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店内はなんだかちぐはぐな雰囲気だった。
小人の爺さんだが、皺だらけの顔をしかめて丹念にグラスを磨いている。
じいさんはかっちりと仕立てたバーテン風の白シャツに細身のベストを合わせ、ちょいと蝶ネクタイをひっかけた高級バーに居てもおかしくないようなきちんとした格好をしているが、ここが場末の小さなバーであることを考えるとうそ寒く感じた。
流しは精一杯ムーディに弾いているつもりだろうか、妙に間延びしたスローテンポな曲をかき鳴らしているが、店内に客がいないのだからむなしいばかりだ。
俺たちは眠たく弾かれるギターの音を避けるように、カウンターの一番隅に身を寄せ合って座った。
小人のマスターはすぐに飛んできて注文を聞いた。
クドゥームはすっかり労働者になりきっているらしく、妙に鼻濁音のまじった訛りで話し始めた。
「この店でいつばん高い酒をくれや。なあに、今日は臨時収入があったでよ、こいつにも同じもんだしたってくれや」
マスターがぎろりと一瞬、目をむく。
「カレボルニア訛りだね、出稼ぎかい?」
「だあよ、なんしろこの季節は畑仕事も休み、なのに家にはガキどもがおってよ、これの学費をひねくりださんとあかんのだわ」
クドゥームの演技は完璧だ。
声も少し焼けた感じにガラつかせて、少し背を丸めた様子がいかにもその日暮らしの肉体労働者の風情である。
小人のオヤジが酒を注ぎながら、さらに聞く。
「カレボルニアってことは、やっぱりオレンジを作っているのかい?」
「いやあ、親父が残してくれた畑で野菜を細々と作っているだけでよ、オレンジ農園みたいに羽振りよくはいかんのだわ、これが」
オヤジは酒の入ったグラスを俺の前に押し出して、ぎろりと眼を光らせた。
「で、こっちのお兄さんは? 出稼ぎ人にゃあ見えんがね」
俺が答えるよりも早く、クドゥームが口を開いた。
「ああ、こいつはこっちに来てから友達になったあんちゃんでよお、何でも人を探しているんだと」
「人探しかい、それを出稼ぎ人であるあんたが手伝ってやる義理があるのかい?」
「ああ、なんつうのかね、一宿一飯の義理があんのよ」
これでオヤジはすっかりクドゥームを信用したようだ。
むしろ彼は俺の方を胡散臭い野郎だと思い始めたらしい。
オヤジの目がきゅうっと吊り上がった。
「で、誰を探しているんだい?」
どうやらクドゥームは、俺にしゃべらせる気はない様だ。
これに答えたのも彼だ。
「なんでも、レストアっつう名前のバーテンらしくてよぉ、ここで働いているって聞いたんだがね」
「レストアはワシだが、ワシはこんな男は知らんぞ」
「ああ、知らなくて当然、なんだったっけ、あんたを探してるんじゃなくってさ、女房を探しているんだけど、その途中であんたに話を聞きにいけって助言を受けたらしいのよ」
「女房ねえ」
オヤジは少し目を細めて俺を見た。
それは好意的なまなざしではなく、どうやら俺を値踏みしているらしい、そんな感じの目つきだった。
ややあって、親父はふっと目を伏せて言った。
「あんたの女房ってのは、ハーランかい?」
俺は思わずカウンターに身を乗り出した。




