僕とグリュエール
「さて、うるさいのもいなくなったし、まずは……どうしようか」
どうしようかなって……なにするつもりなんだろ。
ちょっと怖いけど、これで僕のことがわかるなら……
「そうだね、まずはウルのこと聞かせてよ」
「僕のこと?」
「そう! 知識あるアイテムになるまでの歴史!」
「うん、いいよ。僕はね……」
この説明も何回目になるのかな?
作られてから魔王城であったこと。
目覚めてから王都にくるまでの話。
「なるほど、興味深いね。特に魔王の話は、人族の文献とは全く違う……これはやっぱり何か隠蔽を?」
説明が終わったらグリュエールはぶつぶつを独り言を言いながら、本棚を漁りだした。
「あれ? この辺にあったと思ったんだけど……あれ、どうしたっけ。ま、今はいっか」
探すの諦めて戻ってきた!?
なにを探してたのか気になる……けど。
「よし、次行こう、次! ウルを抜いていい?」
「あ、うん。いいんだけど、抜かれるとたまに、斬りたいって衝動が溢れてくるんだ……」
「なになに!? それはどんな感じなの?」
「目の前の奴を全部殺せ。全部斬れって頭の中に溢れてくるの」
「それで? その衝動が出た時にウルはどうしてるの?」
「僕はなんでも喜んで、楽しんで斬るようにはなりたくない! だからそうならないように耐えるんだけど、その衝動に押しつぶされちゃったり……」
「なるほどね。ウルがやりたいこととは別の感情があると」
「うん……グリュエールにそれの正体が何なのか調べてほしいんだ! 一回だけ頭の中で会話できたと思うんだけど、その後は話してくれないし……」
「会話? ウルの中から溢れる衝動と?」
「うーん……なんて言えばいいんだろ。頭の中に声が聞こえてきたような?」
「その衝動が溢れるのはたまにって言ってたよね? どんな時に出てくるの?」
「どんな時っていうのはわからないんだけど……」
今までにあの衝動に襲われた時のことを話してあげた。
盗賊の時。マリーとのダンジョン探索中。そしてギルド長の時。
マリーがモンスターを狩るときにはその衝動がこなかったことも。
「ふむふむ、なるほど。じゃ、あたしも一回抜いてみていいかな」
「うん。もしあの衝動がきても耐えるから!」
「わかった。よろしくね」
そう言うと、グリュエールは僕を鞘から抜いた。
…………。
うん、大丈夫。
「あの衝動は来なかったよ」
「そうなの? どんな物か見てみたかったけど、残念」
確かに、あの衝動が来た時にどうなるかわからないと調べようがないかも!?
うーん……原因がわかればいいのになあ。
「ねえ、グリュエール。これじゃ調べられない?」
「いや、そんなこと無いよ。色々手はあるから大丈夫さ」
「なら良かった……」
「でもこれは……確かに漆黒の刀身だ。キレイだね」
「キレイ!? わあ……ありがと!」
キレイだって! エディさんにも聞かせてあげたいね!
「ちょっと待っててね」
僕を一通り見たグリュエールは、僕を机に置いて走って行った。
隣の部屋でまた何か探してるみたいな音がする。
「あった! これこれ!」
何かを見つけたらしいグリュエールは笑みを浮かべながら戻ってくる。
グリュエールの手には……金槌?
そんな物どうするんだろ。
「ねえ、これでウルのこと叩いてみてもいい?」
何を言ってるの、この人!?




