第94回 「それでも串を握ったまま」
ゼラーーーーーーーーーーーーッ!!!?
なんてーの? 漫画表現で言うなら、顎の輪郭からはみ出る四角で描かれた様な口で驚愕。
2046年9月24日。
妖精王国自治領、マクドヴェル魔術記念学校附属都市、西の大庭。
商業区、マーケットの片隅の屋台街。
平日、Thebesで出来ることは限られていて。
そもそものログインが夜遅く。
ウェインさんのトウモロコシ農場で、収穫のアルバイトを切り上げたのが23時過ぎ。
"みんな疲れちゃったんだよ"
って、息抜きのつもりの屋台街で立ち食い。
肉汁滴る串焼き肉をパクっと頬張って
「「うまいっ!」」
の声に、隣客とお互い目を見合わせれば。
そこにはなんと探し人その人。
Thebesで足跡を追う件の相手、ゼト教の神官、リアルで行方不明のお姉さんを捜す学校の先輩。
──ゼラ。
お互い顎が外れそうなほどパッカーンて口をだだ開きして、驚愕に目を見開き。
今さっき飲み下した串焼き肉の濃いめのタレにけほけほとムセかけ。
なんならお互いの同伴──きゃみさまや高坂、ゼラの連れ合いらしい、名前も知らないゼトの神官たちが、困り困って視線を絡ませるだけの悠長な間を置いて。
「ゼラ!?」
「なつぴこサン!?」
俺たちはお互いを指さして声を上げた。
ケンちゃんさんには"セーラムを追っていればどこかで会う"なんて言われたけど、まさか彼女の方と先に鉢合わせるとは。
"彼女が、例の?" "セーラム捜してるっていう?"
"う、うん"
"誰です? ゼラ"
"ああ、ヴァルハラの方で協力してもらった一般の人だよ"
なんて両陣営内の説明的な一幕があって。
面識があるのは俺とゼラだけなので、お互いを代表するように向かい合い。
「追って来ちゃったのか。なつぴこサン」
「俺は俺で、セーラムを追います。迷惑はかけません」
「そちらは?」
「俺の仲間です。きゃみさま、とフユキ」
きゃみさま、高坂とゼラがお互いぺこりと浅く会釈をし、次いでゼラが自分の同伴を振り仰ぐ。
「派閥内で協力を申し出てくれた同胞だ。同じゼトの神官で、ネゥと、カイ」
紹介された二人は無言で浅く一礼。
どちらもゼラ同様浅黒い肌色、髪色は銀髪で、ネゥと呼ばれた方が肩くらいの長さの直髪、小柄な体躯。カイと呼ばれた方はベリーショートの髪でゼラより少し長身。双方性別の読めない中性的な容姿。
こちらと違い、"お友達"といった雰囲気ではなく、あくまで教団内の同僚、といった感じ。
様子をうかがうような、最低限の警戒を残した様な眼差しに。
そういえば、と、ゼトの教義を思い出す。
ゼラが異質なだけで、二人は所謂"漁夫の利至上主義"なのかもしれないし、そうでないかもしれない。
俺の友人を助けてくれているという事実を無下にも出来ないが、心許し過ぎてもいけない気もする。
それはさておき。
「接触は」
「今のところなし」
言葉少なに、セーラム探しの進捗を問うてみれば、ゼラは首を振る。
俺の方は──むやみに知らせる必要があるか、とか、少し迷うものの。
「俺の方は"偽物"と接触しました」
「「「!?」」」
きゃみさまや、高坂にも知らせていなかったので、その場の全員が目を見開く。
「偽物ってのはあれか? 所謂セーラムのロールプレイしたプレイヤーキラー、ってこと?」
「そうですね」
「おいおい、大丈夫なのか」
ゼラだけでなく、きゃみさまや高坂からも似た様な視線を浴び。
「結論から言うと、改心していました」
「その改心って奴は信用できるのか? そもそもプレイヤーキルして喜ぶような奴だったんだろう?」
「個人的に納得のいく理由でしたし、なんていうかお節介でどう転んでも悪人に成れないタイプの男が、すぐ隣で首輪をかけている様だったので」
「へ、へぇ」
クシャミのひとつでもしてろよ、とばかりに、ゼラから反らした目を細める。
あの赤髪の剣士の達観したような顔を思い出して、少しだけ癪な気持ち。
「あの」
