表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

第7回 「上下別で何が悪いっ!」

挿絵(By みてみん)



 今日も今日とてゲーム内。

 目の前にはちょっと眠そうな顔のきゃみさま。


「それで、折り入って相談したいことって何よ」

「いやあの、うん……」


 俺は顔の前で指をちくちくやりながら、歯切れ悪くそう返す。

 今現在直面している問題を、目の前のちょっと頼りになる姉御に相談したい。そう思うもののそれはちょっと恥ずかしいアレで、俺としては口に出すのもはばかられるアレでアレなのだ。


「なによ。アタシだけ呼び出すってことは、今更冬樹君には内緒にしておきたいようなこと?」


 仕方のない妹分を見るようなヤレヤレ顔で、俺の顔を覗き込む。

 俺は意を決して、昨日からこっち、俺を悩ませる問題を打ち明けるのだった。


「あのさ、実は──」



◇◆◇◆◇



「つまりThebes(こっち)での下着選び(・・・・)を手伝ってほしい、と」

「う、うん……」


 ……なのである。


 ヴァルハラ市商業区のマーケットは、平日ながら夏休みの時期でもある為、学生プレイヤーで朝からにぎわっている。

 俺ときゃみさまは人混みをよけながら、連れ立って歩く。


 昨日ちょっとした不注意から、ゲーム内で今身に着けている下着の色が、異性の友人プレイヤーにバレるという失態をやらかした。

 ゲーム内では衣料アイテムの汚染が継続して残ることはなく、洗濯などは流石に必要はない。

 なので俺は一張羅ながら取り換える必要が無いため、下着アイテムなんぞ今身に着けている初期装備の、水色のスポブラみたいなのとショーツ一組しか持っていない。


 しかし、だ。

 このまま友人──高坂冬樹に色のバレた下着のまま、スカートでチャンバラとか羞恥に耐えがたい。


「いっそズボンとか、短パンの重ねばきとか」

「そんな色気の無いことをアタシが許すとでも?」


 きゃみさまがあくまでそんな態度なので、俺は昨日、解散後に新しい下着を用立てるべく奔走していたのだが。


「それが困ったことにさ」

「んー? 何が問題?」


 ちょうど、昨日探し当てた、マーケットの片隅にある"(ノンプレ)(イヤーキャ)(ラクター)衣料品店"に到着する。

 といっても日よけみたいなテントとウッドテーブルの簡易店舗。下着コーナーなんて学校の勉強机程度の面積しかなく。ラインナップは一目瞭然。


 それを見たきゃみさまは"あーなるほど"と溜息をもらす。



「見事に"ひもぱん"しかないわね」



 というわけなのである。

 そういう世界観なのか、店頭に置かれた下着は全て腰の部分にゴムが通っておらず、両サイドを紐で結ぶ所謂"ひもぱん"という奴なのである。

 いやこれとて下着なのだが、羞恥から新しい下着を選ぼうというのにあまりに扇情的というかなんというか。

 そもそも、だったらキャラクターメイク時に選択できた現代的なデザインの下着は何だったのだ。


 しかしお値段はとてもリーズナブルだ。

 一枚100から高いものでも300シルバー程度。

 まぁ食品対価で考えれば割高だったりするのだが、それでも初心者が初めて受ける、討伐依頼の体のバトルクエスト報酬で事足りる程度。


 余談だがThebesでの通貨は一般に(シルバー)である。小さな粗悪貨幣であったり、袋入りの粒銀の体であったり様相は様々だが、取引時には数値で合計額が表示され、困ることはない。


