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竜使いのラーシャ  作者: 紅月
別れと失意と救済の女神
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戦場

「ニア…!どうしてここに!?」

「話は後ですわ。時間がありませんから」


 驚くリライを他所に、ニアはすぐに通信石に触れる。


「救助者六名発見。一名、応援をお願いしますわ」


 通信を終えると、すぐにニアはデイルに駆け寄り、状態を確認する。


「搬送の優先はデイル騎士団長ですわね。…エル」

【かしこまりました!!失礼しますねぇ】


 エルは明るい声でそう言ってそっと、デイルを手で包み込む。


「レイヴ、申し訳ありませんがデイル騎士団長に障壁をお願いしますわ。エルが全速力で飛ぶと風圧が凄いのでデイル騎士団長の負担になりかねませんから」

【任せてちょうだい】


 レイヴはすぐにデイルに強固な障壁を張る。


「お嬢様!」


 デイルの搬送準備が整うのと同時に、ニアが呼んだ助っ人が現れる。

 ニアはすぐに子供たちの避難を助っ人に任せると、自分もエルの背中に飛び乗った。

 瞬く間に全てが終わり、リライは唖然としたままニアを見上げる。


「ニア…これは一体…」

「私たち、麒麟商会は騎士団と協力して要救助者の搬送を担っています。デイル騎士団長たちは私たちにお任せ下さい!」


 ニアはそう言って、エルと助っ人に合図を出す。

 それを受けて、エルは地面を強く蹴り上げた。


【行きますよおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!】


 エルはそう叫び声をあげながら、閃光のように空へと一瞬で消えていった。

 その後をニアの助っ人が追い掛けるように飛び立つ。

 一人残されたリライは、ニアたちが消えていった空を見上げる。


「なんだったんだ…?嵐みたいなやつだな…」


 セルジュが以前、言っていた通りエルの飛行速度は凄まじく速い。

 あの速さに対応できるニアも異常だ。


「だが、あれならデイルが助かる確率も上がるな」


 そう、一刻も早く治療を受けることが出来れば、それだけデイルが助かる見込みが強くなる。


「…あいつ、悪運強いからな。大丈夫だろ」


 リライは剣を拾い上げるとポツリと呟いた。


「師匠…!!」


 不意に背後から呼ばれ、リライが振り返るとそこには相棒である茶竜のリーを連れたシズが駆け寄ってくるところだった。

 シズは一年前の契約試験でラーシャに助けられて以来、騎士になるためにリライの道場を通う弟子の一人だ。

 一ヶ月前、シズがラーシャに告白しただのなんだのと、セルジュとソルが騒いでいたのが遠い昔のように感じられた。


「シズ!こんなところでなにやってる!?早く学校へ避難しろ!」

「避難してる場合じゃないですよ!街が襲われるんですよ!?僕も戦いますっ!!」


 リライに怒鳴られシズは眉間に皺を寄せて言い返す。

 それでもリライは厳しい表情のまま首を横に振った。


「ダメに決まってんだろ!死にてぇのか!?」


 その言葉にシズは一瞬怯む。


「訓練でも模擬戦でもないんだ!ここは戦場だぞ!?敵はお前を殺す為ならどんな卑怯な手を使ってでも殺そうとするんだぞ!?わかってんのか!」


 リライの言葉に歯を食いしばると、シズは深く息を吸ってリライを睨みつける。


「何言ってるんですか!今戦わないで、何のために師匠の道場に通ってるんですか!!」


 今度は、リライが言葉を詰まらせる番だった。


「街に何かあった時のためでしょう!?確かに僕は実践経験なんてありません!でも、リーには経験があります!戦えるのに、見ないふりなんて出来ないし、したくありません!!!」

「…だけどな…」


 言葉を濁すリライに痺れを切らしたようにシズが叫ぶ。


「師匠!!」

「…っ」


“さっき戦争になるって言ったでしょ?もし、竜の国が戦場になったり騎士が不在で治安が荒れたりしたら、一般の民の人たちにも戦ってもらわなければならない時が来ると思うんだ”


“なるほど。そのための道場か”


“強制的に武術を習わせる事は出来ないから、まずは習いたい人を募ってやろうと思うんだよね。騎士にとっても、いざって時に一人でも多く戦える人がいたらありがたいでしょ?”


“確かに。守りに入らなくていい分、相手を殲滅する事だけに集中出来るからな。…それに戦い慣れていない竜や戦いが嫌いな竜を無理に戦闘に引っ張り出さなくて済むな”



 不意にライゼと道場を立ち上げる時にした会話を思い出した。

 リライは唇を噛み締めると、シズの肩に両手を置き、深く俯く。


 去年、竜と契約したばかりの子供に戦場に出て戦わせるなんてしたくない。

 子供は安全なところで人の生き死になんて見ないで、いて欲しい。

 戦場の残酷さなんて知らないままでいて欲しい。


 その思いをリライは飲み込むと、顔を上げた。


「…わかった。いいか、お前…いや、どうせ他の生徒も戦うって言ってるんだろ?なら、他の奴らにも伝えろ。麒麟商会が要救助者の搬送を行なってる。だから、お前たちはそれの援護と護衛に回れ」


 リライの言葉にシズは目を輝かせて頷いた。


「はい…!」

「実践経験がないとはいえ、相手の実力を推し量ることは出来るだろう?歯が立たないと思ったらすぐに引け。あるいは騎士か俺に助けを求めろ」

「わかりました!!…リー!」


 シズに呼ばれて、リーは身を屈めて彼を背中に乗せると、空へと舞い上がる。

 それを見て、リライは苦笑した。


「本来は学校を卒業するまで騎乗は禁止だぞ」


 そんなことを言っている場合じゃなくても、小言が漏れ出る。

 そして、両目を片手で覆う。


「ライゼ…お前が言っていたのは、この事だったんだな。…嫌な立場を押し付けやがって…!」


 悪態をつくと、リライは深く息を吸う。

 それから、リライは弟子たちの負担を減らすために、敵を殲滅するべく街を駆け出した。

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