第26話 遺跡内部へ
ハーデス山は標高五千メートルを優に越える活火山で、どこの山脈にも属さない独立峰である。
その麓の、切り立った山の斜面に張り付くように残された古代都市は、まるで雲海の中に浮かんでいるかのような神秘的な遺跡だ。存在が確認されてからまだ数十年しかたっていないその遺跡を、ホルガルド教授は『ツラ』と呼んでいる。
古代都市ツラは、およそ六千年前に編纂された別の古代文明の古文書に、未開の地として登場する──。
その古文書によれば『白きハダスの山に住まうツラの民は、青き女を神と崇めている。彼らは神に神力を与えられ、その力により彼らの地は守られ、川の水は決して凍ることがない』とある。
しかしツラについての記述はその一節だけで、その後その都市がどうなったのか、ツラの民と呼ばれた人々がどこへ行ったのかを示す手掛かりは、いまだ見つかっていない──。
「ちなみにハダスって言うのは今のハーデス山のことです」
「青き女っていうのは何のことだ?」
スノウは輸送用トラックの運転席に座り、ハンドルに軽く手を置いて、隣の席に座るステファンに尋ねた。
灰色の作業服に少しくすんだ水色の作業帽を被り、運送業者か、もしくはどこかの会社の技術者に見えるように変装中だ。
「ああ、それはツラ人たちが信仰していた神のことです。ただ、青き女というのはあくまでも非ツラ人からみた呼称であって、ツラの人々が同じようにそう呼んでいたかどうかは分かっていません。ひとつ確実なのは、ツラは女神信仰だったということです」
そう言ってから、ステファンは得意げに続けた。
「ここサンクアラ地方には古くから氷の女神についての言い伝えが残っているのですが、それはツラの青い女神が元になっているというのが定説です。神力って言うのが具体的に何の事を指しているのかはまだわかってないのですが、ツラは当時でもかなり進んだ技術をもつ都市だったことが分かってます。しかし、ハーデス山は都市を形成するには標高が高く環境が厳しすぎる。特に冬の寒さは過酷だったと推測できます。その当時、今よりも気温が高かったというのは地層を見る限り考えられないので、この辺りで豊富に湧く温泉を生活に利用していたんじゃないかというのが、今のところ有力な説です。川の水が凍らないっていう古文書の記述とも合いますしね。それが神の力と考えられていた…」
ダミーの研究用機材を載せたトラックは、山の斜面にくねくねと伸びる道の路肩に停まっていた。とっぷりと日は暮れたので、外灯も無い山道は不気味なほど暗い。この道の先に、ステファンたちが研究や生活の場としているサンクアラ考古学研究所があるらしい。
ハーデス山の中腹あたりにあるその研究所までは、道路も整備されていて、街まで行くには多少不便ではあるが、所内には生活に必要な施設はすべて備わっているらしく、研究に専念するにはこれ以上ない環境だと言う。
ステファンのその向こうにはフローレンスが座っていて、イヤホンを耳につけて鼻歌を歌いながら真っ暗な窓の外を眺めていた。
「ですがそれを示すものはまだ見つかっていません。というか、はっきり言ってツラ遺跡は謎が多くて、ほとんど分かっていないんです。政府が一切公表していないので研究者自体あまりいませんし…」
「何故公表しないんだ?」
「さあ……発表できるほど研究が進んでないからじゃないですか? あと一般公開すると状態保全が難しくなるって言うのもあると思うし…。その辺の事情はホルガルド教授がご存知だと思います。教授はサンクアラ考古学研究所の前身組織からこの研究に携わっているので。その時から教授はとても面白い仮説を立てています」
「面白い仮説?」
「古文書に書かれていることを、その通りに解釈したんです」
「その通り?」
「つまり、ツラ人は“青き女神”を信仰してたわけじゃなくて、“青き女”と呼ばれた人が神と崇められていたって言うんです」
「……どういうことだ?」
