相棒のために
「執行人、か……」
鉄の国の執行人。昔、ラーシャの父親であるライゼから一度聞いたことがある。
大昔、国王を暗殺しようとした者に罰として一族の末代まで死刑の執行人の役を与え、その任から逃げられないよう背中に焼印が押されているのだと言っていた。
目の前の彼女がその末裔なら、なぜここにいるのだろう。
自分に向かって飛んでくる無数の針の向こうにいるクレアを見て、リライは首を傾げる。
「リライ!!!」
背後から聞こえてくる切羽詰まったデイルの声で、リライは我に返った。
今はそんなことを考えている場合じゃない。
この無数の針から逃れるのは、無理だ。
ならば、やることは一つ。
リライは深呼吸をする。
一生使うつもりなど無かった。だが……。
「今はそんなこと言ってる場合じゃねぇよなぁっ!!!?」
自分に叱責するように怒号をあげ、左手を高く掲げた──次の瞬間。
無数の針が、リライを突き刺す寸前でピタリと宙で止まった。
その光景に、クレアは思わず口を開けたまま硬直する。
何が起こったのか、わからない。
「な、なんで…」
クレアが放った武器が、意思とは関係なく途中で止まるなんて事は、これまで一度だって無かった。
クレアは針を動かそうと魔力を送るが、針はびくともしない。
「どうして!?」
竜の国は人間自体には、能力がない。だからこそ、竜と契約するのだ。
だから、目の前に立つあの男だって能力は無いはずだ。
無いはずだ。…だが、頭の片隅にある可能性が一つ思い浮かぶ。
「おじさん、能力持ちなの…!?」
その言葉に、リライは少しだけ寂しそうな顔をする。
「若い頃に。…今は亡き相棒のためにな」
ジキルのことを思い出し、胸がズキズキと痛み出す。
それをグッと抑え込むと、手を振り下ろした。
針の先は一斉にクレアの方を向くと、彼女の方へとまるで吸い込まれるように飛んでいく。
「クソッ!」
クレアは悪態をつくと、全ての針を消し去る。
針を消せたことに安堵したのも束の間、クレアは息を呑む。
無数の針に隠れ、リライが一気に間合いを詰めていた。
「遊びは終わりだ…!」
リライは剣の柄を強く握りしめると、クレアの腹目掛けて横一線に剣を薙ぎ払う。




