第73回 「ばとる回」
ガッキーーーン!
って。
重い衝撃を刀で受ける。
いや、本来であれば刀で受けてはならない一撃。
「んぅ!」
峰に左手を添えて、まともに受けてしまう。
おかげで万全の態勢で受けることができるものの、逆に逃れようもなく。
しっかりと接地したまま、そのままの態勢でズザーーーって引きずられるように後ろへずらされ。
しかしながら最後の振りぬきを堪え切れず、結局身体ごと浮かされ、後ろへ吹き飛ぶ。
「ふぎゃっ!」
無様に。可愛く無い悲鳴を上げる。
「なっつん!」
即座にきゃみさまがカバーに入り、追撃に晒されることはない。
準備して待ち構えていた高坂の回復魔法みたいなので回復されて、俺もすぐに立ち上がる。
「もーなんだって──」
きゃみさまが幅30センチ、刀身長2メートルはありそうな巨大な両手剣で、思い切り相手をぶっ叩く。
ごいん。
鈍い衝突音をたてて、相手がわずかによろめく。
苔むした石肌。申し訳程度人間型かな? って言うくらいの漠然とシルエット。俺たちにしてみれば大型の熊かなんかかな? ってくらいの体躯。
「──ストーンゴーレム!!」
翌、水曜日。
Thebes内。以前訪れた事のある、ヴァルハラ市近郊の採掘場近く。もちろん平日であるため、ほぼほぼ日の落ちかけた夕闇の中。視界悪く、それでも久々のバトル。
Ages服飾店でウィッグを用立て、可愛くなった高坂。
でも服代までお金が回らなくて、そもそもウィッグの代金も俺やきゃみさまのカンパの末の物で、俺たちはそろって素寒貧。
せっかく可愛くなったんだ。服だって早く用立てたいし、なんだったら、Thebesではお金の使い道は多岐にわたる。
なにしろ普通のゲームではあまり聞かない食費なんてものまで。まぁこれは、食べなかったらアバターが飢え死にするわけでもなく、さりとて現実には何の影響もない完全な嗜好品なんだけど。
まぁともかく当面の生活費を稼がなきゃって、久々にハンターズギルドでバトル系の依頼を受注しにいったんですよ。
以前のことがあって、俺が"生き物殺すのやーだー"って泣き入れてみれば。
じゃあ"魔法生物"なんてどう? ほぼほぼ無機物だよ? って、高坂。何だったらもう初心者感はなくて、普通に俺たちより詳しい。
そんで、以前俺ときゃみさまが、ケンちゃんに頼まれて鉄鉱石を掘りに来た露出鉱床の、その奥の方に発生したストーンゴーレムの討伐依頼を受けたわけだ。
魔法生物ってのは厳密に言うと生物ではないことが多い。
無機物や、生物の死骸などを用い、本来自立して動作できないものを魔術を用いて動作させる。そういうモノを人型に組んだ付与魔術を大枠に"ゴーレム"と呼び、そう言った魔力による強制動作させられたものを"魔法生物"なんて呼んだりする。
大抵の場合、それは術者によってコントロールされている。
しかし、以前この鉱床で話題になった"魔銀"なんかもそうだが、このThebesにおいて無機物は、自然環境下で偶発的に魔力を帯びることがある。
魔力の概念は俺にはよくわからないが、現実で言う所の地脈や風水じみたものもあるらしく、空気中や地中、何かしらの滞る場所に滞留魔力として蓄積することがあるらしい。
難しいことはわからない。
ざっくり言ってしまうと、あれだ。
この鉱床は採掘場であると同時に、魔力の滞留するパワースポットのような場所で。
長年ここに在って魔力に中てられた岩石が魔法鉱石化し。
同時、鉱床を利用するニンゲンの残留思念の影響を受けて、偶然にもゴーレムの様に準人型を形どってしまい。
でも人型作成の魔術によって成った訳ではなく、そこに誰の思惑も介在せず、ただ暴れている。
って。
高坂がゆってた!!(まるなげ)
嬉々として依頼書の内容を読みながら講釈を垂れる高坂。
俺ときゃみさまは何だったら馬耳念仏ってやつで。
右の耳から入ったうんちくがまるで素通りして左から出て行く。
俺たちの様子に気が付いた高坂がポリポリと後ろ頭を掻き
"でっかい岩の塊が暴れてるんで遠慮なく壊していいよ!!!!!!!"
"おっけ!!!!!"