「つまり“青き女”は空想上の人物ではなく、実在する人だってことですよ」
スノウはステファンから一度視線を外し、険しい表情で前方の暗い森を見据えた。
『国王の親衛隊』と『古代遺跡』は上手く繋がらないかもしれない。しかし、『古代遺跡』と『魔女』だったら──。
セシリアが以前、魔女はそれぞれが神と崇められていたと言っていた。
ツラ人の遺跡と魔女は、何か関係があるかもしれない。
今回、司令官が同行したいと強く希望していたのは、もしかして魔女セシリアの意志が反映しているのではないか──
(──とは言い切れないか……)
スノウはその時の少女の様子を思い返して遠い目をする。どう見ても、観光気分で言っている様にしか見えなかった。
だが少女はともかく、遺跡の中に何かしら魔女ルディアの手掛かりがあるかもしれない。
行ってみる価値はあるだろう。
「ところで……、聞きたいことがあるんですが……」
そう言うと、ステファンは急に話題を変え、真剣な表情で尋ねてきた。
「スノウさんはツルギとどういう関係なんですか?」
深い思考に落ちていたスノウはまったく違う話題に少し面食らったものの、いつもの動かない表情で聞き返した。
「本人はどう説明したんだ?」
「どうって…、ボディーガードみたいなものだって…」
「じゃあそのとおりで良いだろう。それとも、それ以外に何かあるとでも思っているのか?」
「べっ、別に思ってないですよ。ただ気になるだけです!」
「気になる?」
「いや、違うッ、心配してるだけです! 殺し屋なんて物騒な人がツルギのまわりをウロウロしていれば、心配になって当然です!」
するとそれを聞いて、ずっと窓の外を見て音楽を聴いていたはずのフローレンスが、突然会話に割り込んできた。
「すいまセーン。ステファン君は学生時代、ツルギさんにまったく相手にされなかったのに、いまだに忘れられナーイのデース」
「フローレンスッ、何だよいきなりッ。それは関係ないだろッ!?」
「女々しくてスイマセーン」
「うるさいッ、喋るならイヤホン取って喋ってよッ。大体さっきから関係ないみたいな顔して何聞いてるのッ!?」
「モチロン、水戸黄門のサントラデース!」
「この時代劇オタクが!」
「ノンノン、ワタシは日本文化が好きなだけデース!」
少年博士に吐き捨てるように言われても、フローレンスは堪えることなく踏ん反りかえった。それからちらっと車内のデジタル時計に目をやり指をさす。
「あっ、ホラホラ、そろそろ時間デースヨ!」
何事もなかった様に切り替えるフローレンスを睨みつつ、ステファンは座席に座り直した。
「……そろそろ行きましょうか、スノウさん」
無言でスノウはエンジンを始動させ、ライトを付ける。
真っ暗な森の中を蛇のようにうねりながら伸びる道路を進んでいくと、その先に鈍色に光る大きな鉄門が見えてきた。どうやらあれがサンクアラ考古学研究所のゲートの様だ。
ステファンはジャケットの袖を引き上げ、シンプルではあるが上質な腕時計を確認してからこちらに視線を寄越した。
「あと少しでちょうど守衛の交代時間になりますけど…、そこを狙うのって、やっぱり効果ありますか?」
「多少は影響するものさ。交代間際になれば、誰だって仕事を早く終わらせようって心理が働くからな……」
高いゲートの手前には駐車スペースがあり、その更に手前には大きな車止めが互い違いに置かれている。それを縫うように避けて進まなければゲートまで辿り着けないようになっていた。
スノウはブレーキを踏んでトラックを減速させる。
「ゲートにいる親衛隊とは、まず、ボクが話をします。打ち合わせどおり、スノウさんは機材を搬入するために着いてきたメーカーの人間ってことで」
「分かった」
前方を注視したままそう答え、スノウは車止め目前でトラックを停車させ、窓ガラスを下げた。
一つ目の車止めの影に守衛と思しき男が立っていて、運転席側の窓に向かって近付いて来たからだ。
「何の用だ。ここは関係者以外立ち入り禁止だ!」
