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 48ストリートに比べたら、俺の住んでいる貧民窟の方がいくらかマシだ。


 歩道の石畳の上で浮浪者たちが何かを燃やして暖を取っている。

 そのたき火が吐き出す煙は真っ黒で、肺の奥がひりつくような刺激臭をあたりに漂わせていた。


 道端に酒瓶を抱えてうずくまった三頭犬ケルベロスが、どろりと濁った眼で俺をにらみつけている。

 真ん中の頭はすでに酩酊しているのかゲエゲエと声をあげて吐しゃ物をあたりにまき散らしていた。


 おそらくここはこの街で一番不潔で最悪な、ごみ溜めみたいなところだ。

 そんなごみ溜めの中を歩く俺の気分もまた、ゴミバケツの底にたまったどろりとした汚水みたいに濁りきっていた。


 街が不潔で気分が悪いというわけじゃない。

 変装のつもりなのか労働者風の脂じみたシャツを着て隣を歩く、このトカゲ頭の男のせいだ。

 俺は押し切られて、レイスに教えられた『48ストリート5番街のムージカというバー』までこの男を案内している最中なのだ。


 これは体を張ってまで抵抗したレイスに対する裏切り行為だ、そう思っただけで胃がむかむかして仕方ない。


 ところがクドゥームのほうは上機嫌だ、これがますます癇に障る。


 俺は目的の店に向かう間中、ずっと無口だった。


 ムージカは、レイスが言った通りの所番地にあった。

 昔は繁盛していた時代もあったのか、軒に分厚い一枚板の看板がかかっている。


 しかし看板はすっかり日に焼けて、木目に沿って大きな裂け目がぱっくりと開いていた。

 それでも深く掘り込んだ文字は消えずに、かろうじて『ムージカ』と店名が読めるのだから、ここが目的の店であることは間違いない。


 扉もだいぶ腐って蝶番が一つイカれているが営業中であるらしく、店の中から物悲し気なギターの音が聞こえてくる。


 店の扉を押す前に、クドゥームは俺に言った。


「おい、転生者であるお前はこっちの世界での立ち回りってものをわかっていない、だから俺に話を合わせろ」


 それから彼は、今にも外れおちそうなボロいドアをそっと押した。

 俺も彼のあとについて店へはいる。


 中は意外にきれいなものだ。

 酒壜の並んだ棚の中はピカピカに磨き上げられていてチリ一つないし、壁紙は最近張り替えたばかりなのか真っ白だ。


 ただ、狭い。

 店の中にあるのはカウンターだけ、それも五人が並んで座ったら満席になるような代物だ。

 流しの男が、すでに一席を占めている。

 いや、この男は横幅のたっぷりとしたギガンテスで、椅子だけなら二つを占領してギターをつま弾いている。


 俺とクドゥームはその男に遠慮するように出口に近い席に並んで座った。

 カウンターの中に立つ店主は、もはや何の種族化も判別できないほどしわくちゃな、小人族のじいさんだった。


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