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第68回 「いんたーみっしょん的な屋台で頼れる兄貴と中華そば」



 笑ってりゃ美少女。

 黙ってりゃ美少女。

 座ってりゃ美少女。


 改めて、なんつー三人組。


 でもよかった。

 高坂が俺を好きだって言ってた理由には、正直驚いたけど。

 俺たちまた。まだ。友達でいられるんだ。って。


 三人でラーメン喰いながら、今後の相談とかしてさ。

 リアルで服買うとかは、今すぐはちょっと敷居高いから、それはおいおいって事で。

 じゃあまずは明日からThebesでお金稼ぎだねって。

 ゲームでならある程度ファッションにかけるお金を捻出しやすい。それでいてThebesのリアルさであれば、現実の代替ファッションチェッカーとして申し分ない。

 

 いや凄いゲームだよなぁ。


 それはそれとしてらーめんうまかったな。

 実はめっちゃ久しぶりに食べたんだよ。らーめん。

 なんで久しぶりかって、そりゃあ、さ。



◇◆◇◆◇



「で、それを愚痴りにここ来たの?」



 ウンザリ顔でそう零すのは短い金髪に頭グラサン、スリムのジーンズは似合うが、シャツには例によって謎の文言。ケンちゃん氏。


 "スシが食いたい"


