表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆流者の旗  作者: 秋月 爽良


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/6

第5話 「お前ら、正気か?」

「久しぶりね、ユウマ」


 突然、背後から声を掛けられ、依頼書を取ろうと伸ばしていた手を止めて振り返った。


 そこに立っていたのは、以前声をかけてきたあの女性、メイ。

 そしてがっしりした体つきで、相変わらず無口そうなエイドだった。


「あ、えっと……メイさんとエイドさん、久しぶりですね」

「さん付けも敬語もやめない? 私たちとそんなに年変わらないでしょ」

 

 呆れたように笑うメイと、その後ろで腕組みしながら無愛想にこっちを見ているエイド。

 

 ……俺、何かやらかしたっけ?


 俺がエイドを気にしているのに気づいたのか、メイはその視線を遮るように一歩近づいてくる。


「私たち、ある依頼を受けようと思ってるんだけど、少し厄介でね。手伝ってもらえない?」


「えっ! お、俺?」

「そう。噂の新人さんに、ぜひお願いしたいの」


 思わず口がぽかんと開いてしまった。

 

 さっきギルドで聞いた噂って、もしかして自分のことだったのか?

 ただ、コツコツ依頼をこなしてきただけなんだけど……。


「それで? 俺たちと一緒にやる気はあるのか?」

「……でもエイドは、さっきからずっと仏頂面してるだろ? 本気で受け入れてくれるなら、全力で手伝うけどさ。あ……!」


 まずい、スキルが発動したか……?


 慌てて両手で口を塞ぐ俺の様子を見て、メイが我慢できずに吹き出す。

 その隣で腕を組んでいたエイドが、ふん、と鼻を鳴らした。


「へぇ、なかなか言うじゃねぇかよ」

 

 仏頂面だった顔が、ほんのわずかに緩んでいる……ような気がするけど、微妙だな。


「噂通り、口はよく回るじゃねぇか。まあ、今の俺たちにはその口が必要なんだけどな。頼りにしてるぜ」


「え……俺の口?」

「そう、あの依頼にはどうしてもユウマが必要なの」

 

 スキルのことが少し頭をよぎったけど、それ以上に誰かに必要とされることが嬉しかった。

 メイたちみたいな冒険者と組めるなら心強いし、メンバーがいない俺にとっては不安も消える。


「じゃあ、えっと……これからよろしく」


 スッと片手を差し出すと、ふたりの顔にほんの一瞬だけ、嬉しそうな色が浮かんだ。


「受けてくれるのね? こちらこそよろしく!」


 握手を交わしたふたりの手は温かくて、ちょっとだけ泣きそうになった。

 少し赤くなった目を気づかれないようにごまかしながら、依頼についてふたりに尋ねてみる。


「それで、その依頼ってどんな内容なんだ?」

「今から説明するわ。あっちで話しましょう」


 促されるままふたりについて行くと、掲示板の並ぶ場所を離れ廊下へと出た。


 こんな場所があったのかと思うほど、廊下の両側には部屋がいくつも並んでいる。

 途中でメイが職員に声をかけると、俺たちはそのまま一室へと通された。


「アトーリオさん、お待たせしました」

「ああ! ずっと待っていたよ! それで、この人が……?」

 

 20代くらいの男性が慌てた様子で、ソファーから立ち上がる。

 泣いていたのか、腫れぼったい目をした彼は、肩を震わせながら俺の両手をぎゅっと掴んできた。


「お願いします。どうか、魔獣に奪われた指輪を取り戻してください……」

「ま、魔獣!? メイ、一体どういうこと?」


「この男性は依頼人のアトーリオさんよ。今から彼に詳しく説明してもらうから、とりあえず座りましょ」


 メイに促されて、俺たちは部屋の奥にある丸いテーブルへと向かう。

 並べられた椅子に腰を下ろすと、その場の慌ただしさがほんの少しだけ落ち着いた。


 依頼人のアトーリオさんは、何度もゆっくりと深呼吸をして、手をぎゅっと握り締めていた。


「……実は、彼女に渡す指輪を湖のそばの木に隠したんです。そこは私たちの特別な場所で、彼女が見つけてくれたらそのままプロポーズしようと思いまして」


「……はあ、そうなんですか」 


 なんか、変わった人だな……サプライズってタイミングや状況を考えないと難しいだろ。


 チラリとエイドの方を見ると、アトーリオさんの後ろで腕を組んで眉間にシワを寄せている。 

 どうやら俺と同じことを考えていたらしくて、小さくうなずいた。 

 

