デレ期
「おまえがうるさくて、目が覚めちまっただろ」
保健室から出てきたのは、フィールンに何も教えてくれなかった男じゃなくて、ヴェルトだった。
「ヴェルト? なんで保健室にいるの? さっき朝礼終わったばっかだよね」
「そんなことはどうでもいいだろ!」
ヴェルトが怒ってる。
朝礼が終わった後に学長とちょっと話しただけだから、フィールンの言う通りそんなに時間は経ってない。
それなのに保健室から出てきたってことは……
朝礼が終わったすぐ後に、強い魔法を打とうとして倒れたってことだよね?
フィールンもそのことに気付いたのか、心配そうな目でヴェルトを見つめる。
「やめろ! そんな目で見るんじゃねえ!
それより、お前は魔竜に噛まれたってやつのことが知りたいんじゃねえのか!?」
「えっ? そうだけど……話聞いてたの?」
「おまえがうるさくて目が覚めたって言ってるだろ。
……魔竜に噛まれたって言ってたやつなら知ってるぞ」
「知ってるの!? えっ……なんで!?」
「なんでって、そいつが来た時に俺も保健室にいたからだよ」
ヴェルト……
どれだけ保健室にお世話になってるんだろ。
一日に何回も運ばれてるってこと?
それだけ運ばれてるなら、噂にもなるよね。
「だから! その目をやめろ! 知りたくねえのかよ!」
「知りたい! 知りたいから、教えて!」
「ったく……魔竜に噛まれたって騒いでたやつはAクラスのルノ・ワーゼンハイツだよ」
「ルノ・ワーゼンハイツ……」
ルノなんて聞いたことない名前だけど……
ピエールもわからないみたいで首を傾げてる。
「ああ、そうだ。ついでに、そいつと一緒にナギサも来てたぞ。ナギサも現場を見ていたようなことを言ってたから、詳しいこと知ってるんじゃねえか?」
「ナギサが? じゃあナギサに聞いたほうがいいかな。ルノって人の顔もわからないし」
「そうか。ナギサならこの時間は研究室にいるんじゃねえか? ナギサ達の研究室なら俺達の研究室から二つ隣に行ったとこだ」
「そっか! ありがとう、ヴェルト!
でもなんで教えてくれたの? ヴェルトはあたしのこと嫌いなんじゃなかったの?」
「……あれだけ世話になってんだから、困ったときくらい助けるだもんだろ。本当は朝礼のときに教えてやろうと思っていたのに、おまえがギリギリで部屋に入ってくるから話せなかったんだぞ。
って、もういいだろ! さっさと行け!」
そんなことまで言うつもりが無かったのか、ヴェルトが少し顔を赤くしてフィールンを追い払うように手を振る。
ヴェルトが……デレた!
でも……男のツンデレなんて誰が喜ぶんだろ。
「わかった! ありがとう!」
フィールンはさっそく教えてもらった、ナギサの研究室へ向かう。
ヴェルトは魔法実技室へ向かうみたいだから、保健室の前で別れた。
ヴェルト達の研究室を通り過ぎて二つ向こう側。
辿り着いたその部屋の扉をノックする。
中に人がいるような気配はするけど……誰も出てこない。
フィールンは何度も何度もノックをしたけど、扉が開くことはない。
「いないのかな?」
「誰かはいるような気配はするけど……」
「そっか。じゃあノックの音が聞こえないようなことやってるのかな? ナギサ達がどんな研究をしているのかわからないし、中でなにをしてるのかわからないもんね」
「うーん、そうだけど……中から音はなにもしないよ?」
「音がまったく聞こえない様にしてるのかも! しょうがないから、出てくるの待とうか」
フィールンは扉から少し離れた場所に腰を下ろした。
この位置なら部屋から誰かが出てくればわかるし、通行の邪魔にもならない。
何もしないで待つのもつまらないし、早く出てきてくれないかなあ。




