↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/95

第91回 「只者なんて、何処にも居ないさ」



「キミが、学人サンと呼んだ、女の子のことだ」




 2046年 9月 23日 日曜日。

 西の大庭(ウェスト・ガーデン)の中央にある広場。

 ゲートクリスタルを囲う様にして配置された、外周のベンチ。


 赤髪の剣士、ユージンを挟んで、俺と、"元偽セーラム"ことセイラン。



 ──学人サン。

 ヴァルハラのカフェですれ違った、"白い少女"

 きゃみさま曰く、彼女が悪いんじゃないんだけど嫌いになる理由がある、相手。

 それ以前に銀髪紅眼の小柄な美少女にして"学人"呼び。


 ネカマ?

 リアルとかけ離れた姿のアバター?

 それにしてはThebes(ゲーム)内で初めて見かけたらしいきゃみさまが、一目でわかる"丸わかりな格好"だったとか。


 目の前の赤髪の剣士、ユージンが言う所の"マナ"さん。

 何故知っているか? と聞かれれば、上記が全てだ。

 つまり知ってるのはきゃみさまで、俺自身はほぼほぼ知らない。

 それをそのまま伝えてみれば、ユージンはふうむ、と顎に手をやって考え込む。



「"きゃみさま"……? もしかして、だけど」



 ぽつりと話し出す、赤い髪の剣士に何故だかドキリとして。

 ベンチの端で隣を見上げる。


 彼は中肉中背。男としては決して高いとは言えないくらいの身長。

 高坂よりちょっと高いかなってくらい。

 今やそれさえも見上げる位置。

 溜息半分まじまじと見つめ、いやいや初対面相手に何やってるんだ、と目を伏せかけたところへ。



「それは、真一君(・・・)の、ことだったり……?」

「────!」



 目を、見開く。

 思わず、といった体で口が動き。


「なぜ、彼女(・・)のことを?」

「いや、オレは彼(・)と面識はないんだけど、藤堂さん(・・・・)の実子で、マナとは姉弟の様なものだと……」


 そこでお互いの言のすれ違いに気が付いたように。


「彼女は──」

「彼は──」


 確かめる様に言い直し。

 理解に苦しむ。が、何とか腑に落とそうとしている様な、しょっぱい顔。

 なんだか。偽セーラムの方はともかく、このユージンの方は、どう転んでも根っからの悪人、ということはなさそう。


「藤堂……真一君の話をしているんだよな?」

「藤堂真一君の話をしています」


「?????」


 困り困った顔。にゅぅ、と滑らかな動きで首をかしげる。


 溜息。

 対して俺は迷っていた。


「俺の口から喋っていいのか」

「無理にとは言わない」


 赤髪が目配せすれば、金髪の方──セイランは鼻を鳴らして席を立ち、少し離れた街路樹に背を持たれる。


 最低限の配慮に感謝し、でも迷い迷って。

 今思えば、初対面の人物、それも元プレイヤーキラーと同伴しているような男に、何故話してしまおうと思ったのか。

 この男、考え無しというわけではないが、なんとなく裏はなさそうというか。悪どいこと考えつかなそうっていうか。


 気が付けば、俺は"他言無用"と念押ししながらも、俺の知る限りの彼女の素性を話していた。

 彼女が、その言が本当であれば十にも満たない幼齢ともいえる段階で、男性器の切除によって性転換していること。男性として二次成長期を過ごすことが無かったせいか、ほぼほぼ女性のように見える事。

 "きゃみさま"はあくまでニックネームで、俺自身もごく最近まで本名は知らなかったこと。携帯端末で連絡を取り合い、行動を共にする仲であるが、実際の所何処の誰なのかも、正確な年齢すら知らないという事。



