グリュエールの魔法
「ふう、無事に出発できたね」
僕達はアンカの町を出発して、テッド村へ向かって進んでいる。
アンカの町より手前の道は整備されている所が多かったけど、今通ってる道はかなりボコボコしていて、馬車も結構揺れてる。
「冒険者ギルドは凄かったな」
「本当に……でもウルの魔法が凄かったから仕方ないのかな?」
「そうだね。引きとめられたりしなくて良かったよ」
「僕の魔法のせいで迷惑かけちゃってたの?」
「ウルが気にすることじゃないよ。アンカの町を救えて良かったしね!」
「うん!」
「でもやっぱ、ウルのことちゃんとわかっておかないと問題が起きちゃうかもしれないね」
「問題?」
「今回はアーノルドが抑えてくれたから良かったけど、もしアーノルドまで他の冒険者と同じ様に熱狂してたら、あの町から出発できなかったかもしれないよ」
「えっ!? なんでそんなことになるの!?」
「こんな凄い魔法使える人ならこの町に居てほしいとか、魔法を教わりたいとか。それくらいならかわいいものだけど、一緒に居れば楽できそうとか、得になるだろうって寄ってくる人もいるだろうし」
「断ればいいんじゃないの? イヤですって」
「簡単にはいかないんだよ、困ったことにね。
断っても勝手に後を付けてくるとかされると、対処もなかなか出来ないもんなんだ……」
グリュエールが辛そうな顔をしてる。
どうしたんだろ。何かあったのかな。
「グリュエール、大丈夫?」
「ああ、ごめんよ。ちょっと昔の事を思い出しちゃって。まだイリーシス達とパーティを組んでた頃に色々あってね」
グリュエールはエルフだし、魔法も結構得意だった。
それで調子に乗っていろんな所で魔法を使ったりしてたら、他の冒険者達に目を付けられたらしい。
うーん……なんで皆仲良く出来ないんだろ?
「さて、おもしろくもない話はここまでにしておいて!
アンカの町からそれなりに離れたし、あたしの魔法を見せておこうか? ウルとの約束だったしね」
「グリュエールの魔法! 見たい見たい!」
「威力を比べる為にも、“タイフーン”がいいね。よし、じゃあ一旦馬車を停めるよ」
馬車を停めて、道から少し外れる。
周りに人がいないことを確認してから、グリュエールは徐に手を前へと突き出して、集中し始めた。
そして……
「“タイフーン”!」
グリュエールの前方に竜巻が発生した!
でも……あれ?
一つだけ?
一つだけ生まれた竜巻は、そのまま真っ直ぐ進んでいって、しばらくすると消滅しちゃった。
「あたしの“タイフーン”はこんなもんだよ」
「これも凄げえはずなんだけどな。ウルの魔法を見た後じゃ、ちゃっちく見えるな」
「モーティマの言う通りさ。これでも優秀な魔法使いのはずなんだけどね」
同じ魔法のはずなのに、威力が違いすぎる!
竜巻の数も違うし、大きさも僕が使った時の方が大きかった。
「なんでこんなに威力が違うの?」
「まだわからないよ。それがわかれば、あたしも魔法の威力をあげられるかもしれないからね。だから絶対に解明するよ!」
グリュエールの意気込みが凄い!
これならいつかちゃんと分かる時がくるかもしれない!




