介護
安アパートってエッチだよね
僕は大作に送られて妹と一緒に住んでいる安アパートに帰ってきた。妹は今、修学旅行でいないけどね。
「じゃ。あとは大丈夫だな?玄関も自分で開けられるか?」
「うん、ありがと。今日のお礼はまた今度するよ」
「ばーか。そんなんしてるなら俺に聞かせるための不幸に出会ってこい」
そこで大作の雰囲気が変わった。
「あと言っておくが。お前が言っていた女子高生には気をつけろよ。なんせ痴漢冤罪をしてきたんだからな。また、お前になんかの罪を被せてくるかも知らねえからよ」
「お?珍し。大作が俺のことを心配してくれるなんて」
「……まあ、お前の不幸話は俺の生きがいだからな」
そう言って大作は自分のスポーツカーに乗り込んだ。
なんか今の大作の言葉は''矛盾"してたような気がしたが……まあいいや。
なんとか僕はアパートのドアを四苦八苦しながらこじ開けた。そんでもって血涙が出るほどの苦労をして布団を敷いて寝転がった。
はあ〜。今日は大変だった。本当に!!!
ベビーカーが突っ込んできて避けたら足が泥だらけになるわ、電車に乗ったら痴漢冤罪になって両手骨折するわで大変だったぜ。
そんな風に考えてるとなんか眠くなってきたな。それじゃJK達が来るまで寝ときますかね。
◆◆◆
ピンポーン。
僕はインターホンの音で目が覚めた。
やっとJK達がやって来たようだ。起きあがろうと手を支えにした。
痛ってぇ〜!!
僕としたことが完全に骨折のことを忘れていた。痛みの叫びが外まで聞こえていたようでJK達が心配してドアをガンガンと叩いておる。
早く開けねば。
ガチャ。
「「大丈夫ですか!?」」
「うん。大丈夫大丈夫。そんな大声出さなくてもいいからね……(また、お隣に文句言われるかも)」
「あっ、すいません」
そう言うと火花ちゃんは申し訳なさそうに謝って来た。
「でも、何があったんですか?」
火花ちゃんが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。後ろの礼ちゃんも「大丈夫ですか……?」と小さく聞いてくる。二人とも制服のままで、学校から直行してきたらしい。
「いやちょっとね。怪我した部分を当てちゃっただけだから」
火花ちゃんは少し安心したように息を吐き、礼ちゃんも胸をなで下ろした。
「よかった……。それでは、今日から日常のお手伝いを始めますね」
そう言うと火花ちゃんはずかずかと部屋に上がり込んできた。礼ちゃんは少し遠慮がちに後に続く。カバンを置いて、部屋を見回す火花ちゃんの目が一瞬止まった。
「……汚い」
「あっごめん」
僕が謝ると火花ちゃんは僕に向き直って決心した目を向けた。
「まずは部屋のお掃除しましょう!」
火花ちゃんの声は、すでに決定事項を告げるものだった。礼ちゃんも「そうしましょう!」と元気よく頷いた。
「そこまでしなくても……身の回りの手伝いだけでいいんだよ?」
「いえいえ。環境を整えないと治るものも治らなくなりますよ?」
と首を傾げ上目遣いで礼ちゃんは俺を見つめて言ってきた。妹が今いないとはいえ部屋の状態に油断していた……。
あと、無意識だろうが礼ちゃんあざとい!
火花ちゃんはすでに動き出していた。床に落ちていたコンビニの袋や空のペットボトルを次々と拾い、ゴミ袋に詰め込む。俺の手を骨折させるほど力持ちなだけあって動作が力強い。礼ちゃんは窓を全開にして換気をし、ソファに散乱していた服を丁寧にたたみ始めた。
「そこまで本気でやらなくても……」
「手が使えないんですから邪魔しないで休んでてください」
火花ちゃんの声は容赦ない。俺は布団の上に座ったまま、ただ二人の手際を見守るしかなかった。両手ギプスだと、手伝うどころか本当に邪魔になる。
礼ちゃんが古くなったチラシの束を手に、聞いてくる。
「国丸さん、これ捨てていいですか?」
「ああ、いいよ。好きにやって」
「わかりました」
一方、火花ちゃんはキッチンのシンクを覗き込んで顔をしかめた。
「……食器も溜まってる。後で洗います」
「そこまでやらなくていいってば」
「やらなきゃ気が済まない性格なんです。黙っててください」
なんだこの言葉の強い子は!
きっといいお嫁さんになるな!
約15分後。
なんということでしょう!さっきまで散らかっていた我が家屋が見違えるように綺麗になりました!
あれもこれも僕が骨折したお陰だね!
リターンが見合ってないけれど……。
火花ちゃんは部屋の様子に満足げに頷くと、俺の前にしゃがみ込んだ。
「さて、次。夕飯どうしますか?手、使えないでしょ」
「……ビーバー(フードデリバリー)で何か頼もうかな」
「ダメです。栄養偏ります。私、簡単なもの作れますから」
「え、料理できるの?」
「馬鹿力だけが取り柄じゃないんですからね」
そう言うと、火花ちゃんはキッチンへ向かった。礼ちゃんは俺の隣に座ってギプスを心配そうに見つめる。近いんじゃあ。
「国丸さん……本当に痛くないですか? 朝、すごく痛そうでした」
「今も痛いよ。でも慣れてきた」
「慣れるものなんですか、骨折って……」
「僕はもう10本以上折ってるからな」
礼ちゃんは目を丸くした。キッチンからは火花ちゃんの「卵がありますね。オムレツ作ります」という声が聞こえてくる。
俺は布団の上で、ただ呆然とするしかなかった。
朝は泥だらけ、昼は両手骨折、夜は女子高生二人に部屋を掃除されて夕飯を作られようとしている。
今日の不幸は、「日常のお手伝い」という名の新しい形で、俺の不幸は新しいフェーズに突入しようとしていた。
新フェーズいっきまーす




