぐりが趣味なのか?

そうだとしたら打つ手はない。

紛らわしく外出するなと言いたいものではあるが。

「新木場さんに、聞いてみたらどうかしら」

考え込む私に上野さんは提案した。正直なところ、私は全くそれを思いつかなかった。

あの男に聞く?そんな事ができるのか?

「、、、それは、難しいと思います」

「なんで?新木場さんは確かにちょっと変わってるけど悪い人ではないでしょ?

私の為に、、、疑われる危険をおかしてくれたわけだし」

彼女が新木場の部屋を見たら「ちょっと」がどのように変化するか実験したい所ではあるがやめておこう。

どのような人間関係であろうと、信頼が大切なのだ。信頼がなければそれは簡単に破綻する。

「__たとえば、私はあの男の弱味を握っています。

だから、それを使って何を隠しているんだと脅す事はできます」

「え、ちょっと、別に脅す事ないわよ。

普通に尋ねればいいじゃない」

「しかし、脅迫と言うのは双方に危険をもたらすものなんです。

脅迫者は脅迫される側にある種の信頼を持たれなければならない」

「、、、あやかちゃん?私の声、聞こえてない??」

「それは、確約です。

脅迫者は最初の態度を変えてはいけない。

これを物価高騰ぶっかこうとうだからと値上げさせたり、脅迫する側だからと言って相手に横柄おうへいな態度をとったり、それから自分に都合がいいからって他の人間に同じネタで脅迫をかける__そう言う行為は背中からぐさっ、もしくはどかっに繋がってそのまま地獄行きです。

脅迫者は会社の上司よりも信用のある存在でなければいけない。上司なんかは社会の枠踏みの中だからまだ我慢するしかない、と自分をこらえますけど、もしアウトローな関係だったら迷わず、、、分かりますか?」

私の説明に戸惑った表情を浮かべる上野さん。

心情は何となく察する。

この子、まだ小学生よね?なんで会社の上司とかをたとえにできるのかしら?お父さんお母さんの影響?__まあ、こんな具合だろう。

「え、ええ。それはわかったけど、、あの、新木場さんに」

「私がなんの証拠もなしに、脅しネタをぶら下げてあの男に真相を尋ねても口を開くかどうかは謎です。寧ろ約束を破ったから、とこれまでの関係を破って好き放題し出すかもしれない。

それだけは避けたい」

そう、それは諸刃の剣なのだ。

私が初めて新木場の狂気に触れた時、こいつは兄にとってよからぬ存在だと瞬時に悟った。

今でもあの第六感は正しかったと自負している。

そして私は懸命に奴を探り、ついには奴が何を恐れているのかを知った。

それと引き換えに私は__「お兄ちゃんの家にしょっちゅう訪ねてこないで」「待て、緊急時は?」「それから、お兄ちゃんからお金を借りない事」「僕を馬鹿にするなよ!お金は貰うものであって借りる物ではない!!」「お兄ちゃんからお金をもらわないこと」「OMG、、、」「自分の尻拭いをお兄ちゃんにさせない事」「してな」「お兄ちゃんに厄介事を押し付けない事」「し」「お兄ちゃんを厄介事に巻き込まない事」__「それから探偵であること」「?探偵??」「お兄ちゃんが目を覚ますまでは、あんたはちゃんとお兄ちゃんの望む探偵役とやらを演じ切りなさい、そしたら()()()をけしかけないと約束するわ」__という何とも馬鹿馬鹿しい契約を提示した。

最終的に「そんなゲティスバーグのようにお兄ちゃんを連呼しなくても!」と捨てセリフを吐きながら奴は逃げていったが、その後多少態度を改めたので契約は成立したのだろう。

この世で最も間抜けていて幼稚じみた時間を耐え、こうして私は兄の平和を手に入れたのだ。

しかし約束上、上野さんには私が新木場の弱味を握っていることと、私達になんらかの利害関係があることまでしか言えない。彼女に約束の中身を詳しく聞かれたら困るけど、そんな心配はなかった。

上野さんは私の様子にちょっと考え込んだ後、一言。

「そんなに新木場さんに"お願い"するのが嫌なの?」

………

いやっ!!絶対(いや)!!

あの男に優位に立たれるなんて何があっても絶対にいや!!!」

しょうがない、たとえ子供じみた我儘わがままだって言われても、私ってまだ小学2年生なんだから。


__現在時刻 16:30...

次回更新6月1日木曜予定

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