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 部屋に戻ると案の定、レイスの頬はパンパンに腫れ上がっていた。

 俺が出て行った後、さら二、三発平手を食らったのだろうか、鼻血も出ていた。


 レイスはベッドに伏せてしくしくと泣いていたが、クドゥームはそんな彼女にすっかり興味を失ったかのように、洗面台で手を洗っていた。


「よう、取り調べは終わったぜ」


 ニヤリと笑うクドゥームを押しのけてレイスの頬に氷を押し当てる。

 クドゥームは、そんな俺をあざ笑う。


「お優しいことだな」


 彼は自分のポケットから煙草を取り出し、「ふふん」と鼻を鳴らした。


「俺は下で一服して来る。お前も聞きたいことがあるなら、いまのうちに聞いちまえよ」


 彼は笑いながら部屋を出て行った。

 俺は口の中で小さく「クソが」と悪態をついて氷のひとかけらをドアに投げつけた。


 レイスが唇の端を軽くあげて微笑む。


「あいつと仲間ってわけじゃないのね」


「誰があんな奴と仲間なもんか! あいつは俺をいいように利用しているだけだ」


「そうでしょうね、あの男、ハーランのことなんて、何も聞かなかったもの」


「じゃあ、あいつはあんたから何を聞き出したんだ?」


「劇場主であるステーネ・バージンについて……つまり、この街の暗部を取り仕切る大物悪党、ドゥーティ・カラムの居場所について」


 そこでレイスは、小さな笑い声を立てた。


「そんなの、私みたいな下っ端が知っているはずないじゃない、だからあいつにはたっぷりとデタラメを教えてやったわ」


 どうやらこの女、見た目以上にしたたからしい。


「あなたはトカゲ頭と違って、純粋にハーランを探している、そうね?」


 俺は「ああ」と短く頷いた。


「ハーランを見つけて、そして、どうするつもり?」


「わからない」


「わからないはずないでしょ、自分がどうしたいのか、それを答えるだけよ」


「本当にわからないんだ。ハーランが俺を捨てたのなら、無理に連れ戻すつもりはない。誰かにつかまっているっていうんなら、助けてやらなくちゃいけない。もし、もし……ハーランが……」


 最悪の結末を思って、俺は黙り込む。

 レイスはそんな俺の気持ちなどお見通しだったのだろう、軽く微笑んで俺の髪をなでてくれた。


「安心しなさい、あの子は生きているわ」


「じゃあ!」


「ごめんね、居場所まではわからない、それは本当。たぶん私は、あの子には二度と会えないわ」


 ぐうっと顔を近づけて、レイスがささやく。


「48ストリート5番地、ムージカというバーのレストアというバーテンに会いなさい」


「ムージカ?」


「しっ、あいつが戻ってくる」


 レイスは俺の手から氷の塊をひったくると、ベッドに伏して痛そうに呻き始めた。

 なかなかに女優だ。

 そこへちょうどクドゥームが戻ってきて、話は終わりになった。


 クドゥームはレイスなど用済みなのか、ベッドで呻く彼女にはちらりとも視線を向けようとしなかった。

 彼は俺に対して、少し命令口調で言っただけだ。


「もういいだろう、行くぞ」


「行くって、どこへ」


「パークアベニューだ」


 俺は、その言葉を聞いたレイスがひそかに微笑んだのを見逃さなかった。

 おそらくそれは、レイスがクドゥームに与えたウソの情報なのだろう。


 しかし今の彼は自信満々、胸を張ってドアから出て行く。

 俺はレイスに軽く会釈して、彼の後を追った。


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