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その時……俺は誰かを追っかけていた。


場所は確か、『ケイヒンコウギョウチタイのコンテナターミナル』だった記憶がある。

俺は船から降ろされたコンテナがきっちりと積みあがった間を走っていた。


確か……確か……誰かが俺に言っていたような気がする。


「単独行動は慎め」「必ず増援を呼べ」


しかし俺は激しい怒りにかられて、たった一人で走っていた。

俺のすぐ前を、くたびれたカーキ色のジャンバーを着た男が走っていた。


俺は目の前を走る男の背中だけをにらみつけて、こころの内で「絶対に許さない」と何度もつぶやいていた。


いまとなっては、なぜあれほど強い怒りを感じていたのか、思い出すことさえできない。

ただ髪の付け根がわさわさと疼くほどの怒り、その感覚の記憶があるだけだ。


ふと、コンテナの陰に男が飛び込む。

俺はそれを追って、少し錆の浮いたコンテナの陰に勢いよく飛び込んだ。


つぎの瞬間、銃声が響いた。

あまりにも突然のことだったから、俺は自分が撃たれたのだということに気づかなかったぐらいだ。


俺は自分の腹を見下ろした。

叩き壊された蛇口みたいに、止めようのない血が噴き出していた。


俺は驚くほどあっさりと「ああ、死ぬんだ」と思った。

怒りは、もう、なかった。

目をあげて最期に見たのは、おびえて肩を震わしている、カーキ色のジャンバーを着た男だった。

彼が構えている銃からはわずかに煙が立ち上っていた――。


しかしそれは一瞬のうちに見た夢想である。

俺は頬の表面をチリッと撫でて通る雷撃の痛さに我を取り戻した。


もっとも彼女の雷撃はただの威嚇であった。


俺の頬を打ったのは雷撃の外側に飛び散った小さな火花だけ、それだって十分に痛いが、横っ面を張り飛ばされた程度の痛みでしかない。

しかし雷撃の本体の方は、俺の背後の壁に大穴を開けていた。


劇場の構造上、控室の壁は隣室とを区切る確かにヤワなものだが、それを焦がして隣の部屋が丸見えになるほどの大穴を開けるとは、もしもこれを直接体に食らっていたら骨も残らなかっただろう。


彼女は、二発目を撃つつもりはないらしい。

だらりと手を下ろして、俺をにらみつけた。


「わかったでしょ、私はあんたと話なんかするつもりはない。さっさと出て行かないと、次はその顔に雷をお見舞いするわよ」


と、その言葉が終わるよりも早く、廊下から声が聞こえた。


「ガサ入れだ! 国営警備兵だ!」


あっという間にドアが蹴破られ、クドゥームが部屋に飛び込んできた。

彼は俺の方なんか一つも見ないで、魔法の光をまとった片手を、レイスに向けていた。


「いま、魔法を撃ったな、現行犯逮捕する」


レイスは少し慌てた様子で、意味もなく両手を振り回しながら言い訳する。


「撃ったけど、脅しで撃っただけよ、誰も傷つけるつもりはないわ」


「言い訳は後で聞く。魔法を撃ったんだろ、だったら法令違反だ」


「だから、撃ったけど……そうじゃないの、そこの男がうるさいから、本当に脅すだけのつもりだったのよ」


「理由はどうでもいい、君が魔法を使用したこと、それ自体が法令違反である」


「だからぁ!」


「だまれ、言い訳は後で聞いてやると言っているだろう。ともかく、詰所まで来てもらおうか」

レイスはうつむいて、両手を頭上へあげた。


「わかった、詰所へ行くから、乱暴しないで」


「そうだいい子だ」


そう言った後でクドゥームは、やっと俺を見た。


「なんだ、死んでなかったのか」


そう軽口をたたく口角がわずかに上がっている。


「あんたが死んでくれれば、殺人の罪もつけて十分に取り調べできたのに、全く残念だ」


俺はようやく、自分が利用されたのだということに気が付いた。


彼は俺が何かの情報を聞き出すことなんてハナっから期待していなかった。

ただ、レイスが俺の存在に逆上して魔法でも使えば、正々堂々と彼女を拘束する理由ができる……つまり別件逮捕だ。


クドゥームは俺に向かって顎をしゃくった。


「ついて来いよ、せっかく生き残ったんだ、取り調べに立ち会わせてやるよ」


そんなクドゥームの態度は気に食わないが、ハーランを探すにはどんな小さくてもいい、手がかりが必要だ。


だから俺は、クドゥームについて行くことにしたのだった。



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