マリーと筆記試験
マリーが気合を入れてから少しすると、誰かがこの部屋に向かってくる音が聞こえてくる。
「この部屋でいいんだよな」
扉を開けて中へ入ってきたのは、筋肉ダルマ……?
上半身裸で巨体の男。
マリーだって小さいわけじゃないけど、そんなマリーの倍近く身長があるんじゃ……
なんで上半身裸なんだろ。防具とか着ければいいのに。
「おう、あんたも昇格試験受けるのか? 俺はモーティマって名だ。よろしくな!」
「はい! よろしくお願いします」
「おいおい、一緒に昇格試験受ける仲間だろ? 敬語なんていらねぇよ」
「あ、うん。わかった!」
モーティマとのあいさつをしていると、更に二人が部屋へと入ってきた。
「あら、もう来ている方がいましたの? 私が一番かと思っておりましたわ」
「本当ですね。カティナ様より早く来るなんて失礼な奴らだ」
なんか変な人達が来た。
カティナって呼ばれた女の人は、如何にも高級そうな服を身にまとっている。
髪の毛もクルクルしてる。なんて言うんだっけ、あの髪形……ドリルみたいな……?
もう一人の男の人は……
全身鎧で顔も見えない。
なんだろこの二人組……
「おう、あんたらも昇格試験を受けるのか?」
「そうですわ。あら、あなたみたいな蛮人でも昇格試験を受けられるのですね」
「蛮人……だと!?」
「ほら、顔を真っ赤にしてすぐに怒りましたわ。蛮人と一緒だと恐ろしいわね」
「本当ですね。カティナ様と同じ部屋にあんな蛮人がいるなんて……試験官に言って、部屋を変えてもらいましょうか」
「てめぇら……」
モーティマ達が言い争っている間に、もう一人部屋へ入ってきた。
でも誰も気付いてないみたい。足音も立てずに部屋に入ってきて隅まで移動していく。
口元を布で覆って、頭には鉢金を付けて……
忍者だ。あの人は忍者だ!
モーティマ達の言い争いが続いている中、二の鐘の音が聞こえてくる。
鐘の音が聞こえなくなったタイミングで眼鏡をかけたヒョロヒョロの男が部屋へと入ってくる。
「時間です。昇格試験を始めます。どこでもいいので座ってください」
試験官だ。モーティマ達も言い争いをやめ、近くの椅子に座った。
「あれ、今回の試験は六人だと聞いてたのに五人しかいませんね」
試験官がそう言った時、部屋の外からドタバタと走ってくる音が聞こえた。
「すみませーん! 遅れました! まだ大丈夫だよね!?」
小柄な少女が息を切らしながら入ってきた。髪も寝癖がついたままになってる。
寝坊でもしたのかな。
「あなたは……リンさんですね? 遅刻者は失格となります。お帰り下さい」
「え~? 遅刻って言ってもほんのちょっとだけじゃん! これくらいいいでしょ!」
「駄目です。お帰り下さい」
「いいじゃん、ケチ! 試験受けさせてよ!」
「……試験を受けても不合格が決定していますが、それでもお受けになりますか」
「はぁ!? そんな試験受けるわけないじゃん! ちょっと遅れただけでしょ!? なんでそんなこと言うのさ!」
「あなたは今と同じことを貴族に言えますか?」
「貴族!? 貴族相手にこんなこと言う訳ないじゃん」
「冒険者の銀ランク、金ランクと上がれば貴族の依頼も受けるようになります。昇格試験とは、貴族相手でも対応が出来るか。それを見る為の試験でもあります」
「はぁ? そんな話聞いてないけど」
「えぇ、わざわざ言いません。少なくとも試験開始時間に遅れてくるような人を昇格させるわけにはいかない。お分かり頂けましたか?」
「そんな……だって……そんな話知らないし……」
「あなたは相手を見て対応を変えるのですか? 貴族じゃなければ遅刻してもいいやと」
「そんなこと言ってないじゃん!」
「では、もうお帰り下さい。遅刻をした時点であなたは失格です」
「……ちぇ」
リンと呼ばれた人は、座ってる受験者を睨みつけてから去っていく。
「さて、少し遅れてしまいましたが。試験を開始します」
試験官の男性が、それぞれの冒険者に紙を配っていく。
マリーの緊張が僕にも伝わってくる。
「まずは筆記試験です。今から三の鐘が鳴るまでが試験時間となります。早めに終わった方は用紙を提出後、退室して頂いても結構です。退室した方も三の鐘が鳴った後に冒険者ギルド前に集まってください。三の鐘後、すぐでなくても構いませんが、なるべく早目に集まって頂けると助かります」
