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第72回 「男扱い、してほしいなって」



「き、緊張しちゃう、ね」

「でもでも、せっかく可愛くなったんだもん。男の目は気になるところだったりしない?」


「うん。でも便利だよね。フェイスメイクの現在状態を保存して、ボタン一つでオンオフしたり、過去履歴から再現したりできるんだって」

「リアルでほしい機能よねぇ」


「言えてる」

「なっつんはどんなメイクしてるの?」


 翌、火曜日。Thebes(ゲーム)内。ヴァルハラ市商業区、リバーサイドマーケット。

 可愛くなった高坂を、ケンちゃんさんにお披露目して驚かせちゃおうゼ! って、マーケットにある彼の仮設店舗に向かう道すがら。


 和気あいあいとだべりながらの一幕。

 と、この質問である。


 もう隠す必要がないってんで、生き生きとした笑顔で、高坂。

 しかしながら俺はキョトン顔で返すほかなく。


「え、してない(・・・・)」

「?????」


 ポカーンとした顔って言うか。はにゃー? って感じで高坂。

 いやなんなら間抜け顔も可愛い。

 何にしろはてな吹雪の高坂の肩をきゃみさまがポンポンと叩く。


「このナチュラルチートぷるもちほっぺ野郎はこれですっぴん(・・・・)なんスよお姉さん。ゆるせねぇでしょー?」

「え、ずるいっ!」



 "きっと、簡単に可愛くなってズルイ、くらい思ってる"


 高坂からのその単語に一瞬どきりとさせられるも。

 拳をフリフリ、可愛く拗ねて見せる高坂があんまり可愛くて。


 ちょっと、安心して。


「お、俺が何したってんだよぅ」

「何もしてないのが許せねぇってんですヨ、あ?」


「ひぇ、きゃみさま顔がマジだよ? ちょ、ちょ、高坂助けてっ」

「まぁまぁまぁ」


 おどけて高坂の後ろに隠れてみれば、高坂は手をフリフリ、どうどうときゃみさまを押しとどめて。

 あ、萌え袖確かに可愛いな。

 まぁでも、元々フワフワしたイメージのあった高坂だからこそかな。

 一瞬、袖内に手を隠した自分を想像し、いや、ないない、としかめ面。



 きっと。

 高坂は。俺たちは。この後もずっと。

 色んなくやしさに直面していくんだろう。


 でも負けない。

 こんなにも心強い仲間がいるから。

 今、この時は、楽しくて、幸せだから。




◇◆◇◆◇




「こんちわー!」

「おう、いらっしゃい」


 元気よく手を上げて挨拶。

 街鍛冶師は顔をほころばせて手を振り返す。

 

 途中買った差し入れなんかをやり取りして。


 "これ、メルトで今期間限定のくっきーめろんぱんス"

 "お、さんきゅー"


