第51話 妄想
部屋の柱時計が
ボーンボーンと23時を告げた。
「なるほど」
私が話し終えると、
大烏は腕を組んで大きく頷いた。
「信じられませんよね・・こんな話」
「ふむ。
俄かには信じられないが。
だからこそ。
君が嘘を吐いているとは考え難い」
大烏はカップを手に取って、
紅茶を一口飲んだ。
「もう一度確認するが。
君は『ビジョン』の中で
そこのグラスのワインを飲んで、
命を落とした」
私は無言で頷いた。
「しかし。
実際にそれを飲んだヒカルくんは
生きている。
つまり。
そのグラスに毒は入っていなかった。
ということになるが・・」
「そ、それは・・」
だからこそ私は混乱しているのだ。
私は居心地の悪さを誤魔化すように、
カップに口をつけた。
部屋の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「ふむ。
すべては君の夢、
いや妄想ではないのかね?
人は自分の都合の良いように
記憶を改ざんする。
それは歴史も同じだ。
勝者が捏造した歴史が、
後世に語り継がれている。
君も無意識のうちに、
過去の事実を頭の中で
作り変えたのではないかね?
幼い頃の衝撃的な出来事を
ありのまま受け止めることは
耐えられなかったのだろう」
「な、何が言いたいんですか・・」
「ふむ。
君の『ビジョン』には、
ごく些細な点で
現実とのズレがある。
君が『ラグ』や『バグ』と
呼んでいる事象だが。
それこそが。
都合の良い改ざんであり、
妄想であることの
証明になるのではないかね?」
「で、ですが。
私はここへ来る車中で、
ヒカルさんを除く
招待客を知っていました。
それについてはどうお考えですか?」
「ふむ。
そのことなら。
君は歌川さんに、
事前に招待客のことを
聞いていたのではないかね?
私は歌川さんには、
招待客について話していたからね」
私はハッと息を呑んだ。
歌川は招待客のことを知っていた。
しかし。
車中の会話ではそれを黙っていた。
なぜ・・。
私は頭を振った。
「そ、その中に・・。
蒼井さんは含まれていませんよね?」
私は食い下がった。
大烏が首を傾げた。
「蒼井さんのことは江藤さんですら
知らなかったことです。
ですが。
私は彼女の姿を『ビジョン』の中に
はっきりとミました」
「ふむ。
蒼井くんのことについては。
君の後付けだろう。
本当は。
君の『ビジョン』の中に、
彼女の姿など
なかったのではないかね?
誰も未来の出来事を
予測することはできない。
未来を語るのは、
詐欺師か神の言葉を騙る者と
相場が決まっているのだよ」
大烏は力強く断言した。
「わかったかね?
それが君の『ビジョン』の
正体ではないかね?」
そして。
大烏はゆっくりとカップに口をつけた。
私は目の前の空のグラスを見つめたまま、
力なく首を振った。




