マリーと実技試験 ~フードの人間~②
「そっか。じゃあ私はもう行くね」
「はぁ!? 行くってどこへ行くのさ!」
「その階段降りて、下層へ行くつもりだよ」
「ボクはもう無理だよ」
「え? うん、ケガしてたしね。気を付けてね」
「気を付けて、じゃないよ! ボクを出口まで送ってよ!」
「え? なんで?」
「そんなこともわからないの!? ボクはケガしてるんだよ? 一人じゃ危ないじゃん」
「そう……なの?」
「そうだよ! ほら、帰るから。行くよ」
「行かないよ。そもそも私、あなたに殺されそうになったんだよね?」
「うん。せっかく頑張ってキラーアント集めたのに……あー! 思い出すだけでイライラする! でも無駄にされたの忘れてあげるから」
「あ、そう……」
「ほら、さっさと行くよ。こんな所に居てモンスターに襲われたらどうするのさ」
「はぁ……何を言ってもムダみたいだね」
リンが立ち上がって歩き始める。
マリーはそれを見てから背を向けて下層への階段に歩き出した。
「はぁ!? ちょっと、あんた! そっちじゃないよ」
「こっちであってるよ」
「待てって!」
マリーは無視して階段を降りる。
リンはマリーを追いかけようとしたみたいだけど、さすがにこれ以上下層へ行きたくないのか、階段の手前で足を止めた。
「試験官に言っちゃうからね! ケガ人を見捨てて進んで行ったって!」
リンは階段の上で叫んでるけど、マリーはもう気にも留めていない。
マリーは返事をすることもなく、どんどん進んでいって、長い階段を降り切った所で溜息をついた。
「はぁ……なんだったんだろ、あの子は」
「凄い人間だったね」
命を狙ってきた人に回復薬をあげるなんて、マリーも凄い人だと思うけど。
それにしてもリンは別の意味で凄すぎる。
殺そうとした相手に助けられたのに罵って。しかも出口まで送れとか。
あんな人間でも昇格試験を受けられるんだね。
冒険者ってなんでもあり?
「そもそも、モンスターを引き連れて他の冒険者に押し付けるのは禁止されてるはずなのに……」
「そうなんだ。もしそれをやったらどうなるの?」
「一応、罰金とか冒険者資格剥奪とか、いろいろ罰則はあるけど……」
「けど?」
「証明できれば……だね」
「証明?」
「本当にそんな行為をしたのかどうか、冒険者ギルドの人はわからないでしょ? 嫌いな冒険者がいて、何もしていないのに訴えられただけで冒険者資格を剥奪なんてされたら困るし」
「確かに!」
「だから証明が必要なの。でもダンジョンの中で、周りに誰もいない場所でやられたら証明なんて出来ないよ」
「そんなのヒドイ……」
「でもしょうがないから。だからこの話はもう終わり! 先に進もう」
「うん……」
命を狙われても訴えることすら出来ないなんて……
冒険者って大変すぎるよ。
そもそもなんでマリーを狙ったんだろう。
マリーが昇格試験を受けてて、リンが失格になったからって言ってたけど……
それだけで人を殺そうとなんてする?
人間にとって他人の命ってそんなに軽い物なの?
魔王様達はそんなことなかったと思うけど……
ねえ、魔王様。人間って何だろう……




