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 クドゥームがレイスを連れてきたのは、国営警備兵隊の詰所ではなく、ダウンタウンの片隅にある安宿だった。


 宿とはいっても男と女がセックスのために部屋を借りる連れ込み宿というやつだ。

 部屋は狭く、そこに大きなベッドを置いている。

 ベッドシーツは趣味の悪いピンク色で目がちかちかするし、静かに話を聞くには環境が悪すぎる。


 俺はレイスの腕をとらえているクドゥームに文句を言った。


「まさか、こんなところで取り調べをするつもりじゃないだろうな」


「むしろ他に取り調べに向いた場所なんてあるかい」


 クドゥームはレイスをベッドの上に突き飛ばす。

 そこで俺は、この男の『取り調べ』がどのようなものなのかを思い出した。


「おい、女に暴力を振るうつもりか」


 俺はクドゥームに抗議したが、彼は口を薄く開いて鼻先で笑った。


「フェミニストなのか」


「そうじゃない、女に乱暴なことをするのが許せないだけだ」


「へえ、そいつはカッコイイね。だけど私は男だから女だからっていう差別が嫌いでね」


 クドゥームは壁をこつこつと叩いて冷たい声で言い放つ。


「さて、この通り安普請だから声は通る。だけどここに来る客の中には『そういうプレイ』をする奴もいるから、普通に悲鳴を上げたくらいじゃ誰も助けに来ちゃくれない。だから安心して、存分に叫ぶがいいさ」


 クドゥームがレイスの髪をわしづかみにする。

 彼女は悲鳴を上げて身をよじったが、そのくらいではクドゥームの指の一本さえ振りほどくことなどできない。


「やめて! おとなしく話すから、乱暴しないで!」


 しかしクドゥームは無慈悲にも、さらに彼女の髪を引いてその頭を吊り上げる。


 俺はそんなクドゥームの腕を取り押さえた。


「おい、やめろ、何をしている」


「見れば解るだろう、取り調べだ」


「お前のは取り調べなんかじゃない。虐待だ」


「へえ、じゃあ、あんたのいう取り調べってのはどんなもんなんだ?」


「まず、取り調べとは任意である。その手を放してやれ」


「ちっ」


 いくらかブツブツと悪態をつぶやいたが、クドゥームは意外と素直にレイスの髪を手放した。


「じゃあ、あんたがやってみろよ、あんたのいう『取り調べ』ってやつをさ」


 そのままクドゥームは壁際まで下がって、そこにもたれかかる。


「さあ、ほら、さっさと取り調べを始めろよ」


 見え透いた挑発の言葉、そんなものに俺が踊らされるわけがない。


「まずはレイスさん、これは正式な取り調べですらない、あなたは自分が不利になると思った証言に対して黙秘権がある」


 クドゥームが茶々を入れてくる。


「なにをごちゃごちゃ言ってるんだ、さっさと始めろよ」


 俺はそんなクドゥームを無視して、レイスの顔を覗き込んだ。


「頼む、俺はあんたを傷つけたくはない。だから俺の質問に素直に答えて欲しい」


「答えるって、なにを?」


「正直、俺はハーランがいま、どこにいるのかが知りたい」


「そんなの、私が知っているわけないじゃない」


「わかってる、だから難しく考える必要はない。ハーランがいまどうしているのか、君が想像した通りのことを話してくれればいい、その中からヒントを探すのは俺の仕事だ」


 レイスは俺の顔をしばらくじっと見た後で、不思議なことを言った。


「ねえ、知ってる? 私たちの世界では『ケージ』って、鳥かごのことを指す言葉なの」


「それがどうした」


「あんたは、あの子を捕まえて閉じ込める鳥かごなのよ」


 そのあとでレイスはふいっとそっぽを向いて、冷たく言い放った。


「ハーランは、もう死んでるんじゃないかしら。ウラの世界で生きている女にはよくある話よ」


 これを聞いたクドゥームが、声を押し殺してクツクツと笑い出した。


「つまり、『お前に話すことは何もない』だとよ」


 クドゥームは俺を乱暴に押しのけてレイスに迫る。


「さて、ここからは私の流儀でいかせてもらう。私が聞きたいのは、たかだか娼婦一人がどこへ行ったか、なんてショボい話じゃないんでね」


 クドゥームはこぶしを握った。

 が、女相手に拳はさすがに非道だと思ったのか、その手を開いて平手を張った。


 パァンと小気味よい音が響いて、レイスがベッドシーツの上に崩れ落ちる。


「やめて、顔は……顔は商売道具だから」


「女優気取りだな。あんたの商売道具は顔じゃないだろ」


 哀願のために身を起こしたレイスの顔面に向けて、もう一つ、パァンと小気味よい音。


「安心しな、あんたの大事な商売道具である『体』には傷一つ残さないでいてやるから」


 もう一つ……平手を振り上げかけたクドゥームは、思い出したように振り向いて俺を見た。


「そうだ、あんた、女がひどい目に合うのは見たくない主義だったな、一時間ほど部屋から出ていろ」


「そうしたらお前は、その女を虐待するんだろ」


「虐待じゃない、取り調べだ」


 クドゥームは頑として譲らない。


「あんたの取り調べは生ぬるいんだよ。そんなやり方で口を割るのは、泣くのが商売の赤ん坊くらいのもんだろうよ。何しろここは天下のマムナッタン、欲しい情報があるなら力づくでってのがここでのやり方だ」


 クドゥームは尻ポケットから薄い財布を抜いて、俺に投げてよこした。


「これで好きなもんを買って来い。のみののでも、食い物でもいい。ただし一時間、絶対に戻ってくるな」


 レイスは賢い女だ。

 だから平手を避けるために、もはや身を起こそうともしない。


 この分なら、これ以上ひどい目に合うこともなく『口を割る』だろう。

 俺は財布をひっつかむと部屋から飛び出した。


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