「私は、彼女の喜ぶ顔が見たかっただけなんです……でも、突然現れた魔獣の子供が、指輪を咥えて逃げてしまいました」


 アトーリオさんは悲しそうに目を伏せると、組んだ両手に強く力を込める。


「大丈夫ですよ。まずはその魔獣のことを詳しく聞かせてもらえませんか?」


 メイが落ち着いた声で呼びかけると、アトーリオさんは唇を噛み締めて、悲しそうに眉を寄せる。


「はい……魔獣がねぐらにしてる場所は分かっているんです。でも、親が近くで見張っていて近寄れなくて。ですから、どうかお願いします」


 言い終えると、アトーリオさんはカチャリと乾いた音を響かせながら、テーブルの上に小さな布袋をそっと置く。


 開かれた袋の中身は、数枚の鈍く光る硬貨だった。

 これで指輪を買い直した方が良いんじゃないか……思わずそう口走りそうになって、俺は慌てて手で口を塞ぐ。


 そもそも価値観なんて人それぞれだし、俺の勝手な考えで彼を傷つけたくない。

 その指輪がふたりにとって大切なものかもしれないし。


「ちょっとユウマ、聞いてるの? だから、あなたが必要なのよ」

「いや、ちょっと待ってくれよ。相手は魔獣なんだから、そもそも言葉が通じないだろ?」


 そう言うと、メイは首を左右に振った。


「そんなの、やってみなきゃ分からないじゃない。説得できれば、指輪を返してもらえるかもしれない。でも、攻撃して親の魔獣が暴れ出したら、誰かが怪我をするかもしれないのよ」


 いや、その発想はおかしいだろ――俺がケガをするのはいいのか!?


 エイドに助けを求めて視線を向けると、彼は静かに目を逸らした。

 メイはイタズラっぽく笑いながら、俺の顔を覗き込んでくる。


「それに、ユウマ……あなた、魔獣相手でも交渉できるんじゃない?」

「いや、できないけど!? 何言ってるんだよ、正気か?」


 彼女のあまりにも突拍子のない話に、心の中の声がそのまま漏れた。

 黙ったまま複雑な表情を浮かべていたエイドが、気まずそうに口を開く。


「メイがお前の噂を聞いたんだよ。交渉がうまいって、ギルドで評判らしいぞ?」


「そうよ、レストランで文句ばかり言っていたお客さんを、うまく説得して静かにさせたって聞いたんだから。他にも、いろいろ話は耳に入ってるわ」


 ……確かにそういうこともあったけど、俺のいた世界では、あの程度は特別なことじゃない。

 こっちの人たちが、少し気にしなさすぎる気がするけどな。


「いや、あれは偶然そうなっただけで……」


 強引に巻き込まれてる気分だけど、ここで断るのもかなり言いづらい。


「大丈夫、ケガをしても治してあげるから。私、回復魔法士で治療が得意なの」


 そう言われても、不安が消えるどころか余計に落ち着かない。

 どうにも決めきれない俺は黙り込んでしまった。


 そういえば、その指輪じゃないといけない理由ってあるのかな……。


「アトーリオさん。その指輪には何か特別な思い出があるんですか?」


「ええ、実は彼女とは幼なじみなんです。子供の頃からずっと大好きで、いつかプロポーズしようと思って、故郷の貴重な鉱石を掘り出して指輪にしたんですよ」


 俺は、余計なことを聞かなきゃ良かったと反省した……メイは感動して両手で口を押さえているし。

 

 でも、誰かのために何かをしたい気持ちなら、少しだけだけど分かる。

 俺は教会の募金箱に銀貨を入れていたことを、ふと思い出した。


「もっと稼げるようにならないとダメだよな……」


 大きく息を吐き出し、目の前の彼らをまっすぐ見据えた。


「……わかった、やってみる。でも、あんまり期待しないでくれよ?」

「本当ですか! ありがとうございます!」


「さすが期待の新人ね、頼りにしてるから」


 不安でいっぱいだけど、そうやって喜ばれると、やっぱり嬉しい。

 俺たちのやり取りを静かに眺めていたエイドは、片眉を上げてふん、と鼻を鳴らす。


「……やる気になったのか?」

「どこまで役に立てるか分からないけどな。ところで、その場所ってどのあたりなんです?」


 アトーリオさんがテーブルの上に広げた小さな地図を、俺たちは頭を寄せ合って覗き込む。

 どうやら、湖の北の岩場を越えた先にある、古い倒木の影が魔獣のねぐららしい。


「……場所も確認したし、明日の早朝に出発しましょうか」


 依頼はついに明日だ。

 俺たちは顔を見合わせ、小さくうなずいた。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます

もしよろしければ、ブックマークや★評価をいただけると嬉しいです。今後の励みになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