黒い防寒コートに、腰に白いベルトを付けたその男が高圧的に言った。やはり守衛の様だ。銃は持っていないようだが、腰のベルトには長い警棒を差している。
スノウは愛想笑いを浮かべ軽く会釈をしただけで何も言わずにいた。代わりにステファンがスノウの奥から顔をのぞかせ、男に向かって喋る。
「あ、どーも。研究二部のステファン・ギデラックです」
ステファンの顔を見て、守衛の態度が少し軟化する。
「これは失礼しました。ギデラック博士でしたか。何事ですか?」
「すいません、こんな時間に。新しい機材を中に運び込みたいのですが──」
「これからですか? 失礼ですが許可証はお持ちで?」
「ボク個人の許可証しかありませんが、駄目ですか?」
そう言いながらステファンは首から提げたパスケースをかざした。ステファンとてこれだけで済むはずがないことは承知の上だろう。だが、その上で堂々ととぼけたような顔をする辺り、若い割にしたたかだ。
守衛の男はその許可証を確認はしたが、それで良しと簡単には出来ないようで、ゲートを開けようとはしない。車止めを越えた先にある駐車スペースまで進んで、そこに車を停めるように手で合図を送ってきた。
「どうする?」
スノウが小声で問うと、ステファンも小声で返す。
「そのまま指示どおり車を停めてください。研究所の関係者が車で乗り入れる場合には臨時許可証が渡されます。ただし、車両内部をくまなく点検するのが規則ですが……」
だが裏を返せば、それを何とかやり過ごせば通過できるということだ。
駐車スペースの左手には守衛たちの詰め所があった。トラックを停めた途端、詰め所の中から先ほどと同じ外套を羽織った別の男が出てきて、最初の守衛と交代するように一言二言、言葉を交わして別れた。車両を点検するのは二人目の男のようだ。
「キーを抜いて車を降りてください」
やけに色白でそばかす面のその男が運転席のスノウに向かって言った。
ステファンの顔をうかがうと、少年博士はこくりと頷いている。スノウにとってももちろん想定内だ。下手に抵抗しても怪しまれるだけだろう。
「よしっ、フローレンス! 君の出番だ!」
「アイアイサー!」
ステファンの声掛けに、フローレンスはふざけているとしか思えない返事を返して車を降り、ステファンもそれに続いた。一体何をするつもりなのだろうかと一抹の不安を覚えつつ、スノウも車を降りてステファンの隣に立った。
「すみません博士、荷台の中身を見させてもらいます。開けてもらえますか?」
そばかす顔の守衛が淡々とした口調で事務的に言った。
「はい、構いませんよ。──フローレンス」
「了解デース」
呼ばれたフローレンスはそばかす顔の守衛を連れてトラックの後ろに回ろうとした。しかしもう一人、応援の為遅れて詰め所から現れた三人目の守衛が、フローレンスを見るなり奇妙な声を上げた。
「げッ!」
浅黒い顔をしたその守衛は、何故か忌避感をにじませた表情をしている。
「おっ、おい!」
浅黒い守衛は相方のそばかす色白の腕を引っ張るようにしてこちらに背を向けた。
「なんだよ!」
「あの女、研究二部のフローレンス博士だぞッ?」
「それがどうかしたのか?」
「どうってこの前話しただろ? 俺がうっかり声掛けちまったばっかりに、何時間も延々と訳のわからない土器の説明されたって──」
「えッ! あの人がそうなのかッ?」
白と黒のオセロのような守衛の二人は、こちらに背中を向けたままひそひそ話をしているつもりの様だが、話の内容はだいたい漏れ聞こえた。
二人の守衛はそろ〜っとフローレンスの顔を振り返えり表情を引きつらせた。しかし当のフローレンスはまったく気にする様子もなく、嬉々とした様子で分厚い眼鏡を押し上げる。キラーンという音が聞こえてきそうだ。
「もしカーシテ、あなた方もワタシの研究にキョーミありデースカ?」
「えッ! いや……」
すると再びオセロコンビは背を向けてひそひそ話し出した。