で、今に至る。
「にしたってなんでストーンゴーレム!?」
ゴーレムの反撃。それはつまるところ石灯籠で殴られるような規模の物で。
きゃみさまは他に防ぐ手立てもなく、対人外規格刀の腹でそれを受け止める。
直接殴られたわけではないが、やはり俺の時よろしく体ごと浮かされて吹き飛んでしまう。
「いてて。え? なんか不味かった?」
「アタシ等の武器見なさいよ! 剣と刀と槍でしょ!?」
「も、もう一声……?」
「あーもう! 岩の塊に"斬"属性も"突"属性も効くかぁぁぁぁぁぁ!」
「ハンマーとかあればいいんだけどね。しいて言うならきゃみさまの奴が少し"衝撃"寄りかなぁ?」
ゲームシステムをよくわかってない俺に、方やキレ気味に、方や苦笑いで。
なるほど敵によって耐性みたいなものがあるんだな。
「だったら、火力で押し切るとかっ」
立ち上がり様、刀を両手に持ち、下段後方に構える。
姿勢を低く、加速してゴーレムの足元に飛び込む。
「起閃──」
飛び込む勢いに相手の懐で急激にブレーキをかけ、止まり切れぬそれを高跳びの要領で上昇方向に流し、一気に斬り上げる。
以前の戦闘でも使用したことのある対空剣技"起閃飛翔剣"ってやつだ。
本来飛び上がって高高度を攻撃する技なのだが、初歩剣技で有り、単純に威力倍率の乗った"強攻撃"扱いされることも多い。
「飛翔剣ァァァァァァ!!」
ガッキーーーーーーーーーン!!
しかしながら、斬り上げ様、数メートルは上空に飛びあがるはずの身体は敵前で硬直し。
俺の刀の刃はゴーレムの腹のあたりで綺麗~~~にストップ。
無様にも敵の目前で技後硬直を晒し、無防備に動けなくなったそこへ、無情にもゴーレムが横なぎに腕を振るう。
「ぶっ──!?」
いやもう電柱で殴られたような有様で。
俺の身体はゲームキャラクターで、レベルによって多少頑丈ながら、Thebesのゲームシステムは単純な"無敵"を許さない。
どんなに高レベルだろうが人間の皮膚は鋼鉄のように固くはならないし、首を斬られて死なないようにはならない。そう言う意味では立ち回りにだいぶ重きを置かれていると言える。
で、当然のごとく、電柱で殴り飛ばされた生身の人間が無事なはずがない。
俺の身体はサッカーボールみたいに遠慮ない勢いで吹き飛び、数メートルを滑空したのち、無様に転がる。
あばらがひしゃげた様な、骨格が歪んだ様な自覚が、衝撃の後に。
「えふっ!」
倒れ伏して、動けない。
マンガみたいな勢いで、吐血。一撃でこれか。
「なっつん!」
「我が魔王、静青のユミナリエスに希う! 全ての流るる血肉に停滞を! 塞ぎ留め、埋め合わせよ!」
予測で構えていた高坂が、駆け寄り、既に予備動作の終わった回復魔術を即行使する。
以前にも見た獣の頭骨を思わせる髑髏頭の悪魔が現れ、高坂の肩越しに俺を指さし、ありがちに緑色光が俺を包み込んだかと思えば、一瞬にして痛みが引き、脇腹の違和感もなくなる。
魔法──高坂曰く、魔術、か。すごいなー……。
「無茶しないでよ!」
きゃみさまが再び前に出て、ゴーレムの拳を剣の腹で打ち返す。
彼女とて、リアルは素人。よく捌いていると思うが、いつミスらないとも限らない。
「ンなろぉ……」
がばりと飛び起き、口元についた土埃を手の甲で拭う。
「なっつん、相手が生き物じゃないとやる気満々だね」
隣では、何か呆けた様に、高坂。
「打撃、衝撃、えーとえーとえーと……」
要は"斬撃"や"刺突"でなければいいんだろう?
剣技ってものがあるんだ。刀だからって斬撃しか出来ないわけじゃないはず。
俺は再び、刀を下段に構え、力を込めて溜めを作る。
「えっ、なっつん飛翔剣はさっき……」
その予備動作は先ほどゴーレムに対して効果がなかった剣技起閃飛翔剣のそれと酷似している。
高坂は繰り返したところで二の舞だ、と暗に俺を止めようとするが。
「まぁ見てなって……!」
不敵に笑って、俺。
「なんでもいいからはやくしてーッ!!」
と、いよいよ捌き切れないきゃみさま。




