12
部屋に戻ると案の定、レイスの頬はパンパンに腫れ上がっていた。
俺が出て行った後、さら二、三発平手を食らったのだろうか、鼻血も出ていた。
レイスはベッドに伏せてしくしくと泣いていたが、クドゥームはそんな彼女にすっかり興味を失ったかのように、洗面台で手を洗っていた。
「よう、取り調べは終わったぜ」
ニヤリと笑うクドゥームを押しのけてレイスの頬に氷を押し当てる。
クドゥームは、そんな俺をあざ笑う。
「お優しいことだな」
彼は自分のポケットから煙草を取り出し、「ふふん」と鼻を鳴らした。
「俺は下で一服して来る。お前も聞きたいことがあるなら、いまのうちに聞いちまえよ」
彼は笑いながら部屋を出て行った。
俺は口の中で小さく「クソが」と悪態をついて氷のひとかけらをドアに投げつけた。
レイスが唇の端を軽くあげて微笑む。
「あいつと仲間ってわけじゃないのね」
「誰があんな奴と仲間なもんか! あいつは俺をいいように利用しているだけだ」
「そうでしょうね、あの男、ハーランのことなんて、何も聞かなかったもの」
「じゃあ、あいつはあんたから何を聞き出したんだ?」
「劇場主であるステーネ・バージンについて……つまり、この街の暗部を取り仕切る大物悪党、ドゥーティ・カラムの居場所について」
そこでレイスは、小さな笑い声を立てた。
「そんなの、私みたいな下っ端が知っているはずないじゃない、だからあいつにはたっぷりとデタラメを教えてやったわ」
どうやらこの女、見た目以上にしたたからしい。
「あなたはトカゲ頭と違って、純粋にハーランを探している、そうね?」
俺は「ああ」と短く頷いた。
「ハーランを見つけて、そして、どうするつもり?」
「わからない」
「わからないはずないでしょ、自分がどうしたいのか、それを答えるだけよ」
「本当にわからないんだ。ハーランが俺を捨てたのなら、無理に連れ戻すつもりはない。誰かにつかまっているっていうんなら、助けてやらなくちゃいけない。もし、もし……ハーランが……」
最悪の結末を思って、俺は黙り込む。
レイスはそんな俺の気持ちなどお見通しだったのだろう、軽く微笑んで俺の髪をなでてくれた。
「安心しなさい、あの子は生きているわ」
「じゃあ!」
「ごめんね、居場所まではわからない、それは本当。たぶん私は、あの子には二度と会えないわ」
ぐうっと顔を近づけて、レイスがささやく。
「48ストリート5番地、ムージカというバーのレストアというバーテンに会いなさい」
「ムージカ?」
「しっ、あいつが戻ってくる」
レイスは俺の手から氷の塊をひったくると、ベッドに伏して痛そうに呻き始めた。
なかなかに女優だ。
そこへちょうどクドゥームが戻ってきて、話は終わりになった。
クドゥームはレイスなど用済みなのか、ベッドで呻く彼女にはちらりとも視線を向けようとしなかった。
彼は俺に対して、少し命令口調で言っただけだ。
「もういいだろう、行くぞ」
「行くって、どこへ」
「パークアベニューだ」
俺は、その言葉を聞いたレイスがひそかに微笑んだのを見逃さなかった。
おそらくそれは、レイスがクドゥームに与えたウソの情報なのだろう。
しかし今の彼は自信満々、胸を張ってドアから出て行く。
俺はレイスに軽く会釈して、彼の後を追った。




