第62話 画に描いたような朝食
食堂に入ると、
鈴木が1人でテーブルに座っていた。
「おはようございます」
私が挨拶すると、
「お、おはよう・・」
鈴木はやや気まずそうに
丸眼鏡のブリッジ指をかけた。
鈴木は昨夜と同じ席に座っていた。
私もそれに倣って
鈴木の斜め前の席に腰を下ろした。
テーブルの上には
すでに朝食が並んでいた。
スープ。
生ハムとサラダ。
クロワッサン。
スクランブルエッグ。
そしてコーヒー。
いかにも画に描いたような、
定番のメニューだった。
「・・まだ誰も来られてないんですね?」
私は鈴木と2人きりという
若干気まずい空気を紛らわせるため、
当たり障りのない話題を口にした。
「そう・・ですね。
8時というのは、
少し早すぎたのかもしれません。
時間を決めた大烏さんも
まだですからね」
鈴木は閉じられたドアの方に顔を向けた。
その時。
食堂の柱時計が
ボーンボーンと8時を告げた。
「・・先に食べませんか?
実を言うと、
起きてからずっと空腹でして」
鈴木はそう言って
恥ずかしそうに頭を掻いた。
私が首を縦に振ると、
鈴木はスプーンを取って
スープを口に運んだ。
一方、
私はコーヒーカップに口をつけた。
程よい酸味と苦みを舌に感じながら、
小鳥遊のことを考えた。
彼女はどこへ行ったのか。
もしかしたら。
遊戯室にいるのかもしれない。
しかし。
彼女がビリヤードやダーツに
興味を持っているという話は
聞いたことがなかった。
それに。
ゲームは1人でできない。
「・・ありがとう」
ふいに鈴木が口を開いた。
「えっ?」
「まだお礼を言ってなかったでしょう」
鈴木は小さく頭を下げると、
スプーンを置いた。
「貴女がいなければ。
私はこうして朝食を食べることは
できなかった。
ありがとう」
そう言って彼はもう一度、
今度は深く頭を下げた。
「そ、そんな・・。
改まって言われると困ります。
だって・・。
私は鈴木さんの邪魔をしたのに・・」
鈴木はゆっくりとコーヒーに口をつけた。
「これも運命でしょう。
それよりも。
教えてくれませんか?
どうして貴女は、
私が笠原のグラスに毒を入れたことを
知っていたのか・・」
前髪に隠れた丸眼鏡の奥の細い目が
じっと私の方を窺っていた。
食堂の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
私が口を開こうとしたその時、
ドアが開いた。
「おやおや。
2人しかいないのか。
朝食は8時からだったよな?
皆随分とのんびりしてるな」
笠原だった。
笠原は大きく欠伸をしてから、
昨夜と同じく私の対面の席に座った。
それから鉛色の髪をかき上げた。
「ん?
俺の顔に何か付いてるかい?」
笠原の一重の細いアーモンドアイが
真っ直ぐに私を捉えた。
心臓がどくんと跳ねた。
「い、いいえ。
何でもありません」
私は慌てて目をそらした。
「可愛い子に見つめられるのは
嫌じゃないさ」
そして笠原は「はっは」と笑った。
鈴木の方を見ると
黙々とサラダを口に運んでいた。