 なんにしろ、だ。


「どうしよきゃみさま。流石に俺、これは恥ずかしくて無理だよ……」

「うーん、そしたら今回もあそこにお願いしてみるかー」


「どこ?」

「"エイジス"」


 俺は首を傾げた。

 "エイジス"っていうのは、ここらじゃ名の知れた服飾職人プレイヤーであるエイジという人のお店だ。

 俺の今着ているセーラー服や、きゃみさまのキャミワンピなんかをオーダーで作ってもらった経緯がある。

 なので伝手を頼って、服屋エイジスに今回の件をお願いしようというのだが。


「エイジさん男の人じゃん。紳士的な人だとは思うけど、流石に女物の下着の相談なんて無理でしょ? っていうか俺が恥ずかしくてできないよ!」


 黒髪オールバック、整った顎髭の二十代後半といった、長身の男性。

 それに下着の仕立てをお願いしている自分を想像して、いやないないない! と、ブンブンと顔の前で手を振る。


 そんな俺を、"あーなるほど"って顔で見て返す、きゃみさま。


「そっか、なっつん見たことないんだ。そういやこないだの時はいなかったわね」

「え? どういうこと?」


「エイジスってご夫婦でやってるのよ。エイジさんにはサキさんって奥さんが居て、今回はそっちにお願いしよってワケ」

「なんと!」



◇◆◇◆◇



 ところ変わって商業区はリバーサイドマーケットの一画、Ages衣料品店。その店奥にある事務室。試着室を兼ねる少し大きめのウッドログの小屋みたいなとこだ。

 目の前にニコニコと佇むのは、ウェーブの強い背中くらいまでのアッシュブロンドを緩くまとめた女性。俺より5センチは高いだろうか。すらっとした細身で綺麗な、エイジさんの奥さん。"サキ"さん。

 きゃみさまに"相談事がある"とだけ中継ぎされてここに至る。


 で、まぁ、なんだ。結局俺は元男でもある訳でして。

 これまた目の前で指をちくちく弄んで、どう説明したもんかと。

 女性に! 女性用下着の調達に困ってますとか!


「いやあの、どう説明したらいいのか……ええと」

「あらあら。まぁまぁ。エイジじゃだめってことは多分"女の子"な困りごとよね?」


 驚異的なお察し力に感謝して、俺は散々どもりながらことの次第を説明するのだった。


「実はかくかくしかじかで──」


 事情を説明するや、サキさんは口に手をやってん~? っと考えるそぶり。


「えーそれならそのままにしておいた方がアピールにならない?」

「だ、だから! 誘惑(アピール)しちゃダメなんですってば! こないだ男女の交際は無理って断ったばかりなのに!」


「あーんもう! 見られたのがアタシならなんぼでも放っておくのに!!」

「あらぁ随分とこじれて……っていうか貴女達よくそれで友人関係が破綻しないわね?」


 いやぁまぁ、いっぺん破綻しかけたんすけどね?

 其処はお互いの懐の広さに感謝ってなもんでして。


「と、とにかく! Thebes(こっち)で普通のゴムのぱんつって手に入らないんですかっ?」

「ある事にはあるんだけど、ここではゴムの下着って貴族階級が身に着けるものなのよねぇ……」


 へ? きぞくかいきゅう? なにそれもしかして超高級品ってこと?

 予想外の答えにちょっと呆けながらも、肝心なところを確かめるべく口を開く。


「お、おいくらまんえんくらいで……」

「んー。上下一組で5000シルバーからってとこかしら?」


「ぶへぁ!?」

「ひゃー! 流石に手が出ないわね! なっつん、アタシも1000くらいしか貸せないわよ?」


 な、なんだそれは! そんなのメイン武器を買い替えておつりがくるじゃないか!

 さすがにゲーム内通貨とはいえ、下着一組にそんなに出してる余裕はないぞ。


「し、"下"しかバレてないと仮定して、ショーツだけバラで買うとか……」

「上下別の下着とかそんな怠慢、アタシが許さないわ……?」


「だ、だけどきゃみさまぁ。ていうかそんなにいけない事なの? 上下別って」

「んー、究極組み合わせ次第だし、その人の自由だけど。ここでは下だけ汚して先にダメになっちゃうとかもないし。組で売ってるものをわざわざバラバラに買うとかは流石にしないわ」


「まぢすか」

「あたしならって話なら、とんでもなく油断してる時くらいしかしないわねぇ? たとえば"今日はもう絶対人前に出ないぞー"って時くらいかしら」


 うぐ。おんなのこめんどくさい。

 たしかに組で使うものだし、以前みたいな"ノーブラ強行"みたいな事でもしない限りそのタイミングがずれることも無いわけだけど。

 そもそもの昔は上の下着なんて必要のない立場だったわけで。


 ──っていうか少しも膨ら(・・・・・)まなかった(・・・・・)くせに! こんなのってちょっと理不尽じゃあないか。とほほ。



「じゃあ、下着の買い替えに為にわざわざお金稼ぎするしか……」

「そこで! Ages(ウチ)の出番ってわけ!」





「ふぇ……?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