「おい、まずいぞ。もうすぐ交代の時間だってのに、この女の話に真面目に付き合ってたらいつ終わるか分からない!」
「でも規則なんだから積み荷の確認はしないとまずいだろ?」
「ドーゾドーゾ見てくだサーイ! 最新のスンバラシー装置デース!」
そう言いながらオセロコンビの後ろにぬっと現れたフローレンスは、二人の肩を両側から抱き抱えるようにして車両後方へ押しやった。
「この装置がアーレば、イローンな研究がバーンバーンできマース! 例えば、ここにある土偶形容器を見てクダサーイ!」
「やばい始まる! おい、急いで荷台の中を確認して来てくれ!」
「わ、分かった!」
そばかす顔の守衛は小走りでトラックの後ろに回ると、荷台に乗ったコンテナの扉を開け、中に向かって懐中電灯をかざした。
「……ところで、あの装置は何なんだ?」
スノウは近くにいる浅黒い守衛に聞こえないようにステファンに問うた。
「巨大3Dプリンターですよ。色々使えて多用しています。遺跡から出土した物をそのまま複製するのはもちろんですが、頭蓋骨の破片を解析して、どんな顔だったか予想して復元してみたり」
そう言って事も無げにステファンは答えた。
「そんなトコロに立ってナーイデ、さあドーゾ! 中に入ってしっかり見てクダサーイ」
「いっ、いえ結構ですッ! もう確認しましたから!」
フローレンスはそばかす顔の守衛の背中をコンテナの中にぐいぐい押し込もうとするが、守衛はそれだけは勘弁とばかりに素晴らしい身のこなしで側を離れ、スノウたちのいる所に戻ってきた。
「特に問題は無いようです!」
慌てながらも敬礼をして体裁を整えようとするそばかす色白。ステファンはにっこりと微笑んだ余裕の表情で二人の守衛に一歩近付いた。
「臨時許可証をもらえますか?」
「分かりました。すぐにお渡しします」
そう言って浅黒い守衛は詰め所に引き返していく。
スノウとステファンは視線を合わせ、小さく頷いた。
「はあ〜、やっと出られた〜」
スノウの手を借りながら巨大3Dプリンター(ダミー)の中から這い出して、司令官は両腕を天井に向かって伸ばした。
「上手くいったみてぇだな。サンキュー、ステファン!」
司令官よりも先にプリンター内から出てきたジェイスが、肩を回しながら今回一番の功労者であるステファンにねぎらいの言葉を掛ける。
「でもさあ、親衛隊にもあそこまで避けられる存在って人としてどうなの?」
とりあえず口を開けば文句しか言わないシュウは、やはりこの場においても否定的なことを言って水をさした。
「でも今回ばかりはフローレンスの日頃の行いに感謝しなくちゃだね!」
司令官が感心したようにそう言うと、フローレンスは得意気に胸を張った。
「ええ、ええ。そうデショートモ! ワタシ、一年に一回くらいはステファン君の役に立つよう心掛けテマース!」
「もうちょっと高い頻度で役に立ってよ、頼むから……」
頼む、という言葉の割にすでに諦めたような顔でステファンは肩を落とした。
壁際にたくさんの本棚が並んだ室内。ここはステファンとフローレンスが所属する研究二部の倉庫兼研究室だ。
研究二部は、遺跡から出土した土器や鏡などを実験的に復元して、検証したり使用痕を分析してデータの収集をする部署だとステファンは語った。
「して、ステファン殿。ローゼス卿はどちらに?」
本人は意識せずだと思われる厳めしい顔付きで、サイファスが尋ねた。
「ああ、そうですね。教授は普段、ここからもう少し山を登った所にある発掘現場にいる事が多くて、多分いまもそこにいると思います」
「なんだよこの建物じゃねぇのかッ?」
早くも目的を達成した気にでもなっていたのか、室内をウロウロと歩き回っていたジェイスが騙されたと言いたげな声を上げ、ぐるりとステファンに顔を向けた。
「ここは位置的にはまだ入り口です。ツラ遺跡は標高の高い場所にあるので、そこに大きな研究施設は建てられなかったんです。少し歩きますが大丈夫。今は皆さんプリンターの納入業者に扮しているし、出歩いても問題ないでしょう」
