表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/61

第57回 「運河沿いのベンチで女子が二人話すだけ」



「重荷に──なってないかしら」

「おもに?」



 翌日。

 Thebes(ゲーム)内。

 ヴァルハラ市。商業区。リバーサイドマーケット。


 運河沿いのベンチ。


 待ち合わせたきゃみさまが、なんだか浮かない顔をしていて。

 そんで「どうしたの?」って。

 その物の次いでで「昨日ケンちゃんさんに何か言われたの?」って。


 そんできゃみさまが重い口を開いたかと思えばそれだ。

 おもに?

 俺はマーケットの入口の屋台で買った、たこやき──の、様な物で方頬を膨らませたまま。

 もにもにもにもにもにもにもに。


「あの、割と真面目なお話をしてるつもりなのよ」


 げんなりした顔で言われ、流石にアレか、と急いで口の中のモノを飲み下す。

 ごっくん。


「重荷って、なにが?」

「昨日、さ──」



 曰く、昨日。

 白羽根と薔薇十字の合同立食パーティーで。

 声も届かぬ人ごみのその向こう側。


 "あ~~~~~! またそんなはしたない食べ方して!"

 "ぎくぅ!?"


 ──のその後に。

 とっちめてやるんだから! って勇み足を踏み出すきゃみさまを、高坂が止めた。

 振り返れば、無言で首を横に振る高坂。

 さらには"いつから居たんだよ"ってタイミングで横手からケンちゃんさん。

 諫める様にきゃみさまの肩を叩いて。


 "キミはあの子を女の子にしたい(・・・)みたいだけど"


 ハッっとして、きゃみさまがケンちゃん氏を振り仰げば。

 彼は遠く離れた俺──なつぴこを指さして。


 "なんだったらさ、ああいう顔してた方があいつ──可愛い(・・・)と思わない?"


 口や袖を脂で汚して、歯を見せてマリーさんと笑い合う。

 そんな俺を見て。


「そうかも……って。思っちゃったのよ」

「え。ケンちゃんさんそんな事言ってたの?」


 又聞きで伝えられる"可愛い"発言に、俺は頬に手をやって赤面。

 今となっては喜び半分、反発半分、実に絶妙な気分だ。

 いやまぁ、彼のことだからきっと、恋愛感情なんてみじんもない顔でそれ言ってるんだろうなって。


「今はそっちが本題じゃなくって」

「え? あ、うん。それでなんで重荷?」


 俺が心底察しが行かないって顔で返せば。

 向こうも向こうで不服そうな顔。


「ねぇ、なっつん」

「うん」



 そこに、気の遠くなる様な間があって。



「女の子のフリ(・・)するの、つらい? アタシ、無理強いしてる……かしら」

「あー……」


 なるほどそういう重荷。

 俺は腕を組んで。

 これ見よがしに悩んでますアピールしながら。


「んー。んーんー」

「何よその反応」


 何なら答えは決まっちゃいたんだけど。

 安易に答えてんじゃないよってポーズの為ではあるんだけど。


「やっぱり、一概には言えないよ」

「煮え切らないわね?」


 これを。

 口に出すのは。

 もしかしたら初めてなのではないか。

 今までずっと思ってたけど、もやもやして形になっていなかったもの。


 それがその瞬間。言葉にして吐き出すことで。

 何か少しでもはっきりしたものになるような気がして。


「俺──」


 ──


 ────


「"俺"は、やっぱり女の子じゃない(・・・・・・・)んだよ」

「! ──どういう、こと?」


「なんて言ったら……その、うまく言葉に出来るかわかんないんだけど──」

「聞くわよ」


「うん、聞いて」



 きゃみさまに教えてもらって。

 "女の子"ってのはこういうもんだ。

 こう過ごすのが普通なんだ。こう感じるのが普通なんだ。

 最初は反発もありつつも。


「でもさ──」


 でもそれが可愛いと思ったり。

 なんだかキラキラして見えたり。

 甘かったり、心地よかったり、そう言うのも悪くない、なんて。


 もちろん、鳥山先生が言う様に、身体はまるっと女性のそれだから、そうだという事に(・・・・・・・・)しておいた方が体裁が良いのもあって。

 社会に溶け込みやすいのもあって。


 "ああ、女の子な自分も悪くない"


 一旦はそう思った。

 よし、女の子になろう。

 もうなるしかない。なった方が良い。その方が収まりが良い(・・・・・)。きっとそう。


 ……って。


 でも。

 だからって。

 "神谷夏日子"になる為に、"神谷夏彦"がまるっと犠牲になって、ただ消えてしまうのは。くやしいな、って。


 あるとき、そう思った。


「ケンちゃんさんに、言われたんだ」


 女の子の"嬉しい"も欲しいけど。

 男の"嬉しい"が要らなくなったわけじゃない。

 "どっちも欲しい"ってのは贅沢ですか? 傲慢ですか?


 そんな風に愚痴ったら、彼は困った顔をして。


 "男の欲求も女の欲求も併せ持つ人間なんて、お前しかいないじゃないか"


 "贅沢──傲慢って誰と比べて(・・・・・)だ?"


 ──そう、比べるもう一人なんて、望んだってどこにも居やしないのに。


 "だからさ、お前はお前の「こうしたい」ってのを、もっと口に出していいんだよ"


「ってさ」


 男でも女でもない中途半端な生き物だった俺。

 そんな"中途半端"は、人間社会では許されない(・・・・・)のだと、思っていた。

 それを、彼に肯定されることで、なんていうか、すごく安心したんだ。


「今の俺はほぼほぼ女の子なんだけど、厳密にはちょっとだけ違う、何か(・・)で。それでもいいんだ。って。思ってる」

「でも──」


「それにきゃみさまだって」

「え。アタシが、何──」


 生理が来るかもって件で。

 "アタシは欲しい、羨ましい"

 "だろうね。でも俺は要らないんだ"

 それでいい(・・・・・)。それでいいじゃないか。


「──ってさ」

「たしかに。言ったわ」


「きゃみさまが俺を女の子にするために言ってくれること、9割うれしいし、すげぇ助かってるんだ」

「そう……」



「だからさ。それでも俺はまるきり女の子(・・・・・・・)じゃない(・・・・)から、たまには"ヤダ!"って言うかもしれないけど」

「うん」


「きゃみさまのこと、全然重荷じゃないし、そのままで居てほしいんだよ?」

「そう──」


「うん」

「──ありがとう」


「? なんで、ありがとう?」

「アタシも、うれしい、と、思ったから」


「そっかー」


 努めて笑顔を崩すまいとする俺の横で。

 なにやら安心したような顔。


 ああ、彼女も。

 彼女みたいな強い女性(ひと)でも、不安はあるんだな、と。




「それにさー」

「え?」



「きゃみさまだって、ホットドッグ買い食いして、食べ歩いたりするけど、可愛い(・・・)じゃん」

「!!!? ア、アンタ……!」


 彼女とてこんなタイミングで"カウンター可愛い"を食らうとは思わなかったろう。

 面食らったような顔から、恥ずかし誤魔化し怒り顔。


 フフ。可愛い。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