 なんてやってる横で、おずおずと。

 ちょっと緊張した感じに高坂。


「え、と。こんにちは。ケンちゃんさん」

「おう、こんちわ。おっと? そっちのお嬢さんは? 新しいオトモダチ?」


「え、えっと。あの」

「ところでさっきから声はするのにフユキの姿が見えねぇんだけど?」


 やり取りに、もうきゃみさまと一緒に震えながらぷぷぷぷって笑いをこらえて。


「あ、あの。僕です。ここにいます」


 なんだか困ったように、ちょっと上目遣いに、高坂はそう訴えるんだけど。


「え、どこ? あ、お嬢さんは初めまして。街鍛冶師のケンちゃんです」


 ケンちゃんさんは、目の前の高坂が高坂だと認識出来ておらず。

 なんだかもう、うっすら気が付いてはいるんだけど、頑なに認めたくないって言うか。

 なんかもう困り困って、高坂が一瞬だけウィッグを浮かせて見せれば。


 こう、なんていうか。

 ( ゜Д゜)みたいな顔して固まるケンちゃん氏。


「???????????????」 



「(笑)」

「混乱しとる混乱しとる」


 俺ときゃみさまがにやにやしながらヤジを飛ばす目の前で。

 まるで混乱(コンフューズ)の魔術でも食らったかのような金髪の鍛冶師。



「なんで!!!!!?」


 最初の感想がそれか。

 いや気持ちはわからなくもないが。



◇◆◇◆◇



「いや、そりゃあないぜ、フユキよぉ」

「いやあの。す、すみません」


 ひと心地ついて、みんなで丸太椅子に座って。

 混乱から立ち直ったケンちゃん氏は後ろ頭をがりがりとやって。


 高坂が申し訳なさそうに上目遣いで見て返せば、鍛冶師はどきりとした様に顔を赤らめて。


「あ、いや、せ、責めてないぞ? ええと……」


 何か可愛い女の子困らせちゃってどうしよう、みたいな態度。

 何なら扱いが完全に女の子なんだよなぁ


「何なら扱いが完全に女の子なのよねぇ」


 きゃみさま。

 俺せっかく口から出さないで耐えたのに。


「ちょ!? いや、フユキもフユキだよ。 言ってくれれば──って、うん? 女の子、だったんだよな……?」


 ケンちゃんの言に、俺ときゃみさまはわざとらしく深いため息をつき、フルフルと無言で首を振ってみせる。

 ケンちゃん氏の、眉が寄る。


 高坂は心底申し訳なさそうに、小さく手を上げて。


「あ、いえ、男です。リアルは男性ですし、このアバターも男性です」

「なして!?」


 口をあんぐりと開けて二の句を告げられないでいる、街鍛冶師。

 まぁ無理もない反応ではあるんだが。

 なんだか雲行き怪しくなって。


「あー……」

「うーん、自分の性に疑いを持たないタイプのケンちゃんとしては、理解しがたいかもしれないわね」


 こちらもこちらで、困ったような顔のきゃみさま。

 でもきっと、一番不安に思ってるのは高坂だろう。

 もし、受け入れられなかったらって。


「あ、あの、やっぱり気持ち悪──」

「──そんなことない!!」


 耐えきれずに、何だか自虐的な言葉を吐きかける高坂を止める様に。

 さえぎるように否定してみせる。

 だって、その不安はわかるから。

 俺と、きゃみさまや高坂は違う(・・)けど。


 そこだけは一緒だって、思えるから。


「そんなことないよね!? だって、だってケンちゃんさん、俺のことだって男扱いしてくれたじゃん!」


 ちょっと感極まっちゃって、縋る様にそう言ってみれば。

 高坂の姿に目を丸くして固まってたケンちゃんは、まん丸な目をしたままこちらを振り向き。

 しばしぱちくりと目を瞬いて。


「ま」

「「「ま?」」」


 俺たちが三様ケンちゃんの反応を待っていると。

 固まっていたケンちゃん氏が、ぐびりとつばを飲み下し。


「まてまてまて、お前らかってに人の頭んなかをお察しして、話を進めるんじゃあねェ」


 ケンちゃん氏はようやく冷静さを取り戻したように、ハーって長く息を吐いた後、徐に高坂の頭を撫でり撫でり。


「ったく、何の心配してんだか知らねぇが、そんなんきにするってんならそもそも儚花の魔女(ネカマ)がギルマスやってるとこに居ねぇし、きゃみさまやナツヒコの時点で拒否ってるだろ」


 そう言いながら高坂の顔を覗き込んで


「──心配すんな。ちょっと驚いただけだ。しっかしまぁ随分と可愛らしくなっちまってよぉ」

「あ、ありがと、ございま……す」


 流れで容姿を褒められ、高坂はケンちゃんの態度を疑い掛けた恥ずかしさもあってか、顔を赤らめて下を向き、言葉は尻すぼみに消え入って。

 そんな高坂の顔を見て今度はケンちゃんの方がボバッて顔赤くして。


「や、あのフユキ(コレ)、何扱い(・・・)するのが正解なんだ!?」

「あ、えと、ケンちゃんさんには男扱い(いままでどおり)で居てほしいです」


「「「え゛っ!?」」」


 高坂の返答に、ケンちゃんだけでなく、俺やきゃみさまもびっくりしてしまう。


「え、そ、そうなんだ」

「で、でも高坂、学校とかじゃクラスメイトに女の子扱いされてたじゃないか」


 俺がそう疑問を投げかけてみれば、高坂はなんだか可憐に口元を隠しながら苦笑して。


「や、究極僕のアイデンティティは"可愛い格好をしたい男"だから、やっぱりホントは男扱いしてほしいのさ」

「え、でも学校……」


「そこは合理性(・・・)ってやつ。女の子の格好して、"僕は男だ"なんていってたら、理解できない人たち(・・・・・・・・・)は困っちゃう(・・・・・)でしょ?」

「あ……」


 そう言われりゃ、痛いほどわかる。

 俺だってそうだった。

 俺は男だ! って女性(こ)の身体で跳ね返ったこと言ってみたところで、周りは困惑するばかり。

 俺は。俺も。この2年で、必要な時に"女のフリ"をする術を、少しは学んだ。


 高坂は高坂で、やっぱり色々あって、思い知らされて、社会に溶け込むにはそれしかないって。


「そっか」


 俺が苦笑して返せば、高坂は微笑んで頷いて。

 それからケンちゃんさんの方へ向き直る。


「──だけど、ケンちゃんさんには"男扱い"してほしいな、って」


 高坂はそう言って、袖あまりなまま、何だか頼りない拳を握ってケンちゃん氏へ遠慮がちに突き出す。

 ケンちゃんは一旦方眉を吊り上げて、それから噴き出すように笑いながら、それに自分の拳を打ち付ける。



「──光栄だ」




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