差し挟まれる声に全員がそちらを振り仰げば、ネゥと呼ばれた小柄な方の神官。
「とりあえず、食べません?」
その声に、全員がハッとした顔になって自分の手元を見やる。
仲良く揃って串に4つ残った焼き肉を眺めてけちょん顔。
おおっとそう言えば。
"串焼き肉片手に大真面目な話してる6人組"
って絵面に少しばかりの羞恥、全員がしばし無言ではくはくと肉にかじりつき。
「えふん。 えっと、それじゃ結局お互い"本物"の方には接触できていないわけか」
「けふ。 そう言う事ですね」
急いで肉を平らげ、巻き込んだ空気でげっぷが出そうなのお互いに堪えて、締まらない会話。
それじゃお互い"本物"のセーラムを見つけたら、其れだけは報告し合うってことでいいですか、と。
和やかに解散。
と成るかと思いきや。
ぽん、と。肩に置かれる手。きゃみさま。
驚いて顔を向ければ、俺と体を入れ替え、ゼラの前へ。
すれ違いざまに
"ネゥって子、和ませたように見えて、あの子だけ目が笑ってなかった"
"気を許し過ぎないで"
なんて。
ヒェっとなるのも束の間、そう言えばこうなった時の心配してた、と。
向かい合うゼラときゃみさまを交互に見。
はらはらと成り行きを見守れば。
「ねぇ、ゼラさん、だったかしら。貴女、セーラムが何だかわかって追いかけてるの?」
そんなことを。
言うのだ。
ネゥ、カイ、は眉を顰め、高坂はキョトン顔だが、ある程度事情に踏み込んだ俺とゼラは各々驚愕だ。
えっ、いやちょ、その口ぶりだときゃみさまは知ってんの?
ゼラが説明を求める様に俺の方をチラ見するが、俺としてはこの場この時にどう説明して良いやら。困った顔で歯噛みするしかなく。
「ある筋から、アタシがリアルで探している人物と関係がある、とだけ聞いて追っている。キャラクター、という意味でなら、原作に開示されている程度には」
「ある筋……そういうこと」
彼女のことだ、俺と鳥山先生との間に、おおよそどんなやりとりがあったか、察したろう。居心地悪く、それを見守るしかなく。
しばし何とも言えない重たい沈黙が流れるが、黙考していたきゃみさまが再び。
「少し、踏み込んで聞きましょうか」
「うん……?」
思わせぶりなきゃみさまに、ゼラは眉を寄せる。
きゃみさまが"その前に"と、ゼラの同伴に目配せをすれば
「ネゥ、カイ、すまないが」
「……了解した」
二人はこちらをチラ見しながら、席を外し、凡そ声の届かない位置まで離れ、街路樹に背を預けた。
俺や、高坂が自分を指せば、"二人は聞いていて"と。
ひとつ、咳払い、して。
「貴女、彼女の、何?」
なんで。
いや、予想できたことだ。
"彼女のことかぁ"
記念病院の技術実験棟で鳥山先生が口を滑らせた、それ。
彼女、とは。
きゃみさまの立ち位置は?
「"彼女"……とは?」
多分に察するものがある中、あくまで探る様に、確かめる様に、ゼラがそう返せば。
きゃみさまは苦々しい顔。
「風香さんの関係者なのか、と、聞いているのよ」
「!?──姉ちゃんを知ってるのか!?」
「妹、さん……!?」
きゃみさまの挙げた名前に、飛び掛からんばかりの勢いで詰め寄って、ゼラ。
お互いの言に驚愕した様に、二人。
そして、口に手をやって絶句していたきゃみさまが、少しだけ冷静さを取り戻したように。
「そう……そういう、こと。貴女には、追う権利があるわ。だけど──」
そこで、一度、言葉を切って。
「事によってはこのThebesの運営──今や億を超える金額が裕に動く、一大ビジネスを破綻に導く引き金になりかねないわ」
きゃみさまの言に、ゼラだけでなく俺や、高坂も息を呑む。
どういう、こと?
何故、ゼラのお姉さんとThebes運営の進退が関係あるの?
そもそも何で、きゃみさまはそんなこと知って? って。
深く、深く、きゃみさまが息を吐いて。
「いつまでも……黙っていられないのかも、ね」
独白の様にそんな言葉を漏らし。
「いい機会だから、なっつん、フユキ君も、聞いて」