 いや、これ毎回別のアイテムなのか。それとも日によって表示が変わる類の装備品なのか。

 まぁそれはこの際どうでもいいとして。


 高坂たちとすったもんだあったその夜。

 Thebes(ゲーム)内、ヴァルハラ市商業区はマーケットのケンちゃん武器防具店にて。

 昼に食った、きゃみさまお薦めのお店のラーメンがめちゃくちゃうまかったのもあって。俺は一人、女の一人飯のしづらさに対する愚痴を垂れ流しに。


「だぁって。俺、らーめん大好きだったのに、女一人で食ってっとなんか白い目で見られるんすよ」

「ん-まぁ、むかしっからそういう風潮はあるな?」


「あの"女が一人で飯食うと恥ずかしい"ってのなんなんすかね? 別に誰が何処でどう食おうが勝手だと思うんですけど」

「うーん、俺が聞いた話だと──」


 やれ、女は誘われて飯を食いに行くもんだ。女が一人で食ってんのは連れ添う恋人もいない寂しい女の証だ、とか。

 そもそもトイレも一緒、道歩くのも横一列の女の子の世界で一人で飯食いに行くのは"出し抜いてる"ことになるんだ、とか。"裏切者"なんだ、とか。

 女が一人で外食なんて男から見たら"生意気"なんだ、とか。


「とかなんとか」

「うぇ。なんすかそれ、めんどくさい」


「ナツヒコはそう言うのないのか? 女特有の仲間意識って言うか、連帯感みたいなの」

「えー? 例えばきゃみさまが、店のガラス越しに一人でラーメン喰ってるの見たら"うわずるい、俺も誘ってよ"くらいの感想は出ますけど」


「そういうもんか?」

「そうですよ」


「わりとちゃんと(・・・・)元男してるのな……」

「あーぁ。Thebesにラーメン屋があったらなぁ。隠れてこっそり通い詰めるのに」


 そうぼやいてみれば。

 なんだかギクリとしたようなケンちゃん氏。

 目を泳がせ泳がせ、何だか白々しくもそ知らぬふり。

 いや嘘がつけねぇ人だなこの人も。


「あるんすか!?」

「あ~~~~…………る、よ?」


 白状するように、ケンちゃん氏。

 俺は食い気味にケンちゃん氏に詰め寄って。

 対して面倒見のいい兄貴は、所謂シケた面って奴。


「お前ぇ、女の子がラーメン情報ひとつで目ぇキラキラさせてよぉ」

「だぁーって」


 下から覗き込むようにして、唇を尖らせてみれば、街鍛冶師はヤレヤレと後ろ頭を搔く。


「てか渋る理由は何です? 一日何食限定とかであんまり他人に教えたくないとか?」

「いやぁ、んなこたぁねェし、すこぶる美味いんだが」


「だったら──! ……うん?」


 ふと、ケンちゃん氏が黙ってしげしげと、俺を見降ろしているのに気が付いて。

 え、なんだよ今さら、この人が俺を品定めするみたいに。

 俺の身体がちんちくりんなことなんて、今に始まった事じゃないし、知ってるだろうに。


 視線にいやらしさは感じなかったが、なんとなく気になって胸元を隠してみれば。


「ん? あ、いや、すまんすまん。──腹の方(・・・)」


 ──なんて、言うもんだから。


 瞬間、赤面。

 こう、シュバって。

 袴の上からお腹に手をやって。


「え!? で、出てます!?」


 そういやここ最近、現実にカロリー持ち越さないからって、Thebesで無茶な飲食してたなー、なんて。

 晩餐会では散々食った後、でっかい骨付き肉にかぶりついてたし。


 "やりすぎればアバターの体型も変わっちゃうわよ"


 なんて、きゃみさまに脅されもしていた。

 恥じ入り恥じ入って、しゅーん、と小さくなっていれば。


 横手から噛み殺すような笑い声。

 ぴ! わらった! ひどい! これでもちょっとは気にしてんだぞ!

 涙目拗ね顔で金髪の鍛冶師を見上げる。


「くくく。いや、それでいてちゃんと女の子もしてる(・・・・・・・)んだなってさ」


 ひとしきり腹を抱えて笑われた後、徐に頭ポンポンされる。

 おのれ、アンタだから許してんだぞ。


「元が細すぎなんだからちょっとくらい肉付けた方が良いって、お前は」

「むぅ。それ、フォローなんスか」


「いや、そのラーメン屋な。すっげぇ量が多いんだ。むしろ食い切れるかって心配してた」

「なぁんだー」


 息を吐いて、脱力。

 隣では、ケンちゃん氏がいそいそと出掛ける準備をしていて。


「魚出汁の醤油、中華そばみたいな蕎麦麺。──苦手じゃないか?」

「え、あ、だ、大丈夫、です」


 仕事用──ゲームの中で何だが──鍛冶用のグローブやハーネスを外して、マーケットの雑踏に向かう背中を、俺は慌てて追いかけるのであった。



◇◆◇◆◇



「でっ───!!!!」



 つい巨乳の女の子を見た時のおっさんみたいな台詞が出掛け、たし、と口元を押さえて踏みとどまる。



 マーケットのメインストリートから外れた、所謂裏路地。

 いや、これ、後で自分一人で来ようにも、女一人で歩きづらいとこだなーなんて思ったりしてたら。


 "NPCが屋台でやっててさ、夜しか居ねぇんだ"


 うぐ。リピートしたい時はきゃみさまと高坂もつれて来よう。


 屋台、というか程よい塩梅に年季の入った、木製のカート自体は結構でかくて。

 備え付けられたカウンターには、詰めれば5人くらい並べそう。今は俺たち以外には客はいない様子。

 メニューは何だかシンプルで、おでんだの、焼き鳥だの、呑み助がつまみにしてそうなものの中にポツンとただ「醤油蕎麦」と。

 俺一人で初めてここを訪れたとして、きっとそれが"ラーメン"だとは思わなかったろう。


 飲食街の定番串焼き肉が15シルバー。

 マーケット入り口のケバブサンドが30シルバー。

 そんななかきちんとした食事というか、一品料理というか、にしたってそこそこ値の張る120シルバー。


 結構するなぁなんて思いながら、まぁ大盛とかしなければ大丈夫やろってケンちゃんさんと二人、2人前注文した。

 ケンちゃんさんケバブサンドの時、2個くらいよゆーとか言ってたけど、並盛なんだなーって、横目に何げなく見てたくらいで。


 で、ねじり鉢巻き、少しやせ形、ちょっと無精ひげに、作務衣姿のオヤジさんが、へいお待ちーってカウンターに丼二つ置くんですよ。


 いやでっっっっっっか!!!!!