 どういう、めぐり合わせか。



 彼女を見、同伴すらしているが、彼女を知らない俺と。

 彼女を見た事すらないが、誰であるかを知っているらしい赤髪の男が。

 彼女──藤堂真一の伺い知らないところで、出会ってしまったのだ。



 彼女の性転換の話をしてみれば、赤髪の剣士はぽかんと口を開けてあっけにとられるというか。

 そりゃそうだろう。世間一般じゃそんなにありふれた話ではないと思う。

 なんなら俺たちが異常。俺や高坂のことも詳しく話したら、こいつはどんな顔をするだろうか。


 と、間抜け面を晒していた赤髪が、我に返る様にハッとした顔になり。

 口元を隠して目を逸らす。

 そのまましばし黙考。



「そういう……ことか」



 ぽつりと、零す。

 その呟きに、そわりと耳を立て。


 赤髪の剣士──ユージンはこちらへ向き直り、居住まいを正す。

 ここまでに増して、真剣な顔で。


「性転換、と言ったね。それはやはり、従来的な方法(・・・・・・)で?」

「逆に聞きますが、従来的ではない方法(・・・・・・・・・)、とは?」


 

 なんだったら、この俺もそうか。

 "朝おん"だ。革新的すぎんだろ。

 それはまぁ例外的であるとしても、人為的な性転換で、従来的ではない方法、とはなんだ。

 薬塗ったらアレが消えちゃうような新技術でもあるって言うのか。

 ……生えてくる方も造ってくれよ。


 俺の方はウンザリ顔。

 赤髪も、一旦、何だか苦く口を引き結び。


「ありがとう。その答えで十分だ。そうか……そういう、ことか」

「俺の方は何が何だかさっぱりなんですが」


「真一君が、マナを嫌っているという事にも、そしてそれがマナの所為でないと理解しているという事にも、合点がいった」

「え」


「彼、真一君は──」

「ッ!!」


 赤髪が、何か決定的にそれに触れる前に。

 気が付けば手を広げて、目のまえの男を制止していた。



「ま──って、ください」



 絞り出す様に、そう言ってみれば。

 赤い髪の剣士は口を噤み、戸惑った様に首を傾げた。


 正直、知りたい。


 赤髪を押しとどめる様に、手をかざしたまま。

 顔だけ下を向いて、目を見開く。

 知りたい、と思っていた事だった。

 でもいきなりすぎる。


 聞いて良いんだろうか。

 彼女の知らないところで、彼女以外の口から、俺が。


 俺は。


 ──俺は。


「    が  ら」

「……うん?」


「言える時が来たら、ちゃんと言う、って。"彼女"の口から、教えてくれるって。そう言ったんだ」

「うん」


「だから。貴男から聞いて、しまう、のは。なんだか不義理な気が、して」

「そうか」


 言わないでください。

 俺に、彼女の正体を、教えないでください。

 そう言うつもりで、顔を上げてみれば。


 赤髪の青年は、何だか眩しそうに目を細めていて。

 それが苦笑するように、くしゃりと、破顔する、みたいに。


「じゃあ、おしえない」

「あ、りがとう、ございます」


 呆けた様に返せば、赤髪はいよいよ含むような笑い声を漏らし。

 いや、教えないって言われて、ありがとうございます、もなかったか。

 今更ながらに、問答のおかしさに恥じ入って。



「大切に。思っているんだね」

「え……?」



◇◆◇◆◇



 別れ際。

 もしよかったら、って、フレンド申請を受ける。

 フレンドカードは交換制で、こちらだけ受け取るということはできない。

 Thebes(ゲーム)内で携帯端末のコールナンバーを教える様なもので、知らない男相手においそれと……みたいに、きゃみさまには言われた。


 直感、だが。


 この赤髪、ユージン、だったか。

 信用してもいいのでは、と、思う。


 申請に、受諾ボタンを押しながら。


「あの」

「うん?」


「いっぺん断っといて何なんですけど、その、きゃみさま──真一、君は」

「うん」


「"只者じゃない"っていうか、一般人じゃないっていうか、なんか、すごい人なんですか? こう、ふわっとした言い方、できたら」


 耐えきれず、そんな風に聞いてみれば。

 赤い髪の剣士、ユージンは、一瞬きょとんとしたような間抜け面を晒し。

 そうであったかと思えば、眩しそうに目を細め、柔和に笑う。



「只者なんて(・・・・・)、何処にも居ないさ(・・・・・・・・)」

「え」



「皆、主人公なんじゃ、ないかな。オレも。キミも」



 彼は、呟くようにそう言うと、俺が何か口を開く前に、その踵を返した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。