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 表へ出ると霧が出ていた。


 マムナッタンは時々、こうした深い霧に包まれる。

 東の川がたっぷりと吐き出した湿り気を十分に含んだ温かい空気が、夕暮れも近くなって肌の表面に沁みるほど寒くなった街の空気に冷やされて、大量の霧に変わるのだ。


 乳色の霧の中から眺める街は色をすっかり失って、すべてがグレーの濃淡で描き出されたモノクロ映画みたいだった。

 スウと息を吸えば肺の底まで水が染み込むような気がする。


 通りの向こうを誰かが歩いているが、それもすっかり霞んで、ぼんやりとしたシルエットが動いているだけだった。


 ただ、俺のすぐ隣に立つトカゲ頭だけは、鈍色の鱗がたっぷりと湿気を吸い込んでテラリと光り、かえって調子が良いみたいに見えた。


「さあ、行こう」


 クドゥームは俺に言った。

 俺はそれがてっきり偽の情報に踊らされた彼が「パークアベニューに行こう」と言っているのだろうと思って、そっけなく反した。


「俺は別用ができた。ここからは単独行動で行こう」


 ところがクドゥームは、目をぎらつかせて俺ににじり寄る。


「なに言ってるんだ、ここからはあんたが案内人だ。あの女から『本当の情報』を聞いたんだろう?」


「なぜそれを!」


「簡単な取り調べテクニックだ。一人は容疑者をいたぶる役回り、もう一人は不当に暴力的な取調官から救ってくれるヒーロー……だれだってヒーローには本当のことをしゃべっちまうもんだろ」


「確かにそういう取り調べの方法はある……だが!」


「じゃあ、わかるだろ、レイスはあんたには本当の情報をしゃべったはずだ」


「俺を利用したのか!」


「それに関しちゃ、あんたから文句を言われる筋合いはないな。あんたは女房の行方をたずねるために私を利用している、ギブアンドテイクだとは思わないか?」


 言葉を失って俺が黙り込むと、クドゥームはひどく満足した様子で頷いた。


「わかっただろ、私とあんたはそういう関係だ。さあ、案内してくれ」


 俺はささやかな反抗と、そしてかなりの本気を込めて彼に聞いた。


「なぜそこまでする、そのドゥーティ・カラムってやつにうらみでもあるのか?」


 彼は実にあっさりと答えた。


「いや、恨みなんかない。単に出世のため、デカい相手を捕まえる必要があるだけだ」


「そこまで出世にこだわる理由が?」


 クドゥームは少し黙って、霧に煙る空を見上げた。

 そして、そっけなく言った。


「プライベートな理由だ、あんたに話す必要はない」


 俺は彼の顔を見たが、うろこに覆われた爬虫類特有の無表情な顔からは何の感情も読み取ることはできなかった。


 彼が見上げる空は太陽さえも霞んで、ベールでくるんだようなおぼろな光輪をまとっている。

 その深い霧がハーランの行方を俺から隠しているような、俺はそんな気がしていた。


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