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VISION  作者: Mr.M
四章 殺人未遂事件

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63/76

第63話 穏やかな空気とどこか不安定な緊張

食堂の柱時計が

ボーンと8時30分を告げた。


同時にドアが開いて

歌川と小鳥遊が揃って現れた。

「おや。

 これは珍しい組み合わせだ」

笠原が目を丸くして2人の方を交互に見た。

「ははは。

 揶揄わないでくれよ、笠原くん」

歌川は自らの広い額をパンッと叩くと、

少年のように頬を赤らめた。

「おはよ」

小鳥遊が小さく囁きながら、

私の隣の席に腰を下ろした。

「さっき部屋を覗いたけど、

 いなかったから。

 先に来てるのかと思ってた」

私が小声で返すと、

「う、うん・・ちょっと・・ね」

小鳥遊は視線を落とした。

「えっと。

 まだ来てないのは3人かな?」

昨夜と同じ席に着いた歌川が、

そう言ってテーブルの面々を見回した。


その時。

ふたたびドアが開いた。

「やあ。

 遅れてすまないね。

 実はヒカルくんと

 朝まで語り合っていてね」

大烏だった。

大烏は朝から一糸乱れぬ、

ブラウンの上質なスーツに

身を包んでいた。

頭には相変わらずボーラーハット。

その背後から、

淡い桃色のネグリジェ姿のヒカルが、

眠たげな目を擦りながら現れた。

大烏は昨夜と同じ歌川の向かいの席に、

ヒカルもその隣に座った。

笠原がヒカルの方に

意味深な視線を向けていたが、

ヒカルはそれに気付いていないのか、

はたまたあえて無視しているのか、

口元を手で隠し欠伸を噛み殺していた。

「おや?

 蒼井くんの姿が見えないが、

 随分ゆっくりとしているようだね」

大烏がテーブルを見回した。

「今、若い子の間では

 朝食抜きダイエットというのが

 流行ってるらしいよ、そうだろう?」

歌川が肩を竦めて

小鳥遊へと目配せした。

小鳥遊が躊躇いがちに頷いた。

「ふむ。

 いつの世も。

 美容や健康に関しては

 誤った情報が溢れ返っている。

 それで利益を得ている質の悪い輩が、

 巧妙に仕掛けているのだろう。

 最近では。

 インフルエンサーなどと

 胡散臭い肩書を掲げる連中も多い。

 我々はそんな馬鹿げた情報に

 踊らされず、

 朝食をいただこうじゃないか」

そう言って大烏は

両手をパンッと合わせた。

「そうそう。

 食事が済んだら。

 各自の判断で発ってくれて構わない。

 挨拶も不要だ。

 私はあと数日ここに滞在する予定だが、

 もし希望する者がいたら、

 遠慮なく申し出てくれ給え。

 歓迎しよう」

「それは嬉しい提案だけど、

 今夜は店を開けないとマズいからね。

 それに結女と小鳥も

 明日から学校だろう?」

私と小鳥遊は顔を見合わせてから頷いた。

同時に。

私は歌川の言葉に微かな違和感を覚えた。

「それなら。

 俺もパスかな。

 いくら美味い酒と料理があっても、

 球撞きの相手がいないんじゃ、

 流石に退屈だからな」

笠原の視線が、

ねっとりと私に絡みついた。

私は慌ててカップを口に近づけた。

「じゃあ。

 アタシはしばらく

 泊っていこうかしら?」

ヒカルはそう言って

大烏の肩にそっと手を置いた。


朝食は終始穏やかに進んだ。

しかし。

私はその空気の底に、

どこか不安定な緊張が

潜んでいる気がしてならなかった。


鈴木は黙々と食事を口に運びつつも、

時折笠原の方へ鋭い視線を送っていた。

当の笠原はそれに気付かぬ様子で、

冗談を交えつつ、

皆に笑顔を振り撒いていた。

小鳥遊はぼんやりと口を動かしていて、

私が話しかけてもどこか上の空だった。

歌川はいつもより幾分か声が弾み、

笠原の冗談にも、

終始にこやかに応じていた。

一方。

ヒカルは明らかに不機嫌そうだった。

大烏だけが1人平常運転だった。

そして。

蒼井はついに姿を見せなかった。

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