わずかな希望
レイヴの言葉にリライも覚悟を決め、剣を手に取った。
「いいんだな?」
【ええ。デイルが生きていてくれるなら、私はそれで結構】
「よし」
リライは短く息を吐く。
正直なところ足を切ったところで助かるかは、一か八かの賭けだ。
それでも、わずかな希望に縋るしかない。
その時、心配そうにデイルを見つめる子供たちがリライの視界に入った。
「レイヴ、音を遮断できる障壁でチビ共を囲ってやることは出来るか?」
【もちろん】
レイヴの返答に頷くと、リライは子供たちの方に視線を向ける。
「俺がいいって言うまで絶対にこっちを見るなよ。目を瞑るでも、下を向くでも、なんでもいい。とにかく見るな。…わかったな?」
リライに凄まれ、子供たちは目に涙を一杯に溜めて頷く。
それを見て、レイヴがすぐに子供たちを障壁で囲った。
これで、子供たちが余計な音を聞くことはない。
【意外と優しいところがあるんですのね】
やっと泣き止み、鼻を啜りながらレイヴに言われ、リライは肩を竦めた。
「今からやることを子供たちが見たらトラウマになりかねないからな」
そう言ってリライはデイルの傷口と止血をするベルトの間に剣先を当てがう。
狙うはこの位置。
失敗は許されない。
躊躇をすれば、足は切り落とせないし、切り落とせたとしても傷口がぐちゃぐちゃになり、止血するのが困難になる。
リライは深呼吸をすると、能力を使って近くに落ちていたギロチン刃のカケラを家屋を燃やす炎の中に投げ入れた。
これで準備は整った。
子供たちがこちらを見ていないのを確認して、リライは剣を高く掲げる。
「…行くぞ!!」
【お願いしますわ…!!】
祈るようなレイヴの声を聞きながら、リライは剣の柄を強く握りしめると一気に振り下ろした。
「──っ!」
意識を失っていたデイルの目が見開き、声にならない悲鳴をあげる。
それに一瞬怯むが、それでもリライの手は止まる事なく足を切り落とした。
それと同時に、デイルの体がビクンッと跳ね、再びデイルは目を閉じて意識を飛ばす。
剣の柄を通して、肉と骨を切り落とす久々に感じる生々しい感触。
騎士としての過去が脳裏によぎるが、それを押し殺し、すぐに火の中に入れていたギロチン刃を能力で取り出し、デイルの切断面に押し付けた。
ジュッと、肉の焼ける音と匂い。
その光景にリライは顔を顰めながら、自分の上着を脱ぐと焼き付けた切断面を保護するように巻きつけ、キツく締め上げる。
「…これでいい。あとはデイル次第だ」
すぐにデイルを学校にある救護所に運ばなければならない。
ことは一刻を争う。
レイヴに連れて行って貰えばいい話なのだが、ここにいる子供たちも連れて行かなければ。
置いていくことなんて出来ないが、生憎ここにいる竜はレイヴだけ。
…どうしたものか。
リライがそう悩んでいると、空から稲妻のような速さで黄竜が降りてきた。
それに驚いて、リライが黄竜を凝視していると、その背中から戦場には似つかわしくない気品あふれる少女が優雅な足取りで飛び降りる。
栗毛色の美しい髪を耳に掛け直すと、少女はリライを見つけて頭を下げた。
「お久しぶりですわ。セルジュのお父様」
顔を上げると、ニアはリライに向かって上品に微笑んだ。