「じゃあ、見られるんだね。古代文明の遺跡ってやつが!」
司令官は子供のように喜んでいる。
「ワタシ案内シマース!」
そう言って意気揚々と部屋を出るフローレンスに続いて、一行はその場を後にした。
サンクアラ考古学研究所は斜面に建設された研究所であるため、敷地全体が傾斜した地形になっている。
研究棟、生活棟などの建物を通り過ぎて坂道をしばらく登ると、金網のフェンスが見えた。さらにフェンスの向こうにも坂道が続いていて、道の先は森の奥に向かって大きく弧を描いている。どうやら斜面をさらに上に上がって行けるらしい。
「この先に遺跡があるのか?」
フェンスを通り抜け坂道を上がりながら、スノウは少年博士に尋ねた。
「はい。この山道の先です」
「研究所の施設から大分離れているようですが、ローゼス卿は本当にこんな所にいらっしゃるのですか? 私が以前訪れた時とは違うようですが……」
うっそうとする木々の中を進む山道は白く雪化粧している。それを目の当たりにしたサイファスは、あたりを見回しながら疑わしげに問うた。
「教授は遺跡のすぐ側に自分だけのログハウスを建てて、そこで寝泊まりしています。めったにそこから出てこないです。食事もこちらから運ばないと摂ってくれなくて……」
困ったものです。とステファンは付け加える。
「随分世話のかかるオッサンだな」
「王子、叔父君の前でその言葉遣いは如何なものかと……」
「あ?」
消え入りそうなサイファスの申し出にジェイスは間抜け面をしている。
「とりあえず、このガラの悪さで王子って言うのをどう信じてもらうのかが問題だよね…」
半眼になった目付きでシュウがぼそりと言った。
坂道を登った先に小さなログハウスが見えた。暖かそうな光が漏れる窓の下には、束になった薪が積み上げられているのが見える。
ステファンは木製扉の前に立つと、ノックをしながら家主を呼んだ。
「教授ッ、ホルガルド教授ッ、ギデラックです!」
しかし家の中から返事は無く、誰も出てくる気配がない。
「なんだよ、居ねえのか?」
「でも電気もついてるし、そんなことは……」
ステファンはそう言ってドアノブに手を掛けた。
「入りますよ教授!」
扉を開けるとそこにはやはり誰もいなかった。
しかし部屋の中央奥の暖炉には火がくべられたままで、ぱちぱちとはぜている。つい先ほどまでは確実に人がいたことを示している。
「もしかして、また神殿の方に行ってるのかな。まったく、鍵もかけずに……!」
「神殿?」
フローレンス以外の者たちから怪訝な眼差しを集めている事に気付いたステファンは、扉の前から脇に退いて、中に入るように勧めながら言った。
「たぶん教授は遺跡の方に行ってるんだと思います。ちょっと呼んでくるので中で待っててください!」
「あ、ああ。分かった」
ステファンのすぐ後ろにいたジェイスは束の間考えたようだが、二の腕をさすりながら素直に家の中に足を踏み入れた。
長時間トラックの荷台に潜んでいたため身体が冷え切っていたのだろう。暖炉の温もりが恋しいようだ。
「ではお言葉に甘えて、中で待たせていただきましょう」
ジェイスに続いてサイファスも家の中に入る。
「フローレンス! ここは頼むよ。ボクは教授を探してくる!」
「ホイホイ。行ってラッシャーイ」
そう言って手を振るフローレンスに背を向けて歩き出すステファン。するとその背中に向かって司令官が飛び出した。
「あたしも行く!」
少女が行くなら当然自分も付いていく。並んで歩き出した司令官と少年博士の後ろを、スノウは追いかけるように歩き出した。
するとそれを見たシュウが嫌そうな顔をする。
「ええッ、行くの?」
シュウのその反応は疑うことなく予想できたので、スノウは振り返りざま指示を出した。
「お前はそこにいろ。こっちは俺だけでいい」
「え? やったラッキー」
そう言ってさっさとログハウスの中に消えるシュウに、スノウは軽く舌打ちしてから司令官を追いかけた。