 カウンターに置かれた丼はなんていうか巨大(・・)で、ちょっと深底な感じのやつ。どんな規模かって言うと俺の頭部が丸ごと沈みそう。

 え、俺、並盛頼んだはずって言うか、大盛とか注文してないですよね? って焦り焦ってすぐ横のケンちゃん氏に確かめてみれば。


 "いや、これで並盛なんだよ"


 と。

 いや事前に聞いてたよ?

 量が多いって、ケンちゃんさんも言ってた。

 でもいくらなんだって、こんな、袋ラーメンで言うと3つも4つもぶち込んだようなのが来るとは思わないじゃん?


 流石に戦々恐々。しかし。

 いやいや俺、らーめん大好きだし!

 行ける行ける! ってとりあえず箸付けちゃったんだよね。


 煮干しがガツンと効いた、魚出汁の薄口醬油のスープはあっさりで、蕎麦っぽい麵もあいまって、普通であれば"いくらでも入りそう"ってやつ。

 鳴門の代わりに、なんだかよくわからない魚肉のすり身の練り物。塩気が程よくて美味しい。叉焼のかわりにヤクーの背肉と思しき薄切り。程よい嚙みごたえと脂。あっさりスープの中で絶妙なアクセント。

 半チャンの煮卵も嬉しい。メンマの代わりだろうか、ピクルスっぽい根菜の酢漬けが味に飽きを来させなくて。


 いや、うンンンまい!


 ずぞり、まくまくと。

 着々と掘り進めるも、しかしながらやはり、量が量。


 情けなくも俺は、半分くらいで箸が止まってしまい。複雑な思いで丼を見下ろす。予想するに絶対完食は無理。

 無理すればもう少し入らなくもないが、これ以上詰め込めばそれは"美味しさ"とはかけ離れた感想になるだろう。


 金払ってるし、作り手はNPC。

 しかしながら俺にって供された料理を、食べきれずに残してしまう事に、罪悪感がないわけではない。


 丼を前にウンウン唸っていると、横手から声。


「なぁ、それ、食い切れねぇなら、オレが食っていいか?」


 いつの間にか、自分の分は既に平らげて、ケンちゃん氏。


 そう言われて、はっと気が付く。

 そういやこの人。この人、も、並盛頼んでた。

 量が多いってわかってたはずだし、きっと、俺が食べきれないの、わかってた。


 ホント、敵わないな。この人の前では俺は"仕方のない妹"みたいなもんで。

 量が多いって最初から言われてんのに、勢いで"ラーメン食べたい!"って。

 思い返せば自分の立ち回りが恥ずかしくなって、俺はちょっと、顔赤くしちゃってたんだろう。


 ケンちゃんさんは少し困ったような顔で。


「あ、あー。もしかして"同じ皿を男が突(つつ)く"みたいなの、気になる?」

「え、"間接キス"みたいな奴ですか? いえ、それは全然」


「お前ぇ、せっかくオブラートに包んでんのによぉ」

「ふふ。すみません。じゃあ、おねがいします」



 そそくさと丼をそちらに寄せれば、徐にそれを引き寄せて。

 結果的にケンちゃんさんは袋ラーメンで言う所の5、6食分くらいの麺を平らげてるんだが。

 いやはや、男の人ってすごいな。なんて。


 ──いや、なんだよ。"男の人"って。

 ふと、変わらなければ、自分もあのくらい食べてたろうかって。

 隣で勢いよく麺を啜る、頼れる兄貴の横顔を眺めて、つい笑いが漏れる。



 "そんな兄弟、いたら楽しかったろうな"


 なんて。

 自分が女性に(こう)なって見なければ、思いもしなかったんだろうな、って。

 




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