試験の説明後に開始の声がかかり、受験者全員が問題用紙へと向きあう。
マリーは問題を読んだ後、詰まることも無くスラスラと解いていく。
他の受験者も特に問題無く解いて……あ、モーティマだけは悩んでる。さすが筋肉ダルマ。計算とか苦手なんだろうな。
試験時間が半分くらい過ぎたかなというタイミングで、カティナとお付きの全身鎧が立ち上がって試験用紙を提出し、退室していく。
退室する直前に部屋を見回し、ドヤ顔で去っていったよ……
カティナ達が退室してから数分で、マリーも立ち上がる。マリーも問題は解き終わって、見直しまで出来たみたい。
試験用紙を提出したら、荷物を持って退室。
「終わったー! 合格点がどれくらいかわからないけど、きっと大丈夫!」
「でもまだ筆記試験が終わっただけだからね? これから実技試験だよ?」
「わかってるよ、ウル。これから準備の為に買い出しに行くよ!」
「うん!」
買い出しする為に、色々なお店を覗きたい所ではあるけど、時間もそこまで無いから大通り沿いにある店を見ていくことに。
まず必要な物は、食料と薬。次に必要なのは、ダンジョンについての情報。ダンジョンの情報がないと、何を準備すればいいかもわからない。
というわけで、食料や薬を買いつつタンジョンの情報も聞いてみたけど、あまり有用な話は聞けなかった。
「どうしようか、ウル。一応、護衛の依頼を受けたときに一通りの準備はしていたから、色々揃ってはいるけど……ダンジョンて入ったことないから何が起きるかわからないんだよね」
「うーん……僕もダンジョンについては良くわからないんだ」
「どこのダンジョンに行くの? って聞かれても……試験用のダンジョンがどこにあるかまでちゃんと聞いてなかったよ……この辺りにダンジョンってそんなにいっぱいあるのかな? もうこのまま行くしかないよね」
いくらダンジョンだって言っても、一日ダンジョンの中で過ごすだけならなんとかなるかな?
「あ、いたいた! そこの人~!」
「え? 私のこと?」
「そうだよ! 今回の昇格試験を受けてる人でしょ?」
「そうだけど……あっ! あなたはさっきの?」
さっき遅刻してきて試験官に帰らされた人だ! 確かリンって名前だったよね。
こんな所で何しているんだろ?
「そうだよ! 試験受けるつもりだったんだけど、寝坊しちゃって……」
「それは……残念だったね」
「それはもういいんだ! ボクがちゃんと起きれなかったのが悪いんだし。それで、あんたにこれをあげようと思って」
リンが液体の入った小さな瓶をマリーに渡してくる。
「これは?」
「あんたってこの辺りで見ないから、きっと王都に来たばっかでしょ?」
「え、うん」
「だからダンジョンのことも知らないかなって。あのダンジョンには毒を持ったキラーアントがでるんだ」
「毒持ち!?」
「うん、そうなんだ。だからこれ。解毒薬。もしもの為に持って行きなよ」
「すごくうれしいんだけど……でもなんで、私にくれるの?」
「ボクは今回受けられなくなっちゃったから……せっかく準備してたけど、無駄にしちゃうのも勿体無いじゃん? だから王都に来たばっかで困ってそうなあんたにあげようと思って」
「……いいの?」
「もちろんだよ! キラーアントの毒は遅行性だから、もしキラーアントに噛まれたりしたら、その薬を飲んでおくといいよ。キラーアントの毒にかかっちゃったら一日もダンジョンにいられないから」
「わかった。ありがとう! ダンジョンの情報がなにももらえなくてどうしようか悩んでたんだ」
「気にしなくていいよ! それじゃあね」
マリーに薬を渡すと笑顔で手を振りながら去っていくリン。
毒持ちのキラーアントか。ダンジョンにはそんなモンスターもいるんだね。
「いい子だったね。あんな子だったら一緒に試験受けたかったな」
「そうだね、マリー。これで準備もできたし、まだ三の鐘は鳴ってないけど、もう冒険者ギルドへ向かう?」
「うん。行こうか!」
冒険者ギルドの前まで来ると、三の鐘が鳴り響いた。
さぁ、後は実技試験だけ!
頑張ろうね、マリー!




